２０１８年大会感想２

２０１８年大会の感想　（２）

普通の感想です

目次

①　青学大　ＶＳ　東洋大

 ②　平均区間順位

 ③　１区について

 ④　２区について

 ⑤　４区について

 ⑥　５区について

 ⑦　４区、５区、タイムで見る走りの価値

 ⑧　青学大・小野田選手

 ⑨　青学大・林選手

 ⑩　１０区のシード権争い

 ⑪　強まる先行策

 ⑫　風のシーズン

 ・　青学大　ＶＳ　東洋大

青学大と共に優勝候補３強と言われた神奈川大、東海大が序盤で早くも優勝争いから消えて行き、結局は王者・青学大が格の違いを見せつけて優勝した今大会。

青学大に一矢報いる往路優勝を達成し、総合準優勝の成績を残したのは、前評判では４位候補だった東洋大でした。

今回の東洋大の１区～４区タイム４時間１４分１３秒は、１９９５年に早大が区間新記録３連発を見せた時に残した４区までの最高記録４時間１４分４５秒を上回っていました。（山は別物ですから往路記録よりも１区～４区記録の方が括りとしては良いと思います）

１区～４区に主力を投入し、４区を終えた時点で歴代最速ペースで突っ走り、後は逃げるだけ逃げるという思い切りの良い戦いぶりでした。

ちなみに青学大の１区～４区タイム４時間１６分１６秒も歴代３位相当の記録です。

これより速く走ったチームは今回の東洋大と９５年の早大だけです。

４区を終えて東洋大に２分以上の差をつけられた青学大は苦戦しているように見えますが、単に相手が速過ぎただけでした。

９５年に中村選手、マヤカ選手、井幡選手を１区２区４区に投入した山梨学大ですら４時間１６分２４秒ですから。

青学大が箱根駅伝史上６校目の総合４連覇を達成した後に、３年連続総合準優勝のゴールテープを切った東洋大。

東洋大の成績も今年でついに１０年連続の総合３位以内を達成し、陸上雑誌によるとこれも箱根駅伝史上６校目（７例目）の偉業だそうです。

かつて１１時間０３分台の大会記録が破られない時代が長く続きましたが、早大が１０時間５９分台の大記録を出し状況を打破。

しかしそのたった１年後に１０時間５１分台という目を疑う記録を出したのが２０１２年の東洋大でした。

永久不滅かと思われたその記録を上回ったのが、２０１５年の青学大で、記録は１０時間４９分台。

東洋大、青学大は他にも１０時間５２分台～５３分台を１度記録した事があり、この２校の強さは異常です。

３分差がつけば距離は１ｋｍ差ですから、ほとんど勝負になっていない大差です。

仮に１１時間切りを達成したチームがあっても、それを相手に、３分どころか、６分～１０分も引き離せる記録を２回ずつも出した事があるのですから。

そろって史上６校目の偉業を達成したこの２校は、やはりこれまでの箱根駅伝の常識を超えた特別な何かを持っているのかも知れません。

ここ３大会は青学大、東洋大で常にワンツーフィニッシュですが、この２校の差はやはり「速さ」だと思います。

今大会最速の東海大がほとんど優勝争いに絡む事なく敗れていったように、基本的には駅伝では速さ（純粋な走力）よりも強さ（勝負強さ、悪条件でも走れる精神力）の方が大事と言われています。

１区間が２０ｋｍ超の箱根駅伝では尚更です。

速さは持ちタイムなどのデータに現れますが、強さは数値化出来ないため予想しづらいですが、この２校の差はデータでの予想と近くなるケースが多く、強さを「走力をしっかり出せる安定感の高さ」と仮定すれば、データ通りになるという事は強さは互角に近いと思います。

両校の差は、元々持っている速さの差が出ていると考えるのが自然かと思います。

以下は過去３大会の現実のタイム差と、当時発表した予想です。

２０１８年大会

現実の両チームのタイム差　４分５３秒

全日本のタイム差の２倍　２分１４秒

１万ｍの平均タイム差の２０倍　５分０３秒

駅伝ＳＬＧの予想タイム差　３分０６秒

２０１７年大会

現実の両チームのタイム差　７分２１秒

全日本のタイム差の２倍　９分０８秒

１万ｍの平均タイム差の２０倍　６分０９秒

駅伝ＳＬＧの予想タイム差　１０分２８秒

２０１６年大会

現実の両チームのタイム差　７分１１秒

全日本のタイム差の２倍　２分０８秒（東洋大が勝利）

１万ｍの平均タイム差の２０倍　９分１５秒

駅伝ＳＬＧの予想タイム差　９分４８秒

４連覇を達成した青学大も、１０年連続３位以内を達成した東洋大も、その「強さ」は尋常ではないでしょう。

次回の箱根でどちらが勝つかは、それは次回の箱根駅伝そのものよりは、始まる前の段階で、両校がどれだけチームの「速さ」を高めることが出来るかにかかっている気がします。

・　平均区間順位

２位の東洋大は往路優勝以外にも青学大に勝ったポイントがありました。

それは１０区間の平均区間順位です。

優勝した青学大が平均３．６位に対して、東洋大は平均３．５位。

２位チームが優勝チームの平均区間順位を上回る「ねじれ現象」は前回は２００９年大会で起きています。

この時は優勝したのが東洋大で、２位早大が優勝した東洋大の平均区間順位を上回りました。

２００９年大会では１位と２位の差が４１秒という僅差だったので、平均区間順位でどちらが上でもおかしくはありませんが、今大会では１位と２位で５分近い大差がついています。

それでも今大会の東洋大は平均区間順位で勝ちました。

言い換えれば平均区間順位で勝ったのに優勝出来ませんでした。

これは、「区間順位の差以上のタイム差」を青学大につけられたからです。

また東洋大は青学大に対して「区間順位の差ほどのタイム差」をつけられませんでした。

７区が良い例で、区間順位では青学大１位、東洋大３位で大きな差はありませんが、タイムでは両チームの差は２分３６秒もありました。

他にも青学大と東洋大の５区と６区は、どちらの区間も青学大が４つ区間順位が上ですが、タイム差は５区が１分２７秒、６区が１分２８秒と大きくついています。

逆に、東洋大は４区や９区の区間順位で青学大に勝っていて、４区では７つ、９区では６つも順位の差がありますが、タイム差では４区が１分１７秒、９区が５３秒であり、それほど大きな差はついていません。

稼ぐべきところで稼ぎ、凌ぐべきところは凌ぐ、そんな青学大の戦い方が上手かったという印象です。

しかしそれでも平均区間順位１位というものは価値が高いと思います。

例えタイムが悪くても、区間賞や区間上位の成績には価値があります。

そんな区間順位の好成績が積み重なった結果が平均区間順位１位なのですから、もっと称えられても良いのではないかと思います。

平均区間順位最優秀賞とか作って欲しいですね。

復路優勝以上に地味なタイトルになる気もしますが・・・。

・　１区について

今大会の１区も、スタート区間特有の難しさを感じました。

スタートからずっと先頭を引き続けた順大のエース格である栃木選手が終盤のトップ争いについていけず、１７ｋｍ手前でスパートした青学大・鈴木選手も抜け出しきれず、栃木選手の作ったハイペースの集団に身を潜め、鈴木選手がスパートした時も慌てずにチャンスを伺っていた東洋大・西山選手が区間賞を獲得。

前回はエース級が出場したのにスローペースになり、「消極的な１区」にエース級を使う事の危険性を感じましたが、今回は逆に１区で積極的に走る事の危険性を感じました。

しかし、順大にしてみれば、栃木選手を使ったのにスローペースになればエース級の無駄遣いになってしまうし、栃木選手以外を１区に使ってハイペースになれば大きく出遅れてしまう危険もあり、栃木選手を使って１０位で終わったのは、もうこれは仕方ないとしか言い様がないと思います。

栃木選手を使って先頭から３６秒差で１区を終えましたが、３０秒ちょっとの差で難しい１区を乗り切れたのだから、失敗レースとも言えないでしょう。

エース格の栃木選手以外に１区をしっかりと任せられる選手を育成する事が出来なかった時点で、今シーズンの順大はピンチでした。

６２分５２秒区間１０位という１区の成績は、現在のチーム状況でのベストに近い結果ではないでしょうか。

区間賞を獲得した西山選手は１区の１年生歴代２位を記録。

あの早大・大迫選手の１年時の１区のタイムを６秒超えて、青学大・一色選手の１年生最高記録に１秒差まで迫る６２分１６秒を記録。

後に大学長距離界を代表するレベルに成長した一色選手と大迫選手の間にランクインした西山選手。

４区で１年生最高記録を出した吉川選手と共に、今後の活躍が楽しみな選手ですね。

・　２区について

エース区間の２区では好記録が続出、史上稀にみるハイレベルな戦いでした。

区間上位５人の平均タイムは６７分２５秒４０となり、２０１１年の６７分２７秒４０を超えて２区史上最高のレベルでした。

１区の勢いで先頭を独走し続ける東洋大・相澤選手。

それを追うのは優勝候補（この時点では）３強の神奈川大・鈴木選手、青学大・森田選手、そして１５ｋｍレースで大爆走を見せた事があるが他には１０ｋｍ以上のレースでほとんどデータのない不気味なダークホース東海大・阪口選手。

トップを独走しつつも攻めて攻めて攻め抜いた相澤選手が６７分１８秒を記録し後方のチームの追い上げを封じ、６７分切りの期待がかかる２区の主役候補筆頭の鈴木選手は前回よりも僅かにタイムを落として６７分２６秒のタイムに終わり、先頭の東洋大には少し差を開かれる形になりました。

もちろん鈴木選手が失敗したというよりは相澤選手が速かったというべきでしょう。

２区で６８分切り２回を記録した日本人選手は鈴木選手が史上６人目です。６７分３０秒切り２回ともなると史上２人目です。

２区の日本人最高記録保持者である順大・三代選手でもベストタイムは６６分４６秒ですがセカンドベストは６８分１８秒です。

６７分３０秒を２回も切った鈴木選手は、今大会でこそあまり目立ちませんでしたが、２区の歴史の中ではむしろ快挙を達成したというべきでしょう。

そんな鈴木選手の追い上げを許さずに先頭を突っ走った相澤選手と、鈴木選手に競り勝った森田選手の走りは今大会の花の２区の戦いのハイライトでした。

６７分１５秒の同タイムで区間賞を獲得した森田選手と山梨学大・ニャイロ選手。

３度目の正直で区間賞を取ったニャイロ選手については、まだまだ力を出し切れたとは思えず、特筆するような内容ではないと思いますが、森田選手のこのタイムは見事でした。

３秒後方からやってきた鈴木選手を上手くペースメーカーとして使い、終盤には引き離す走りで区間賞を獲得。

引っ張られて出たタイムとは言え、６７分１０秒台の記録は見事です。

森田選手は１万ｍのベストタイムは２８分４４秒ですが、実際の走力は２８分前後ではないでしょうか。

同じく２８分４４秒の走力で６７分１８秒を出した相澤選手と共に、今後は１万ｍのタイムをどこまで伸ばすのか楽しみです。

３強激突の花の２区の戦いで、真っ先に遅れてしまったのが阪口選手。

私は今大会の２区で最もポテンシャルが高い選手は阪口選手だと思っていたので、６８分５５秒区間７位の結果に終わってしまったのは残念でした。

正直言って森田選手とは逆の結果になると思っていました。

阪口選手と森田選手は、鈴木選手を挟んで前後でスタートしています。

鈴木選手の３秒前でスタートした森田選手は少し余裕を持って走り出す事ができ、逆に鈴木選手の４秒後方でスタートした阪口選手は少し突っ込んで前に追いつき、その結果が森田選手の終盤の伸びと、阪口選手の中盤以降の失速につながったような気がしました。

結果論ですが、阪口選手は鈴木選手や森田選手の３０秒くらい後方でスタートしたほうが、最終的な区間タイムは伸ばせたような気がします。

２年連続６７分３０秒切りを達成した鈴木選手と、その鈴木選手を寄せ付けなかった相澤選手。

相澤選手のペース配分は序盤から突っ込み、中盤は更に飛ばし、終盤はとにかく耐えた、そんな攻撃的なペース配分でした。

相澤選手のペース
横浜駅前　２３分２１秒
権太坂　４３分５３秒　（横浜駅前から２０分３２秒）
戸塚中継所　６７分１８秒　（権太坂から２３分２５秒）

このペース配分にすごく似ていると感じたのが、東洋大の先輩である服部選手のペース。

２０１６年　服部選手
横浜駅前　２３分１６秒
権太坂　４３分４６秒　（横浜駅前から２０分３０秒）
戸塚中継所　６７分０４秒　（権太坂から２３分１８秒）

特徴的なのが横浜駅前から権太坂までの間のタイムです。

６６分台で２区を走ったレジェンド達でも２０分４０秒前後になるケースが多く、２０分３０秒ちょっとでこの部分を走るのはかなり中盤重視の配分です。

相澤選手の目標タイムは６８分ジャストだったという記事が陸上雑誌に載っていましたが、密かに先輩のペースとタイムを目標にしていたのではないかと勘ぐってしまいます。

相澤選手の中盤の超ハイペースの影響を受けたのが鈴木選手ではないでしょうか。

トップと２８秒差でスタートした鈴木選手。

前回６７分１７秒の記録で区間賞を取った大学長距離界日本人ナンバー１ランナーにとっては、日本人選手を相手に２８秒差ならば当然射程圏内です。

横浜駅前の時点では相澤選手との差は鶴見と全く変わりませんが、東洋大の選手は序盤から飛ばす攻撃的な走りをする選手が多いですから、序盤を突っ込んだ選手を相手に差を詰めれないのは仕方ない事です。

選手間の力の差が目立ってくるのは中盤、そして特に２区では終盤部分でしょう。

しかし権太坂の時点では、両選手の差は４０秒に広がってしまいます。

流石の鈴木選手も中盤で差を開かれたのは想定外ではないでしょうか。

６７分切りも期待された鈴木選手が今大会の終盤で伸びを欠いたのは、相澤選手の背中が思ったように近づいてこない焦りも影響していたのではないかと思います。

鈴木選手と共に戦前の評判では２区の主役候補だった順大・塩尻選手は意外に低調なタイムに終わり、過去２回走ったタイムと比べても大きく劣る記録でした。

１年生で６８分３０秒、２年生で６８分０６秒と好タイムを出し続けていて、今年は６８分切りは当然、６７分切りも狙える走力を身につけて挑んだ２区でしたが、６９分２６秒に終わっています。

最低でも３年連続６９分切りは確実だと思っていたのですが、やはり高いレベルを維持し続けるのは簡単な事ではありません。

過去には大学長距離界の大エース級の選手しか達成出来ていない２区の６９分切り３回は、今回の塩尻選手の失速と、もう１人挑む資格のあった駒大・工藤選手が２区に出場出来なかった事により、また箔がつく形になりました。

・　４区について

４区は、以前の準エース区間だった頃のコースに戻った前回大会は気象条件が悪かった事もあり、意外と低調な記録に終わっていましたが、今大会は前回の区間賞タイムを８人が上回り、ようやく２００５年大会までの４区のレベルに戻ってきた印象です。

６２分２１秒の好タイムで区間賞を取った神奈川大・大塚選手は、全日本の走りからかなりレベルアップしていてびっくりしました。

大塚選手の今シーズンの全日本や１万ｍのタイムから予想すると６３分台中盤くらいと考えていました。

そして、大塚選手と１秒差で区間２位となった東洋大・吉川選手にはそれ以上に驚かされました。

区間タイム６２分２２秒は２００５年までのコースを含めて４区の１年生最高記録であり、１分０８秒もの大幅更新です。
（４区の１年生記録は１８．５ｋｍ時代を含めると、現在の距離に換算すれば吉川選手を越えるハイレベルなタイムもありますが）

全日本８区でも日本人１年生最高記録である５９分０８秒を出した吉川選手。

その全日本のタイムから箱根４区を予想すれば、６３分ちょっとだと思いますが、全日本のタイムがやや追い風に恵まれていた事を考えると６３分台中盤くらいになると考えていました。

陸上雑誌の情報によると設定タイムを約１分２０秒上回ったと書かれていたので、６３分４０秒辺りが設定だったようです。

１区で１年生歴代２位で区間１位となった西山選手と共に、東洋大ダブルスーパールーキーの走りは強烈でした。

２区で爆走した相澤選手もまだ２年生ですし、東洋大の１、２年生は恐ろしいですね。

３人とも箱根初出場なんですが。

４区では他に気になった選手として、中央学大の１年生高橋選手がいます。

１７位でスタートし１６位で次の区間の選手に襷を渡した高橋選手は、シード権内まで２分１１秒差から前を追い、その差を３秒だけ詰めて２分０８秒差で４区を走り終えています。

区間順位も１０位と地味ですが、区間タイム６３分４７秒は吉川選手が更新する前の１年生最高記録にあと１７秒まで迫る１年生歴代４位でした。

襷を受け取った位置が悪くてもしっかりと走り、速さ以上に強さを感じました。

４区でこれだけの走りが出来るならば、個人的には２区を走って欲しかったと思います。

高橋選手ならば６９分台も狙えたでしょう。

・　５区について

去年から短くなり、２００５年までのコースとほぼ同じ距離に戻った５区ですが、優勝候補の神奈川大が５区で大崩れして優勝争いどころかシード権争いにも絡む事が出来ない等、今大会は５区の重要性がわかりやすく現れていました。

総合１０位でシード権を獲得した中央学大の平均区間順位は１０．７位。

シードを逃した総合１２位の駒大、１３位の神奈川大、１４位の國學院大の平均区間順位はそれぞれ９．３位、８．５位、１０．７位であり、区間順位の成績は中央学大と同等以上です。

中央学大と他の３チームで何が違ったのかは以下を見れば一目瞭然です。

中央学大　細谷選手
５区　７２分１７秒　区間３位

駒大　大坪選手
５区　７６分２７秒　区間１６位

神奈川大　荻野選手
５区　８１分１２秒　区間２０位

國學院大　河野選手
５区　７７分０１秒　区間１８位

もろに５区の成績が明暗を分けました。

総合１１位でシードを逃した順大は５区で活躍していましたが、順大の５区を走った山田選手は７２分３０秒区間４位の成績で、中央学大の細谷選手には１３秒走り負けています。

そして最終的には１０位中央学大に１４秒届かず、順大は涙を飲みました。

５区のタイム差がほぼそのまま両チームの差になったわけです。

やはり大差のつきやすい５区は、絶対に失敗してはいけない区間です。

しかし３区や４区を手薄にしてまで５区に走力の高い選手を使えば、３区や４区で遅れてしまい、５区に投入された強力な選手が焦ってしまいその高い走力を発揮できない、という流れになってしまうかも知れません。

結局は１区～５区のすべてに強力な選手が必要です。

今大会では２年生の法大・青木選手が山上りを制しました。

今シーズンの全日本４区で中々の好タイムを出していた選手ですが、全日本のタイムはやや追い風気味の中で出した物でした。

純粋に走力だけで上れば７３分くらいが妥当なタイムだと思いますが、青木選手が実際に出した７１分４４秒という一流レベルのタイムを見ると、走力と上り適性の両方を持った選手と感じます。

まだ２年生という事で今後の記録向上に期待がかかります。

箱根５区の現在のコースは２０１７年から使われていますが、２０００年～２００５年コースと１９８４年～１９９９年コースも距離の近いコースです。

それらのコースの年代別の最高記録は

１９８０年代　７１分５９秒　（８３年以前のコースを含めれば７１分４４秒）

１９９０年代　７０分２７秒

２０００年代　６９分１２秒

となっています。

２０００年代～２０１０年代にかけて距離が２３ｋｍオーバーだった時代もあり、そのコースで大活躍した東洋大・柏原選手や青学大・神野選手のタイムは、現在の距離に換算すれば６８分台になります。

７１分台は間違いなく山上りの一流レベルのタイムですが、３０年以上前にも実力のある選手は今回の区間賞タイムに近い記録は出しているので、２０１０年代の最高記録が７１分台ではちょっと寂しいものがあります。

青木選手には是非来年の２０１９年大会で、スーパーエースレベルの７０分台、山の神レベルの６８分～６９分台を狙って欲しいですね。

・　４区、５区、タイムで見る走りの価値

青学大の５区を走った竹石選手は区間５位の走りでトップ東洋大との差を２分０３秒→３６秒と大きく詰める大活躍をし、翌日のチームの逆転総合優勝のお膳立てをしました。

それに対して、青学大の４区を走った梶谷選手は区間９位という成績であり、トップ東洋大との差は４６秒→２分０３秒と大きく開かれてしまいました。

区間順位が良くない事や苦しそうな表情で走っていた事もあり、梶谷選手の走りにはパッとしない印象を抱いた人は多かったかも知れません。

大きく差を開かれてしまった梶谷選手はテレビ的には失敗をしてしまったように見えたかも知れませんが、過去の例を見るとそうとも言い切れません。

９０年代に活躍した早大の小林選手は４区と５区の両区間の区間記録保持者になった選手です。

そのタイムは４区が６１分３５秒、５区が７０分２７秒。

同じ選手とはいえ違う年に違う気象条件の中で出した記録ですから、この２つのタイムが完全に同価値という事はありません。

しかし価値が近い記録なのは間違いないでしょう。

仮に同価値とすれば４区のタイムに＋８分５２秒で当時の５区のタイムになります。

当時と比べて５区の距離は約２４ｍ長くなっているので、現在の５区ならば更に４秒程度は余計にかかります。

４区の梶谷選手のタイムは６３分３９秒。

５区の竹石選手のタイムは７２分４９秒。

今大会で梶谷選手が出した４区のタイムは５区の竹石選手のタイムと同等か、少し上の価値のタイムではないかと思います。

歴代順位でも梶谷選手のタイムは４区の歴代４６番相当（１９８４年～２００５年コースを現在と同じコースとした場合）。

竹石選手のタイムは５区の歴代３０番相当（１９８４年～１９９９年コースに＋４秒、２０００年～２００５年コースに＋３秒で現在のコースと同じになるとした場合）。

基本的に４区の方がレベルの高い選手が集まりますから、梶谷選手の記録のレベルが竹石選手に大きく劣るという事はないでしょう。

レース展開上の活躍や区間順位は相対評価ですが、区間タイムは絶対評価です。（気象条件やレース展開の影響を受けますが）

選手の走りの価値はレース展開や区間順位だけではわかりません。

ネット上の意見や記事で梶谷選手のタイムの良さについて語っている物はあまり見ませんが、同じ４区で６２分台前半までタイムを伸ばした東洋大・吉川選手が速かったというだけで、引き離されたとはいえ梶谷選手の走りは十分に好走レベルだと思います。

・　青学大・小野田選手

３年連続５８分台を叩き出した小野田選手。

連続でなくても５９分を３回切った選手は過去にはいません。

しかも５８分０３秒まで記録を伸ばし、山下りの歴代の選手の中でも小野田選手よりも上は日体大・秋山選手１人だけかと思います。

昨年と比べて、全日本の成績や１万ｍのタイムなど平地の走力を大きく伸ばしている、というわけでもないので、６区の自己ベストタイムと同じくらいの５８分３０秒前後を狙うのかと思いきや５７分台の目前まで記録を伸ばしました。

まさかこんなタイムが出るとは思いませんでした。

１９８６年以降の６区で、５９分切りの記録は２１例、人数は１４人います。

しかし５８分一桁の記録となると、日体大・秋山選手の出した２例があるのみです。（１９８６年～１９９９年コースに＋４秒、２０００年～２０１４年コースに＋３秒で現在のコースと同じになるとした場合）

小野田選手は５８分３１秒の自己ベストを持つ選手ですが、５８分台中盤と一桁では難度が大きく変わるため、正直言って５８分０３秒を出す力を秘めていたとは思いませんでした。

初めての追う展開に少し自重したのか、序盤は１年生の時よりも少し遅いペース。

序盤をもう少し速く入れば本当に５７分台が出ていたと思います。

元々１年生の時には、当時の１年生最高記録５９分４４秒を大幅に塗り替える５８分３１秒を記録した選手。

常識が通用する選手ではありませんでした。

非常識なほどに強い小野田選手には来年の箱根では５７分台、そして３年連続の時点ですでに前人未到ですが、４年連続５９分切りの期待がかかります。

・　青学大・林選手

今大会で１番驚かされたのが青学大７区の林選手の走りでした。

大会唯一の区間新記録の爆走。

６２分１６秒なんてタイムが見れるとは思いませんでした。

５２秒後方から全日本２区区間２位の実績を持つ東洋大・渡邉選手が追ってくるレース展開で、トップを守れたら大健闘と思っていたら、序盤からハイペースで飛ばす林選手は、二宮では東洋大との差を２分１７秒と大きく広げ、その後は更に差は広がる一方。

大磯では３分０８秒差、平塚中継所では３分２８秒差にまで広がり、７区を終えて事実上優勝争いは勝負が付いたと言えます。

トップを走るのはその時点では無名の選手だが、後方から追いかけてくる実績のある選手を逆に引き離してしまう、実はとんでもない才能を秘めていた無名選手が優勝の決定打を放つ。

この展開は９８年大会の６区と同じですね。

データでは絶対に予想できない痛快な走りを見せてくれました。

こういうのは駅伝の醍醐味と言えます。

林選手は１万ｍのベストタイムは２９分０５秒ですが、７区の前区間記録保持者である東洋大・設楽選手は区間記録を出した後に１万ｍ２７分台を出しています。

前々区間記録保持者の東海大・佐藤選手に至っては区間記録を出した時点で既に１万ｍ２７分台ランナーでした。

林選手も２７分台に突入するのは時間の問題ではないでしょうか。

恐ろしい破壊力を持った青学大の秘密兵器でした。

７区の６２分１６秒というタイムは、ほぼ同じコースを逆走する４区に換算すると６２分１６秒÷２１．３×２０．９＝６１分０５秒８４です。

７区序盤の下り坂は４区終盤の上り坂になりますが、その分のタイムを加算しても恐らく６１分台前半は出せるのではないでしょうか。

４区の６１分台は２区の６７分台にも匹敵する価値の記録ですから、２区区間賞の森田選手のレベルにも近い走りだったかも知れません。

７区でこのレベルの走りはもったいないです。

来年は是非往路を走って欲しいと思います。

「第二の秋山選手」になって欲しいですね。

・　１０区のシード権争い

アンカー１０区。

１０位でスタートした中央学大・藤田選手を、１分０４秒後方から１１位の順大・花澤選手が追いかける展開。

花澤選手は高校時代はトップクラスの選手として活躍したものの、順大入学後は難病に苦しみ、今回が最初で最後の箱根駅伝。

藤田選手のハーフのベストタイムは６４分ジャスト。

それに対して花澤選手はハーフのタイムこそ良くありませんが、１万ｍでは２８分台の記録を持ち、その力を発揮すればハーフで６２分台だって狙えるでしょう。

走力の差と両チームを隔てる１分０４秒という差を考えると、どちらが勝つかわからず、今回の箱根駅伝で間違いなく１番燃えるシチュエーションでしょう。

順大ファンのみならず多くの駅伝ファンが注目したであろうこの対決は、最終的には藤田選手が逃げ切り、シード権を守りました。

懸命に追い上げた花澤選手はシード権まであと１４秒届きませんでした。

勝負自体は素晴らしかったのですが、納得いかなかったのはテレビ局の放送です。

上位チームのゴールと重なってしまったので仕方ないとは思いますが、この２人の対決がテレビに映ったのは１５ｋｍ過ぎの後は２２ｋｍ手前であり、１０区終盤の大事なところで６ｋｍ以上も映りませんでした。

難病を患う花澤選手が最初で最後の箱根でシード権を猛追するという状況ですからこれはもっと映すべきだと思います。

今回の対決は箱根駅伝の歴史に残るシーンだと思ったのですが、日テレの放送が妙にクールであっさりしていたので、もったいなかったと思います。

繰り上げスタートで絶叫しなくても良いので、今回のような状況でこそ、アナウンサーが大絶叫して、やりすぎるくらいに盛り上げて欲しかったですね。

・強まる先行策

東洋大の２区相澤選手と４区吉川選手は見事な快走を見せましたが、彼らの快走を引き出したのはその前の区間と感じました。

１区西山選手の勢いが２区相澤選手の快走につながり、３区山本選手が青学大とのエース対決を制した事が４区吉川選手の才能を引き出したと感じました。

昔はエース区間の２区、準エース区間の４区を走る選手は流れを作る役割でしたが、今大会の東洋大の２区４区は１区３区の流れに乗って走っている感じでしたね。

コース難度では１区３区と２区４区では、２区４区の方がずっと上のはずですが、主導権の奪い合いが年々激しくなる現在の箱根往路においては、もはやエース区間や準エース区間なんて待っていられないようです。

少しでも前の区間で勝負をかけるという攻撃的なオーダーは、往路だけに限らず復路でも見られました。

青学大は６区～８区で爆走を連発して勝負を決めると、９区１０区は原監督が言うところの「ピクニックラン」にしてしまいました。

普通は、下りのスペシャリストを含めて柱が三本いたら復路に投入する区間は６区８区１０区、または６区７区９区、もしくは６区８区９区でしょう。

その３人を「復路の１区～３区」に並べるというのは以前では考えられないオーダーです。

９区１０区は距離が長くて気温も高く差がつきやすい区間なんですが、そこを軽視してでもとにかく先手を取る事を重視しているようです。

原監督は７区区間新の林選手の力に気づいていなかったような発言をしていますが、これまでに駅伝ファンをびっくりさせる選手起用を見せ、大成功の結果を出し続けるあの原監督が、あれほど飛び抜けた力に気づかなかったというのは無理があります。

今の箱根駅伝は先に仕掛けた者の勝ち、引いたら負け、そんな様相を呈しています。

・風のシーズン

出雲で風が吹き、全日本でも風が吹き、箱根だけは吹かないで欲しいと本気で祈っていましたが、１月２日の朝、鶴見の自宅のベランダから工場の方向を見ると、煙突から出ている煙が９０度折れて真横に流れていました。

また区間タイムの価値がわからない大会になるのかと、絶望感が半端なかったですが、煙の流れる方向を見ると追い風らしく、往路の向かい風という最悪の事態にならなかったのは救いでした。

有力選手が集まる往路での向かい風は、記録を楽しみにするタイプの駅伝ファンにとっては悪夢です。

私の自宅の周りでは、無風の時もあれば、突然ザアアっと強い風が吹き付け、またしばらくすると静かになる、波のある風でした。

風の方向も色々な方向から吹いてくる感じで、追い風とも横風とも言えず、区間タイムにどれだけの影響を与えるのかわかりませんでした。

実際に始まったレースでは、１区の六郷橋で強烈な風が吹いていましたが、他の場所ではテレビではそれほど強くはなかった印象です。

区間タイムを見ても往路の選手には大きな影響はなかったかと思います。

風の事を忘れかけた復路終盤でまた強い風が吹き、１０区の選手を苦しめていました。

風に始まり風に終わった今シーズンの大学駅伝でした。

来シーズンは風はもう勘弁してほしいです。

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