2020年大会 平地の注目選手
・ 國學院大・土方選手
出雲駅伝での見事な逆転優勝を見せた土方選手ですが、それ以上に良い走りを見せたのはやはり前回の箱根でしょう。
2区で堂々の68分切りを達成する67分53秒を記録。
区間7位と言う成績だったので、いまいち目立ちませんでしたが、走りのパフォーマンスは出雲の逆転劇以上だったと思います。
2区の67分台はそれだけ価値のある記録だと思います。
区間7位とは言っても、上位6人のうち3人は留学生であり、残り3人の日本人も4年生だったので、すでに卒業しています。
前回の2区の実績ならば、現役日本人学生でナンバーワンの土方選手は、本来ならば強力な留学生たちに対抗する日本人代表という、美味しいポジションにいるはずの選手ですが、相澤選手にすべて話題を持っていかれた感があります。
土方選手には、流石に相澤選手のような67分切りのレベルを狙うのは、ちょっと難しいかも知れませんが、2年連続の68分切りを目指して欲しいですね。
過去に日本人で67分を切ったレジェンドは4人いますが、4人中3人はセカンドベストでは68分を切れていません。
日本人最高記録保持者の塩尻選手でも、ベストは66分45秒ですが、セカンドベストは68分06秒です。
68分を2回切るのには、67分を1回切るのとは違う難しさがあります。
・ 東京国際大・伊藤選手
土方選手と共に、本来ならばもっと話題に上がっても良さそうなのが、伊藤選手。
全日本2区11.1kmを31分17秒の区間新記録で走破し、13人抜きの快走を見せました。
1km平均タイムは2分49秒09。
箱根の山下りを除く3大駅伝の10km以上の区間において、日本人選手が1km平均で2分50秒を切って走り切ったのは、2013年の全日本4区で爆走を見せた駒大・村山選手以来2例目です。
区間タイムを10kmに換算すると約28分10秒ですが、1.1km長い分を考慮すると約28分02秒相当になり、27分台目前のハイレベルな走りでした。
しかし次の区間で、相澤選手が1km平均2分46秒47のペースで11.9kmを走り切ってしまったので、すっかり話題をさらわれてしまいました。
箱根では2区出走が確実視されていて、その走力を考えれば当然68分切りは狙ってくるでしょうし、力を出し切れば67分切りに迫る事も出来るかも知れません。
しかし、前回は68分36秒という好走でしたが、69分を切った日本人選手の中で権太坂〜戸塚中継所を24分以上かかったのは伊藤選手だけでした。
スピードは優秀でも、タイプ的には、距離が長くコースの厳しい2区はあまり向いていないような気がします。
東京国際大には強力な留学生もいるので、2区は留学生に任せて、往路の他の平地区間を走った方がチームのためになるかも知れません。
今年の東京国際大にはなかなか有力選手が多いので、伊藤選手は走りやすい1区や3区よりは、2区ほどではないがコース難度の高い4区まで温存する方が、チームとってベストのような気がします。
4区ならば、60分54秒の区間記録に迫るタイムを期待出来ると思います。
・ 駒大・田澤選手
出雲の3区で大学長距離界のエースを相手にトップを奪う走りを見せた脅威のルーキー田澤選手。
その時は8.5kmを23分54秒で走り、10km換算では28分07秒、距離の違いを考慮すれば10kmでは約28分21秒相当の快走でした。
全日本では7区17.6kmのエース区間に出場し、後方から追い上げる難しいレース展開の中で4人抜きを披露し区間賞を獲得。
1万mのベストタイムは28分13秒まで伸ばしています。
遡る事14年前。
2006年大会でダブル佐藤と呼ばれた存在、東海大・佐藤悠基選手と、順大・佐藤秀和選手という2人のスーパールーキーが、1万mで28分10秒前後の記録を持って箱根にデビューしました。
しかし走った区間は悠基選手が3区、秀和選手が1区でした。
この前年の2005年大会ではスーパールーキー四天王と呼ばれたうちの1人東海大・伊達選手が2区の1年生最高記録を樹立。それまでの山梨学大・オツオリ選手の記録を更新し、留学生から1年生最高記録を奪い返す快挙を達成しています。
それだけに、伊達選手等四天王世代を超える才能と言われていたダブル佐藤には、2区に出場する事に期待していた駅伝ファンは多かったでしょう。
28分10秒クラスのルーキーが2区に出場したらどんな走りをするのか、多くの駅伝ファンが注目しているのではないでしょうか。
現在の2区1年生最高記録は、ケニア人留学生の活躍で67分12秒まで伸びており、流石に日本人1年生が更新するのは難しいと思いますが、28分10秒台の選手が力を出し切れば、2区の日本人1年生最高記録である68分04秒の更新は期待出来ると思います。
おそらく67分台の中盤辺りまで期待出来るのではないでしょうか。
2012年大会では駒大のルーキー・村山選手が28分17秒の走力で2区に挑んだものの、タイムは69分04秒という意外と普通のタイムでした。
田澤選手も、出雲3区では10kmで言えば約28分21秒相当の走りでしたが、全日本7区のタイムは17.6kmを52分09秒というもので、これは距離の違いに伴うペース変化を考慮して10kmに直すと約28分49秒相当となり、気象条件の違いもありますが、距離が伸びると破壊力が落ちている気がします。
田澤選手自身も設定タイムは51分30秒だった事を雑誌に明かしているので、長い距離にはまだ完全に対応仕切れていない様子ですね。(ちなみに10km28分21秒を17.6kmのタイムにすると約51分19秒)
駒大には箱根や全日本の最長区間でしっかり結果を残している山下選手の存在もあるので、田澤選手は1区、3区、4区のどこかになる可能性が高いですが、やはり次回以降の事を考えても、早めに2区を経験して欲しいですね。
田澤選手には日本人1年生初の68分切りを期待したいです。國學院大の土方選手と同じくらいの位置でスタート出来ると、上手く引っ張ってもらえそうな気がします。
・ 東海大・名取選手
優勝候補筆頭の東海大の事実上のエースといえる名取選手。
全日本ではアンカーを57分46秒で走り、逆転優勝を達成しました。
もう1人のエース格である阪口選手の存在もありますが、箱根では2区に出場する可能性はかなり高いでしょう。
おそらく67分台中盤くらいまでタイムを伸ばせるのではないかと思います。
名取選手はこれだけの高い走力を持っているのに、1万mのベストタイムが29分台です。
2区29分台ランナー最高記録も狙えるんじゃないでしょうか。
箱根2区の29分台ランナー最高記録は青学大・出岐選手が2012年にマークした67分26秒です。
全日本8区から箱根2区のタイムを予想するのには、以前は比率を使ったり、統計を使おうとしたりしましたが、単純に2つの区のタイム差を全日本8区にプラスするのが良いかも知れません。
全日本8区、箱根2区のベストタイムの関係は、全日本8区+9分30秒〜+9分50秒くらいの例が、過去には多くありました。
90年代の例
早大・渡辺選手 全日本8区のベストが56分59秒、箱根2区のベストが66分48秒(全日本8区+9分51秒)
山梨学大・マヤカ選手 57分32秒、67分20秒(+9分48秒)
中大・松田選手 58分43秒、68分29秒(+9分46秒)
駒大・神屋選手 59分16秒、68分51秒(+9分35秒)
最近の2010年代の例
神奈川大・鈴木選手 57分24秒、67分17秒(+9分53秒)
青学大・一色選手 57分48秒、67分35秒(+9分47秒)
早大・平賀選手 58分24秒、67分50秒(+9分26秒)
明大・大六野選手 58分06秒、67分56秒(+9分50秒)
青学大・梶谷選手 58分44秒、68分30秒(+9分46秒)
東海大・川端選手 58分59秒、68分32秒(+9分33秒)
もちろんこのケースに当てはまらない選手もいますが、有名な選手が似たようなタイム差で走っているのは事実ですので、名取選手も+9分40秒くらいではいけるのではないかと思います。
でも、出来れば28分台をさっさと出して欲しかったですけどね。
東海大はトラックを重視している印象ですが、阪口選手や館澤選手も含めてエース級がなぜか1万mのタイムを出し渋っている感じなのが謎です。
・ 国士大・ヴィンセント選手
国士大のライモイ・ヴィンセント選手は今年3月にハーフマラソンで60分10秒を記録。
モグス選手の学生記録に次いで、ハーフでは歴代で2番目に速い選手となりました。
1万mのベストタイムは28分03秒ですが、ハーフで60分前後の記録を出すには、27分30秒クラスの力が必要だと思います。
ヴィンセント選手は今大会で相澤選手と互角に走れる唯一のランナーかも知れません。
ちょうど過去の2区の実績も、前々回大会で相澤選手が67分18秒区間3位、前回大会でヴィンセント選手が67分12秒区間3位となっていて、ほぼ互角です。
走力に磨きがかかった今年の2人が同時にスタートすれば面白いですが、東洋大と国士大の戦力の差を考えると、東洋大の1区がブレーキを起こさない限りは難しそうです。
2人が競り合う事はなさそうですが、ヴィンセント選手にも区間新記録、夢の65分台への挑戦を期待したいです。
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