2017年大会 山について



5区について

今大会最も注目されているポイントが5区の短縮でしょう。

小田原中継所の位置がメガネスーパー前から鈴廣に変わったため、前回までと比べて2.4km短くなったとの事です。

しかし、2006年に中継所の位置が鈴廣からメガネスーパー前に変わり、その時は2.5km延長とされていました。矛盾していますね。



変更距離が何kmなのかは置いておいて、今回からの5区の傾向ですが、結論から言うと、有力チームに山の神が新しく生まれれば5区でレースは大きく動くでしょうし、生まれなければそこまで動かないでしょう。

当たり前のようですが、元々5区が23km超の距離だった頃も、山の神を除けば、勝負を決める程の大差はついていませんでした。

青学大・神野選手が卒業し、現役の山の神が不在となった今大会は、新たな神が現れなければそこまで5区の影響力はないでしょう。

新たな神探しはどこのチームもやっていると思いますが、神とまで呼ばれる天才選手は探しても簡単に見つかるものではないでしょうから、今大会では現れないかも知れません。

でもそれは5区の距離が23.2kmか20.8kmかとはあまり関係がないかと思います。

短くなった事で、途中棄権や大ブレーキといった痛ましい場面は減るでしょうから、そういう意味で影響はあると思いますが。



2005年大会、山の神が箱根の山に初登場しました。

順大・今井選手が驚異的な走りを見せて、区間記録を2分17秒更新し、その年の区間2位には3分38秒差をつけました。

今井選手が走ったのは2000年〜2005年コースですが、僅かに距離が違う1984年〜1999年コースを含めての歴代トップ3は以下の通りです。



歴代1位 今井(順大) 69分12秒

歴代2位 小林(早大) 70分27秒

歴代3位 奈良(大東大) 71分13秒



今井選手は、20年以上の歴史を積み重ねた5区のランキングの中でも、歴代2位に1分以上、歴代3位に2分以上の差をつける走りでした。

有力チームにこういう走りが出来る選手が現れれば、また5区で勝負が決まる可能性が高いと思います。

5区の距離が21km弱であっても、山の神がいるチームは、いないチームに対して5区で致命傷を与える事が出来るのはすでに証明されています。



ちなみに2005年大会まで使われていた2000年〜2005年コースと、今大会からの2017年〜コースの違いは、小田原中継所の中継ポイントの位置が微妙に違う事と、コース序盤にあった函嶺洞門を通らないルートに変わった事で、ほぼ同じコースと見て問題ありません。

中継ポイントの違いはおそらくは微々たるものだと思います。

函嶺洞門を迂回することで距離は今大会の方が約20m長くなっています。

今井選手のタイムは今大会で言えば69分15秒くらいになります。



1996年大会、早大・小林選手が当時の区間記録を塗り替えました。

小林選手の記録は、9年後に今井選手が現れるまでは、別格の大記録として君臨していました。

小林選手の走った1984年〜1999年コースは、4m延長されて2000〜2005年コースになっています。

小林選手のタイムは今大会で言えば70分31秒くらいになります。



2015年大会で驚異的な爆走を見せた青学大・神野選手。

私はあの時の神野選手の走りは、大学駅伝史上最高の走りだったと思っています。

神野選手のタイムを現在の距離に換算すると、距離の違い2.4km説を採用すれば68分21秒、2.5km説を採用すれば68分04秒になります。



神野選手レベルの68分台、

今井選手レベルの69分台、

スーパーエースレベルの70分台、

山の神を除いて一流レベルの71分台、

好走したと言われるレベルの72分台、



今大会の5区の区間賞レベルはわかりませんが、新たな山の神が生まれなければ71分台あたりでしょうか。

山の神の1発だけで勝負が決まってしまうのはあまり好きではありませんが、5区のレベルが大きく下がってしまうのも寂しいものがあります。

個人的にはシード権を狙うレベルのチームに今井選手レベルの山の神が生まれると面白いと思うのですが。





・6区 日体大・秋山選手

山下りの6区がかつてないほどに盛り上がっています。

山下りの本命は当然、前回区間新記録の走りを見せた日体大・秋山選手です。

前回の区間タイム58分09秒は、現在のコースや、現在と20mちょっと違う程度の旧コースを含めても歴代最速記録です。

しかし、100m以上の違いになると最速とは断言できなくなるのが難しいところです。



1983年に日体大・谷口選手が57分47秒という記録を出したコースは、その後1986年に0.1km延長されて1986年〜1999年コースになり、さらに4m延長されて2000年〜2014年コースになり、さらに約20m延長されて今大会でも使われる2015年〜コースになります。

距離の差を約124mとすれば、時速20kmで走れば22秒ちょっとになり、谷口選手と秋山選手は同タイムになります。

しかし、1986年の0.1km延長が正確に100mとは思えません。

駅伝の距離表示は0.1km単位なので、それよりも下の10mの位は四捨五入されている可能性が高いです。

50m〜140mまでの可能性が考えられるので、谷口選手のタイムは現在の6区で言えば58分00秒〜58分16秒くらいになると考えられます。

58分を切る事が出来れば歴代最速となれるのでキリが良いですが、個人的には秋山選手には57分46秒以内の記録を狙って欲しい。

谷口選手の時代と比べてコースが長くなっているのは確実なので、より長くなった現在のコースで57分46秒以内の記録を出して、誰も文句のつけようのない完全な歴代最速記録を作って欲しいと思います。





・6区 青学大・小野田選手 中央学大・樋口選手

本命秋山選手に対して、対抗は青学大・小野田選手、それに中央学大・樋口選手です。

前回は1年生で58分台を記録した両選手。

今年はどこまで記録を伸ばしてくれるでしょうか。

陸上雑誌によると、小野田選手は昨年秋山選手が出した区間記録を軽く超えるタイムを想定しているとか。



過去の1年生60分切りを達成した選手とその翌年のタイムです。

佐藤(東洋大) 59分45秒→60分39秒

金子(大東大) 59分58秒→59分47秒

野村(中大) 59分49秒→58分54秒

千葉(駒大) 59分44秒→58分11秒

小野田(青学大) 58分31秒→?

樋口(中央学大) 58分47秒→?

現在とは違うコースも含めていますが、1年時を上回る事が多いです。

小野田選手、樋口選手の場合、元のレベルが高いので、常識的に考えて千葉選手や野村選手のように大幅にタイムを伸ばすのはちょっと難しいかも知れません。

しかし、1年生59分切りという「非常識な記録」を出した2人なので、可能性はあるでしょう。

案外、58分切りを達成出来る可能性が高いのは、秋山選手よりもこの2人の2年生の方かも知れません。





・57分台のペース

日テレの記録速報で定点タイムが公開され始めた1997年大会以降、6区を58分20秒以内のタイムで走った事のある選手の小涌園、大平台、函嶺洞門、小田原中継所のペースです。

現在とは少し違うコースも含まれますが、58分20秒以内の記録は過去6例ありました。



中澤(神奈川大) 1999年

小涌園26分29秒

大平台37分53秒(11分24秒)

函嶺洞門47分16秒(9分23秒)

小田原中継所58分06秒(10分50秒)



千葉(駒大) 2011年

小涌園27分06秒

大平台38分29秒(11分23秒)

函嶺洞門47分44秒(9分15秒)

小田原中継所58分11秒(10分27秒)



千葉(駒大) 2013年

小涌園27分04秒

大平台38分36秒(11分32秒)

函嶺洞門47分56秒(9分20秒)

小田原中継所58分15秒(10分19秒)



廣瀬(明大) 2013年

小涌園26分40秒

大平台38分12秒(11分32秒)

函嶺洞門47分47秒(9分35秒)

小田原中継所58分19秒(10分32秒)



廣瀬(明大) 2014年

小涌園26分35秒

大平台38分06秒(11分31秒)

函嶺洞門47分40秒(9分34秒)

小田原中継所58分16秒(10分36秒)



秋山(日体大) 2016年

小涌園26分31秒

大平台38分05秒(11分34秒)

函嶺洞門47分31秒(9分26秒)

小田原中継所58分09秒(10分38秒)



少しコースの違いはありますが、並べてみると千葉選手のペースが異彩を放っています。

小涌園を27分以上のスローペースで通過し、一転して大平台から小田原中継所までは19分40秒前後というハイペースで走っています。

他の選手は20分も切れていないのだから、千葉選手の後半の伸びは凄まじい。

ちょっとペース配分を間違っているのではないかと感じるほど、前半と後半でペースが切り替わっています。

2013年大会は、若干追い風の影響もあったかも知れませんが。

もしも大平台から中継所までを千葉選手並みの19分40秒で走れたとすると、中澤選手、廣瀬選手、秋山選手は57分台が出ます。



千葉選手の後半の伸びは素晴らしいですが、逆に言うと、小涌園通過タイムが遅ければ、千葉選手並みに後半のペースアップをしても58分10秒台止まりになってしまうという事になります。

57分台を出すためには、まず小涌園で遅れていてはならないのです。

しかし、小涌園までをハイペースで飛ばすと、そのツケは後で必ず来ます。

前半に飛ばした中澤選手は後半にペースダウンし、後半に強かった千葉選手は前半が遅い。

この2つを両立させるのは並大抵の事ではなさそうです。



大平台までを中澤選手や秋山選手より少し遅い38分10秒で通過し、大平台〜小田原中継所を千葉選手より少し遅い19分50秒で走り切っても、57分台にはギリギリ届きませんが、後1秒をどこかで稼ぐ事が出来れば、夢の大記録に到達できます。

過去の例を見ると57分台を狙うのに理想のペースかと思います。



やはり57分40秒〜50秒辺りの記録と、58分00秒〜10秒辺りの記録では、一見近そうに見えて、かなり大きな隔たりがあると感じます。

57分50秒台ならば、現代の選手のレベルを考えれば、近いうちに出ても不思議ではありませんが、それ以上の記録となるとこれまでの常識では難しい。

中澤選手並みのペースで前半から飛ばし、それでいて千葉選手並みのペースで後半を駆け抜けないといけない訳ですから。



しかし、前回大会では1年生58分台というこれまでの常識では考えられない記録が2つも同時に出ました。

絶妙なペース配分で出される57分59秒より、かつて今井選手が山上りで見せたような、常識を覆す飛躍的な大記録の誕生に期待したいです。





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