2020年大会 5区、6区について
・ 5区 國學院大・浦野選手
前回、5区で3例目となる71分切りを達成し区間賞を取った浦野選手。
上りの適性やテクニックよりは、平地で高い走力を持ち、そのパワーで山を駆け上っている感じでした。
陸上雑誌には前回と比べて準備がしっかり出来ている事や、68分台を視野に入れている事が書かれていました。
前回と比べて平地の走力を大きく上げたという訳ではないようですが、山上りのテクニック的な部分を磨いてきたようです。
こういった部分はデータには現れないので、どれくらいのタイムが出るのか予想するのは困難ですが。
個人的に、浦野選手は大学長距離界で最高の安定感を誇る選手だと思っています。
前回の時点でハーフで62分02秒を記録する高い走力を持っていました。
当時の1万mのベストタイムは28分50秒台でしたが、ハーフの記録は20km換算で58分48秒相当の記録であり、これは1万mで28分20秒台が出てもおかしくない走力を持っている事を意味しています。
箱根5区で活躍した後も好走を連発し、まず1万mでは28分25秒という自己ベストを出すと、駅伝シーズンには出雲の3区8.5kmで23分57秒、全日本2区11.1kmで31分38秒を出しています。
距離の違いを考慮して10kmのタイムにすれば、出雲3区が約28分24秒相当、全日本2区が約28分21秒相当です。
体調、レース展開、気象条件など、条件は毎回違うはずなのに、毎回ハイレベルなパフォーマンスを発揮し続けているのは凄いと思います。
浦野選手が走力を武器に箱根5区で出したタイムは70分54秒ですが、この区間には走力タイプの記録としては20年以上前からベンチマークとなっているものがあります。
このHPでも何度も書いている早大・小林選手の70分27秒です。現在とは距離が若干違うため、今のコースだと70分31秒くらいになる記録です。
小林選手の1万mのベストタイムは28分09秒。20.8kmの箱根5区で約23秒差ですから、10km辺りだと11秒程度の差になります。
浦野選手は箱根5区ですら10kmで言えば28分20秒辺りのパフォーマンスを発揮していたと言えるかも知れません。
次の箱根では5区68分台を狙っているようですが、このレベルの記録を出すには、上りのテクニックや、元々持っている適性といった部分が何より大事になると思います。
走力で68分台を狙うならば1万mで27分30秒クラスの力があっても難しいかも知れません。多分2区の65分台と同等以上の難度じゃないでしょうか。
しかし上りの才能があれば決して不可能ではないのは、歴代の山の神、特に現在の5区と近いコースで69分12秒の記録を出した初代山の神が証明していると思います。
初代山の神こと順大・今井選手が初めて5区に挑戦した当時の実績や持ちタイムは、5区ならば72分台後半〜73分台前半くらいを設定とするのが妥当なものだった思います。
しかし実際には上りの才能が爆発し、69分12秒を記録。
5区は上りの才能の有無で大きくタイムが変わります。
前回は準備不足の中で70分台を記録した浦野選手。
今回はじっくりと準備をして万全の状態で挑む最初で最後の5区です。
本当に68分台を狙う攻めの走りを期待したいですね。
今井選手が69分12秒を出した時と、前回の浦野選手を比較すると、大平台通過タイムはほぼ互角でしたが、大平台〜小涌園の間の5km弱の間で47秒も離されていました。
この部分の今井選手の速さは異常ですが、68分台を出すためには、ここで踏ん張り、今井選手と同等くらいのタイムで小涌園を通過して欲しいところです。
そして終盤の下りや平地部分で自慢のスピードを発揮する事が出来れば68分台に突入出来るかも知れません。
また、かつての小林選手が5区には1度しか出場出来ず、今井選手も5区への2度目以降の出場は23km超に延長されたコースだったため、仮に68〜69分台が難しくても70分台で走る事が出来れば、史上初の5区71分切り2回の達成者となる事が出来ます。
・ 5区 法大・青木選手
前々回71分44秒で区間賞、前回は71分29秒のタイムで区間3位の成績を残している青木選手。
前回は70分ジャストを目標としている事が陸上雑誌に記事になっていました。
そして実際のレースでも大平台を22分33秒で通過し、これは70分ジャストどころか70分を切るペースでした。
流石にその後は超ハイペースを維持する事は出来ず、区間タイムは71分29秒でしたが、気合の入った走りを見せてくれました。
今回は70分を切る記録を設定しているとの事。
まずは大平台の通過タイムに注目ですね。
スタートから大平台までを自重するようなら70分切りは難しいでしょう。
序盤から前回並みのペースで飛ばし、それでも中盤以降もペースを落とさずにどこまで攻められるか。
最高点まで持てば、残りの下りはスピードのある選手が有利。
浦野選手には及ばなくても、青木選手も平地の走力が上がっているので、70分を切るためにはここでタイムを稼ぐ必要があると思います。
1万mのタイムは前々回、前回の29分30秒と比べて、今回は28分59秒と大きく上がっていますが、元々29分30秒が本来の力ではなかったのは明白でした。
前々回のシーズンの全日本では4区14kmを41分08秒で走り、距離の違いを考慮して10kmにすると約28分53秒相当でした。
今回のシーズンでは全日本8区19.7kmを58分38秒で走り、10kmだと約28分47秒相当でした。全日本8区は気温の高さや終盤のコースに上りがある為、タイムが出づらい区間ですから、平地の走力も上がってきているでしょう。
70分切りの設定タイムが、69分59秒なのか、山の神今井選手と同レベル辺り(69分15秒くらい)を狙っているのかはわかりませんが、70分を少し切るタイムならば小涌園を39分40秒〜50秒くらいで通過出来るかがひとつの目安になると思います。
・ 5区 東海大・西田選手
前回いきなりの区間2位、71分18秒の走りを見せた西田選手。
西田選手は1万m28分台ランナーですが、1万m28分58秒という数値からは予想できない区間タイムでした。
5区71分18秒は明らかにそれ以上に価値のある区間タイムです。
個人的には今回の大会で山の神に一番近い選手は西田選手じゃないかと思います。
走力では5区ナンバーワンの浦野選手が68分台を目標にしているとの事ですが、正直平地の走力だけで山の神のレベルに届くのは難しいのではないかと。
その点で西田選手は前回、序盤から突っ込む積極的な走りを見せて、それ以降も平地の走力では上を行く浦野選手を相手に僅差でまとめて71分18秒の区間2位。
上りの適性がある事を証明して見せました。
西田選手の今シーズンの全日本は4区11.8kmを33分54秒で走り、これは距離の違いを考慮して10kmにすると約28分29秒相当となります。
浦野選手にも匹敵する平地の走力を身につけ、さらに適性まであるとなると、今大会の最強のクライマーではないでしょうか。
優勝候補筆頭の東海大の5区ですから、西田選手が70分前後で走ったら、今大会の総合優勝争いはほぼ終了でしょう。
今大会を決める男になるかも知れません。
・ 6区 東洋大・今西選手
前々回は青学大・小野田選手に抜かれて、「人間じゃねぇ」のコメントを残して有名になった今西選手。
前回はその人外の存在の小野田選手と互角に近い戦いぶりを見せました。
小野田選手は卒業し、最大のライバルと見られた東海大・中島選手も不出場が決まっています。
今大会の山下りの1強となりそうですね。
前回と比べて1万mのタイムに変化はありませんが、全日本の区間タイムを距離の違いを考慮して10kmにすると、前回の全日本のタイムは約28分54秒になるのに対して、今回は約28分40秒です。
トラックのタイムに変化はなくても、走力は向上しているようです。
前回出した6区の記録は、86年大会以降の6区では歴代で5位の58分12秒。
6区の歴代上位記録は、歴代1位〜5位が15秒差に収まっているので、数秒タイムを伸ばしただけで、歴代順位をいくつも上げる事が出来ます。
もちろん区間記録が手の届くところまで来ている今西選手ですから、ターゲットは57分57秒の区間記録でしょう。
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