最近の学生長距離について
前回の箱根駅伝の厚底高反発シューズショックに続いて、日本中を混乱の渦に巻き込んだコロナショックも起きて、どうなるかと思った今年の学生駅伝ですが、出雲こそ中止になったものの、全日本は無事に開催され、そしてメインの箱根も開催される見通しです。
コロナは選手の練習にも大きな影響を与えたでしょうから、競技力の低下に繋がるのではないかと心配でしたが、箱根予選会や全日本のタイムを見る限りでは、全く問題ないどころか、むしろ今年の学生長距離は史上最高レベルに達しています。
もちろん、その記録のレベルの高さには、2019年夏に発売されたナイキの厚底高反発シューズ「ヴェイパーフライネクスト%」、そして今年発売された第4世代の厚底高反発シューズ「アルファフライネクスト%」がタイムの伸びに大きな影響を与えているのは間違いないでしょう。
厚底高反発シューズは、タイムの価値をガラッと変えてしまいました。
学生長距離は、関カレ、全カレ、出雲、全日本、ハーフの大会、1万m記録会、と毎年ほぼ同じ流れでレースが行われ、そして最終決戦の箱根駅伝へと続きます。
毎年ほぼ同じサイクルが繰り返され、それが積み重なっていくのが学生長距離。
私は、その年の有力選手のタイムや、有力チームの戦力に注目したり、過去の選手、過去のシーズンとの比較に興味を感じていたのですが、厚底高反発シューズが登場した事により、条件があまりにも違いすぎて、過去との比較は不可能になりました。
時代が進むに連れて、比較対象の過去の記録も増えて面白さも増していたのに、積み上げてきた物がすべてぶっ壊された気持ちです。
前回の箱根のショックはいまだに引きずっていますが、第3世代の厚底高反発シューズが発売された2019年夏以降は、それ以前とは全く別物として見ていくしかありません。
2019年夏に発売された第3世代厚底高反発シューズ「ヴェイパーフライネクスト%」。
性能と共に、扱いやすさを大きく向上させた事により、多くの選手がこの厚底高反発シューズを履き、破壊的な走りを連発しました。
2020年には第4世代の「アルファフライネクスト%」が発売され、現在はロードでは第3世代と第4世代のどちらかのシューズを履いてを走るのが、学生長距離の常識となっているようです。
この二つの性能差はわかりませんが、全日本のタイムを見ると、アルファフライネクスト%がヴェイパーフライネクスト%よりも圧倒的に優れているとは感じませんでした。
第3世代の時点で異常なほどの高性能でしたから、流石にそこから大きく性能アップというのは、ありえないと思います。数十年後とかはわかりませんが。
12月より、厚底高反発シューズは5千mや1万mなどのトラックでは使用できなくなりました。
ロードでも規制が必要ではないか?というような話もネット上では出ていましたが、私はロードではもうこのままで良いと思っています。
現実にタイムが劇的に伸びるシューズの技術が開発されてしまっているのですから、もしもいつか駅伝でも高反発シューズは禁止となった場合、常識を覆すような素晴らしい大記録を出した選手が、「あの選手はルール違反の高反発プレートをシューズに仕込んでるのではないか?」と疑われてしまうし、だからと言って、良い走りをした選手のシューズを毎回分解して調べるわけにもいかないでしょうし。
中途半端に規制するよりは、ロード種目はもうこのままで、箱根駅伝に関しては、2019年大会以前と2020年大会以降は全くの別物で比較は不可能と考えるべきかと思います。
最近の、あの○○選手の記録を塗り替えた!というような、シューズの違いを無視して書かれた大げさなネットニュースなどを見るのは、正直耐え難いですが、そう遠くないうちに、学生長距離のほとんどの歴代上位記録は、高反発シューズを使った記録で埋め尽くされるでしょうから、過去の時代と比較される事もなくなっていくでしょう。
ただし箱根の5区だけは、山の神のタイムはあまりにも偉大なので、高反発シューズで1分くらいタイムが伸びても、神の領域のタイムに入るのは難しいかも知れませんが。
トラックにおいても、ナイキは今年、ドラゴンフライとエアズームヴィクトリーという、高性能スパイクを発売しています。
12月から厚底高反発シューズはトラック種目で使用できなくなりましたが、ドラゴンフライなどがあれば、1万mの29分切りは、今の学生選手には難しい記録ではないでしょう。
去年のシーズンでは、駅伝では常識はずれのレベルの記録が連発されていましたが、1万mなどのトラックでは、選手達が本腰を入れてタイムを狙っていなかったのか、トラック長距離種目のタイムは、学生長距離の常識の範疇に収まるレベルでした。
しかし、今年は1万mでも異常なほどタイムが伸びていて、厚底高反発シューズがあってもなくても、もはや28分台は好記録という常識は通用しなくなってしまいました。
1万m28分台の選手はすごい選手!
箱根駅伝に興味を持ち始めた最初の頃から、わかりやすくて好きだったのですが・・・
厚底高反発シューズは、高反発のカーボンプレートとズームエックスフォームで構成されているそうです。
それに対してドラゴンフライは、カーボンではない通常のプレートとズームエックスフォームで構成されていて、厳密には高反発スパイクとは言えないかも知れませんし、ソールの厚さも、30ミリ〜40ミリ近くはあるヴェイパーフライやアルファフライとは違い、25ミリ以下に収まっていて、厚底というわけでもありません。
しかし、今シーズンは、5千mと1万mの両方でドラゴンフライを履いた選手が世界新記録を出し、日本でもこのスパイクを履いた選手によるハイレベルな記録が連発されているそうです。
これは、選手の地力が伸びているから、厚底高反発シューズを使わなくてもタイムが出ている、という見方も出来るかも知れませんが、私はどちらかと言えば、ナイキは高反発なカーボンプレートを使わなくても、スピードの上がるスパイクを開発したと見るべきじゃないかと思います。
もうひとつのエアズームヴィクトリーについては、カーボンプレート入りだそうですが、ドラゴンフライと比べて扱いにくいとの意見を見ました。
使いこなせればエアズームヴィクトリーの方が更にタイムは伸ばせるのかも知れません。
トラックにおいても、厚底高反発シューズのヴェイパーフライとアルファフライ、高性能スパイクのドラゴンフライとエアズームヴィクトリーが登場し、それらを使ったタイムが入り乱れていて、2019年の夏以降の、この1年数ヶ月で、見慣れていたはずの学生長距離のタイムは、もう何が何だがわからなくなってしまいました。
以前は平穏な期間が長く続いた学生長距離界。
2001年大会の箱根で強い風が吹き、往路のタイムがめちゃくちゃになりましたが、その後は12年間、ほぼ平穏な時代が続きました。
2013年の箱根で再び強風が吹き荒れ、2014年には出雲駅伝が台風により中止となり、2018年には全日本大学駅伝の8区間中7区間がコース変更されてほぼ別の駅伝大会になると、2019年夏に第3世代の厚底高反発シューズが登場してタイムがめちゃくちゃになり、その後はコロナウィルスで日本中がおかしくなりました。
幸いにも、コロナの影響で選手達の競技力が大きく下がったという事はなさそうですが、それでも選手達に与えた影響は、この数十年で最も大きかったでしょうし、出雲駅伝も2014年に続いてまた中止となり、全日本や箱根の路上観戦も出来ず、駅伝ファンにも影響は大きいです。
平穏な12年の後に、まさかこんな激動の8年が来るなんて想像もできませんでした。
これからまた新しい平穏な時代が来てくれると良いのですが。
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