山下り最強ランナーへ 青学大・小野田選手
前回の大会、抜いた東洋大・今西選手から「人間じゃねー」とコメントされた山下りモンスター小野田選手。
過去の実績は本当に怪物と呼ぶにふさわしい。
3年前に史上初の6区1年生59分切りを達成した小野田選手は、過去3大会では58分31秒、58分48秒、58分03秒、と59分切りを3連発。
過去の山下りの名選手たちにも59分切りを3回達成した選手はおらず、既に前人未到の領域に入っています。
今大会で59分を切れば、ついに4年連続59分切りになります。
箱根駅伝史上初の6区4年連続60分切りが達成されてから17年。
山下りの6区が新しい時代を迎える瞬間が見れるかも知れません。
小野田選手には数々の記録の更新に期待がかかります。
・ 58分切り
83年大会で日体大・谷口選手が57分47秒という大記録を残しましたが、その後0.1km以上の距離延長があり、現在との比較は難しくなっています。
現在と近い距離のコースになったのは86年大会。
99年大会には区間記録は58分06秒まで伸びましたが、その後は記録の更新には長い年月がかかりました。
突破されるのは時間の問題かと思われた58分の壁は意外と厚く、15年大会では6区の距離は約20m延長され、壁を破るのは更に難しくなります。
皮肉なことに、距離が延長されてからわずか3大会目の17年大会で日体大・秋山選手が58分01秒を記録します。
3年前の大会だったら57分57秒〜58秒に相当する記録でした。
秋山選手の記録は事実上の57分台と言えますが、記録の上ではやはり58分台は58分台です。
小野田選手には公式記録の数字上で夢の57分台を出して欲しいと思います。
58分切りには他にも意味があります。
谷口選手が57分47秒という記録を出した後に、86年に0.1km、00年に4m、15年に約20mの距離延長が行われています。
全部を足して、延長された距離を時速20kmで走ったとすると、谷口選手のタイムは現在の距離ならば58分09秒〜10秒になります。
問題なのは86年の距離延長です。
00年や15年の延長はメートル単位ですが、86年の延長は、箱根駅伝関係の書籍にもキロメートル単位でのデータしか載っていません。
陸上雑誌にも、86年大会前の延長距離は厳密には不明と書かれているので、プロでもわからない事のようです。
この86年の0.1kmという延長は50m〜140mの変更でも四捨五入されて0.1kmとされている可能性があります。
もし50mだったとすると現在との距離の差は約74m、時速20kmで走ったとすると、谷口選手のタイムは現在の距離だと58分00秒になります。
もちろん秋山選手が残した現区間記録の58分01秒こそ6区最高記録だと思いますが、谷口選手の記録には僅かながらそれを上回る可能性があるのが悩ましい所です。
58分を切れば箱根駅伝ファンを悩ませているモヤモヤもすっきりと解消するでしょう。
でも、出来れば57分47秒切りも達成してもらえれば、現在との距離の違いが不明瞭な谷口選手との比較も必要なくなるので、ここまでタイムを伸ばして欲しいですね。
・ 58分01秒切り
現区間記録である秋山選手の58分01秒は、ほぼ間違いなく6区の歴代最高記録と考えられます。谷口選手の方が上になる可能性がなくはないですが、その可能性は低いですから。
このタイムを切れば山下り最強と言って良いと思います。
もし小野田選手が58分01秒を切ると、当然それは区間新記録となり、セカンドベスト記録になる58分03秒、サードベスト記録になる58分31秒、フォースベスト記録になる58分48秒もそれぞれの最高記録となります。
現在のセカンドベストの最高記録は秋山選手の58分09秒、サードベスト最高記録は小野田選手自身の58分48秒、フォースベスト最高記録は10年大会〜13年大会で4年連続60分切りを達成した駒大・千葉選手が現在よりも約20m短いコースで残した59分44秒です。
特にフォースベスト記録は約1分の大幅更新になります。
人生で4回しか走れない箱根駅伝で、その全てで山下りの6区を走り、残した4つのタイムが、ベスト、セカンドベスト、サードベスト、フォースベストの全てで歴代1位。
達成出来たらまさにパーフェクト。
怪物小野田選手ならば本当にやってしまうかも知れません。
・ 59分切り
59分を切れば4年連続59分切りです。
過去の達成者はもちろんなし。
59分を3回切ったのも小野田選手だけです。
誰も出来なかった59分切り3回を達成したのが18年大会での事。
たった1年後には更にその先のレベルの記録が生まれそうです。
小野田選手は普通に走れば59分を切るのは間違いないでしょうから。
・ 60分切り
60分を切れば4年連続60分切りです。
過去の達成者は、99年大会〜02年大会の大東大・金子選手、10年大会〜13年大会の駒大・千葉選手の2人だけです。
ちなみに金子選手の1年時のタイム59分58秒は、現在よりも約24m短いコースなので、現在の距離だと60分02秒〜03秒ほどになります。
つまり現在の距離に直して達成出来たと思われる選手は過去1人しかいません。4年連続60分切りはそれほど希少な記録です。
しかし、小野田選手が59分台のタイムで4年連続60分切りを達成しても全く盛り上がらないでしょうね。
元のレベルが高過ぎる選手なので、59分台では軽くブレーキした扱いになってしまうでしょう。
・ 60分38秒切り
60分38秒を切ると、過去の58分03秒、58分31秒、58分48秒と合わせて4回の平均タイムで59分切りになります。
過去の4回平均59分切りの達成者は、駒大・千葉選手が58分57秒25を記録していますが、4回とも現在よりも約20m短いコースでのタイムです。
現在の距離だと59分00秒〜01秒ほどの記録になります。
60分37秒で走ったとすれば前回の6区では区間14位相当です。
小野田選手は今大会がこのレベルの走りでも、4回の合計実績は山下りの歴史で前人未到のレベルになります。
・ 64分38秒切り
64分38秒を切ると、4回の平均タイムで60分切りになります。
4年連続60分切りよりは難度が落ちますが、それでも達成者は、99年大会〜02年大会の大東大・金子選手、02年大会〜05年大会の中大・野村選手、10年大会〜13年大会の駒大・千葉選手と東洋大・市川選手、11年大会〜14年大会の明大・廣瀬選手の5人だけです。
どの選手も6区の区間賞獲得経験があり、58分台を2回、または59分台を3回以上マークしたことのある選手で、各時代の6区で名を馳せた山下りの名選手ばかりです。
前回の6区では区間20位が63分14秒ですから、64分38秒は前回ならばぶっちぎりの最下位記録です。
小野田選手は仮に今大会で64分37秒というレベルの低い走りをしてしまったとしても、4回の合計実績は歴代の山下りの名選手に匹敵するレベルです。
小野田選手が過去3大会に積み上げた実績は、これまでの箱根駅伝の常識では考えられないほどのレベルの高さです。
・ 第4の山の神
山上りの5区で活躍した今井選手、柏原選手、神野選手が「山の神」と呼ばれるのに対して、山下りの6区で活躍した選手にはそういった二つ名はつきません。
山上りでハイレベルな実績を残した選手と、山下りでハイレベルな実績を残した選手で何が違うのか。
下る6区よりも、上る5区の方が派手というのもあるでしょうけど、山の名選手たちのチーム順位が影響している気もします。
山上りで活躍した今井選手は5区を3回走り2度トップを取り、柏原選手は4年連続で往路優勝のゴールテープを切り、神野選手も2回走った5区で2年連続でトップを走っています。
しかし山下りで傑出した実績を残した選手たちはトップとは縁のないケースが多いです。
6区の距離が現在と近いコースになった86年大会以降で、6区で傑出した実績を残した選手といえば、
98年大会〜99年大会、2回出場で区間賞2回、98年大会で86年大会以降初の59分切りを達成し、99年大会では58分06秒までタイムを伸ばした神奈川大・中澤選手。
99年大会〜02年大会、4回出場で区間賞2回、59分切り1回を含めて史上初の4年連続60分切りを達成した大東大・金子選手。
02年大会〜05年大会、4回出場で区間賞3回、59分切り2回を含めて60分切り3回の中大・野村選手。
10年大会〜13年大会、4回出場で区間賞3回、58分10秒台2回を含めて4年連続60分切りの駒大・千葉選手。
15年大会〜17年大会、3回出場で区間賞2回、58分一桁2回を含めて60分切り3回、17年大会で出した58分01秒は14年大会までの距離ならば57分台相当の日体大・秋山選手。
この5選手だと思います。
以下は5選手が走ったレースでチーム順位とトップとのタイム差がどう変化したのかをまとめた物です。
()の中はトップとのタイム差、または2位とのタイム差です。
98年大会 神奈川大・中澤 区間1位58分44秒 2位(+13秒)→1位(−1分55秒)
99年大会 神奈川大・中澤 区間1位58分06秒 6位(+8分06秒)→5位(+5分52秒)
99年大会 大東大・金子 区間3位59分58秒 9位(+11分52秒)→7位(+11分30秒)
00年大会 大東大・金子 区間4位59分47秒 9位(+5分33秒)→7位(+5分57秒)
01年大会 大東大・金子 区間1位58分21秒 13位(+13分43秒)→9位(+13分27秒)
02年大会 大東大・金子 区間1位59分04秒 5位(+3分08秒)→3位(+2分28秒)
02年大会 中大・野村 区間3位59分49秒 6位(+3分22秒)→6位(+3分27秒)
03年大会 中大・野村 区間1位58分54秒 12位(+8分31秒)→8位(+6分39秒)
04年大会 中大・野村 区間1位58分29秒 13位(+8分53秒)→8位(+7分21秒)
05年大会 中大・野村 区間1位60分01秒 6位(+4分25秒)→6位(+3分43秒)
10年大会 駒大・千葉 区間1位59分44秒 8位(+7分16秒)→6位(+6分05秒)
11年大会 駒大・千葉 区間1位58分11秒 5位(+3分25秒)→3位(+2分14秒)
12年大会 駒大・千葉 区間5位59分39秒 4位(+6分43秒)→4位(+7分06秒)
13年大会 駒大・千葉 区間1位58分15秒 9位(+6分57秒)→6位(+5分39秒)
15年大会 日体大・秋山 区間4位59分29秒 17位(+17分50秒)→16位(+18分08秒)
16年大会 日体大・秋山 区間1位58分09秒 13位(+12分17秒)→7位(+11分55秒)
17年大会 日体大・秋山 区間1位58分01秒 13位(+6分44秒)→7位(+5分57秒)
98年大会の中澤選手の例を除けば、全てトップとは無縁の位置を走っています。
山上りの名人が神と呼ばれるのに対して、山下りの名人が神と呼ばれないのは、チーム順位の影響ではないでしょうか。
以下は今大会の山下りの主役の過去の実績です。
16年大会 青学大・小野田 区間2位58分31秒 1位(−3分04秒)→1位(−4分14秒)
17年大会 青学大・小野田 区間2位58分48秒 1位(−33秒)→1位(−2分08秒)
18年大会 青学大・小野田 区間1位58分03秒 2位(+36秒)→1位(−52秒)
1年時の小野田選手はまだ大学駅伝での実績はなく、後方からは全日本MVPの実績を持つ東洋大・口町選手が追いかけてくる展開でしたが、差を詰められるどころか大きく突き放しています。
2年時も2位チームに大きな差をつけて総合優勝に貢献。
3年時はトップを奪う走りでした。
個人の能力もさることながら、常にトップで6区を終えて、チームは常に総合優勝、その優勝に常に大きく貢献しています。
常に華やかな位置で活躍し続けている小野田選手は過去の山下りの名人たちとは一線を画する存在と言えます。
もう「山下りの神」ではなく、上り下りを合わせた中で4代目の山の神に最も近い存在と言っても良いのではないでしょうか。
それと、毎年優勝に貢献する小野田選手が、箱根駅伝を特集する月刊陸上競技2月号の表紙に一度もなっていないというのも違和感を感じます。
今大会で小野田選手が活躍して青学大が総合優勝をしたら、新たな山の神誕生として、今度こそ表紙は小野田選手にして欲しいと思います。
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