２０２２年大会感想１

２０２２年大会の感想　（１）

２ヶ月以上かかって３／７やっとＵＰ

普通の感想です

目次

①　青学大について

 ②　１区　中大・吉居選手

 ③　２区　駒大・田澤選手

 ④　３区について

 ⑤　５区について

 ⑥　９区、１０区について

 ⑦　前回大会の区間１位、区間２位対決

 ⑧　シード争い

 ⑨　今シーズンに思った事１　２０２０年大会の２区について

 ⑩　今シーズンに思った事２　出雲駅伝について

 ⑪　今シーズンに思った事３　２０２４年のスパイク規制

 ・　青学大について

大会新記録で優勝した青学大が２位につけた差１０分５１秒は、２０１５年大会の１０分５０秒差を１秒上回り、近年最大の圧勝劇でした
。

最大のライバルと見られていた駒大との優勝争いは、３区で大きく前に出ると、４区と５区で合わせて１分半も差を上積みして合計３分半近いリードを奪い、往路でほぼ総合優勝を確実なものにしました。

復路のオーダーは、箱根駅伝と全国高校駅伝のエース区間で快走した経験を持つ２人を７区と８区に投入。

８区までに優勝争いを決めて、９区１０区は無難に走るピクニックランにするのかと思いきや、ラスト２区間も攻めに攻めて、区間新を２連発するという最高の締めくくりでした。

９区１０区の区間新は従来の区間記録を大幅に上回っており、シューズが進化したから出た記録というわけではないのもまた爽快です。

やっぱり王者が圧倒的なタイムを出す大会は面白いです。

高反発シューズの効果は以前は１区間１分くらいと考えていましたが、現在は１ｋｍ２秒と考えた方が現実に近い気がしています。

１０時間４３分４２秒の優勝記録は、シューズ革命以前でいうところの１０時間５１分くらいに相当すると思います。

２０１５年大会の青学大が出した１０時間４９分台の事実上の最高記録にはやや届きませんが、かなり迫る記録でしょう。

できれば優勝チーム以外の上位チームも１０時間５３分を切るくらいで走ってもらえると、シューズ効果を１ｋｍ２秒とした場合、かつての大台である１１時間切りに相当するので、記録を見る楽しみも増えたのですが。

トップをのびのびと走るチームとは違って、追う立場はつらいですから、２位以下のタイムが出にくいのも仕方ないのでしょうけど。

今更ながらに、２位で４８分台を出した２０２０年大会の東海大、第３世代高反発シューズが登場する前の２０１９年大会で、５５分台を記録して２位の青学大と５８分台で３位の東洋大、８年も前の今とは別世界のような大学長距離界だった２０１４年大会で、５７分台までタイムを伸ばしても勝てなかった駒大、みんな凄いチームだったなと思います。

青学大は１区の人選の上手さも印象的です。

１区を走ったのは２年生の志貴選手。

ライバルの駒大の１区は、チームナンバー３の実力者と目される唐澤選手。

志貴選手は全日本１区で好走した実績があり、唐澤選手は故障上がりでしたが、１万ｍのタイムでは志貴選手の２８分５０秒に対して唐澤選手が２８分０２秒であり、持ちタイムには大きな差があります。

２８分５０秒が志貴選手の本当の力を表している数字というわけではないでしょうけど、１万ｍで５０秒弱の差がある相手に対して、２１．３ｋｍを走って最終的には６秒差で抑えました。

青学大の１区といえば、２０１７年大会ではチームの中堅選手を使い、ライバルチームのエース格を相手に、ほぼ引き分けに持ち込むという走りを見せた事があります。

しかしあの大会はスローペースの１区を上手く利用したものです。

今大会はハイペースだったので、普通ならば実力差が出やすいはずなのですが。

しかし青学大は箱根の区間タイムに対してデータ上の持ちタイムが控えめ過ぎですね。

まさかこんな区間タイムが出るなんて、というのをやってしまうのが青学大。

過去にもびっくりさせられたケースはあり、かつての山上りの神野選手は最たる例ですが、山下りの小野田選手や２区の森田選手、３区の秋山選手、７区の林選手も予想よりも遥かに速かった。

原監督は選手の区間配置を１年中考えているそうですが、５区、６区は特殊区間なので適性が何より大事でしょうけど、平地区間は適性があっても走力がなければレベルの高い区間タイムは出せないと思うのですが。

今大会では特に持ちタイム以上の爆走をした選手が多くいた印象です。

１区志貴選手（１万ｍベスト２８分５０秒）、３区太田選手（２８分３２秒）、９区中村選手（２８分２９秒）、１０区中倉選手（２８分３３秒）は、区間タイムから予想すると、太田選手と中村選手は１万ｍならば２７分４５秒～２８分００秒、志貴選手と中倉選手は２８分００秒～２８分１５秒くらいは実質走力として持っていると思います。

もしもそうではないとしたら、平地区間でも１２０％の力を出せる区間適性を見抜いてしまう監督の眼力が凄すぎるという事なので、それはそれで半端ないです。

今大会で圧勝した青学大は、エース近藤選手や３区で激走した太田選手、山上りのスペシャリストになりそうな若林選手を含めて８人が残ります。

来年も気象条件が良ければ１０時間４５分以内のタイムは出してくる可能性は高いです。

前回大会で４位に沈んだように、青学大と言えども不完全燃焼でレースを終えてしまう事もあるでしょうけど、力を発揮してしまったら、桁外れの戦力を持つ青学大に対抗できるチームは今のところ見当たりません。

もし可能性があるとしたら優れた速さを持つ駒大でしょうか。

最近は速さより強さだと言われがちですが、速さという言葉が持ちタイム＝走力の事で、強さという言葉が悪条件でも持っている力をきっちり出し切れる勝負強さのような物の事だとしたら、１万ｍ２８分３０秒クラスの速さの選手を１０人揃えて、全員がその実力をきっちり出したとしても、１０時間４３分台の大会記録にはかすりもしないと思います。

１万ｍで２８分そこそこ、ハーフだったら６１分台前半、青学大に対抗するとしたら上位１０人平均でこれくらいのレベルの速さを持つチームを作る必要があると思います。

青学大自身の持ちタイムは上記ほどではありませんが、１０時間４３分台を記録したチームならば事実上の走力は多分それくらいはありそうです。

比較的、順大や東洋大は、実力をきっちり発揮できる強さの面では優れている印象ですが、速さで青学大とは大きな差があるかと思います。

駒大のように速さの部分で優れているチームの方が、上手くはまった時は打倒青学大を達成できる可能性がありそうな気がします。

才能のある選手の確保と速さの強化が何より大事だとしたら、青学大を上回る速さのチームを作れるのはやっぱり大八木監督の駒大だけじゃないかと。

駒大は高反発シューズや高性能スパイクが登場するずっと前の２０１３年大会で、エントリー選手の１万ｍ上位１０人平均で２８分３１秒、チームエントリー以前の段階では上位１０人平均は２８分台前半というスーパーチームを作った実績があります。

もしも現在のようなタイムの伸びやすいシューズの存在があれば、あのシーズンの駒大は上位１０人平均で２８分一桁くらいまで伸ばせたんじゃないでしょうか。

往路で前に出て、青学大にトップ効果が発生しないようにしなければ勝負にならないでしょうから、そういう意味でも日本トップクラスの選手を２人持つ駒大は、今のところは青学大に対抗できる可能性を持つ唯一のチームかと思います。

もっとも、今の青学大の勢いだと、原監督が目標とする１０時間４０分切りの記録も近いうちに達成してしまいそうな気がするので、そうなったらもう他チームはお手上げになってしまいます。

個人的には王者の圧勝は好きですが、トップスリーが４８分切り、５位で５３分を切るくらいのタイムも見てみたいですね。

その上で優勝チームが圧勝劇を見せてくれたら最高です。

・　１区　中大・吉居選手

１区の区間記録を２６秒塗り替えてくれた中大・吉居選手。

シューズの違いを考慮すると更新幅は４０秒くらいは欲しかったところですが、１区の区間記録を塗り替えてくれて本当に良かったです。

ここ数年とにかく嫌だったのは、シューズの性能差を無視して非高反発シューズ時代の記録と比較される事。

非高反発シューズ時代の記録がすべて塗り替えられれば比較される事はなくなるでしょうから。

今年も有力選手が集まった１区は、前回大会のようにスローペースにならないで欲しいと思いながら見ていました。

スタートして３００ｍ。一旦スローになりかけた集団を、吉居選手が自ら引っ張ってハイペースの戦いに持ち込みました。

最初の１ｋｍは２分５０秒と良いペースですが、下げ上げしてのタイムなので、実際には体力のロスがあったはずです。

１０ｋｍは２７分５８秒で通過！

いくらシューズが進化したとはいえ、２７分台での通過はインパクトがありました。

日本人が２０ｋｍ級のレースで留学生のようなペースで突っ込む、夢のようなタイムを見せてもらいました。

蒲田では区間記録ペースを３８秒も上回り、前区間記録保持者の東海大・佐藤選手は蒲田以降に足の痙攣があってペースダウンしていたので、これは１分くらい塗り替えるのではないかと思ったのですが、蒲田以降は佐藤選手よりもペースが鈍り最終的には２６秒の更新。

来年また１区を走るのならば、課題は明確ですから、あと３０秒くらいの更新を期待したいです。

来年は順大・三浦選手も１区に出場して欲しいですね。ライバル同士が終盤に競り合えばペースダウンは防げそうです。

この２人ならば牽制してスローペースになるという事もないでしょう。

２年前の２区で東洋大・相澤選手と東京国際大・伊藤選手が見せたようなランニングデートの１区バージョンを期待したいです。

・　２区　駒大・田澤選手

今大会で一番レベルの高い区間タイムを残したのは２区区間賞の田澤選手でしょう。

６６分１３秒はシューズ革命以前でも６７分を切るレベルだと思います。

高反発シューズが本格普及する前の２０１９年大会以前とはもう厳密な比較は不可能ですが、１ｋｍ２秒で２３．１ｋｍだと４６．２秒なので、６６分１３秒は６７分の壁を突破している計算になるので、どうしても興奮してしまいます。

６６分１４秒じゃなくて本当に良かった。

６６分１０秒台という大記録にもかかわらず、鶴見中継所から横浜駅前までの部分で２３分以上、権太坂から戸塚中継所までも同じく２３分以上かかり、かつて６６分４０秒台で走った選手達と比べても、序盤と終盤は特別に速くはありません。

速かったのは横浜駅前～権太坂の２区中盤に当たる部分で、２０分０３秒を記録しています。

歴史に残るスーパーエースでも中盤は２０分３０秒～４０秒くらいかかっていたので、やっぱり最近の２区は中盤で攻めるのが新しい攻略法のようです。

田澤選手は青学大のエース近藤選手を引き離したものの、あちらも６７分０９秒、高反発シューズ効果を含めても昔の６８分切りに相当するタイムで走り切ったため、１分程度離すに留まりました。

レースパターンとして、優勝候補２強のエースが、片方が超スーパーエース級の６７分切り相当の記録で突っ走り、もう片方の選手もハイレベルな６８分切り相当の記録で耐える、というのは珍しいです。

互角のエース同士の派手な競り合いとは違い、優勝候補のエースで走力に差のある２人が、違う場所でベストを尽くして６７分切り＆６８分切りを達成する渋い勝負でした。

非高反発シューズ時代ですが、タイム的に近いのは、９５年大会の優勝候補チームのエース２人、早大・渡辺選手（６６分４８秒）と山梨学大・マヤカ選手（６７分２０秒）の例がありますが、あの２人は互角のライバルとされていたので、攻める側と守る側のような関係ではありませんでした。

１９９６年大会の早大と中大のエース、渡辺選手（６６分５４秒）と松田選手（６８分２９秒）の例は、優勝候補同士で力に差のあるエース同士の勝負という意味では近いですが、守る側が６８分切りというケースには当てはまりません。

２０１６年大会の東洋大と青学大のエース、服部選手（６７分０４秒）と一色選手（６７分３５秒）の例も、トップとの差を詰めてくる服部選手と、トップを守り続ける一色選手という、攻める側と守る側の位置こそ違うものの今回のケースに若干近い物があります。

しかし攻める側が６７分切りに惜しくも届きませんでした。

それにあの大会は青学大の戦力が大き過ぎて１強状態。

全日本チャンピオンの東洋大でも、上位候補ではあっても優勝候補に推すにはやや弱かったかと。

今大会のようなケースは今までありそうでなかったので、２区の歴史に残る貴重な戦いが見れたと思います。

しかし田澤選手の走りっぷりは最高ですね。

あと１ｋｍのポイントで、先頭を映す画面には、田澤選手の後ろに続く物は、関係車両２台を除くと、画面のずっと奥までがらーーーんとなにもありません。

すべてを消し飛ばしたような圧倒感がありました。

テレビ局の人もあのシーンは良い絵が撮れたと思ってるんじゃないでしょうか。

来年は３区説がある田澤選手ですが、来年も２区を走ってくれないかなと思ってしまいます。

区間記録を塗り替える可能性を持つ日本人選手は、田澤選手だけでしょうから。

・　３区について

青学大・太田選手が激走したこの３区は勝負が大きく動いた区間でした。

４区と５区で駒大を大きく突き放せたのは、３区でついた勢いの差、流れの差が大きかったと思います。

その良い流れをもたらした３区の太田選手の快走は全く予想できませんでした。

大田選手の区間タイム６１分００秒は、駒大・田澤選手の日本人１年生最高記録を２５秒も更新するもの。

非高反発シューズ時代の１年生最高記録である東海大・佐藤選手の６２分１２秒と比べても、高反発シューズ効果を１ｋｍ２秒とすれば３０秒ほど上回ります。

太田選手のタイムは非高反発シューズ時代ならば６１分４２秒ちょっとに相当するという事になりますが、現役学生としてオリンピックの長距離種目代表になった早大４年生・竹澤選手が２００９年大会でマークした当時の区間記録が６１分４０秒ですから、あの時の竹澤選手が万全ではなかったとしても、ほぼ同じレベルの走りを日本人１年生がしたのは驚異的です。

竹澤選手が６１分４０秒を出した時、陸上雑誌には、さらなる更新は極めて困難と思わせるタイム、と書かれていましたが、日本人１年生がこのレベルに到達するとは思いませんでした。

３区６１分００秒というタイムは、２区ならば６７分を軽く切るくらいの価値があると思います。

山の神を除いて平地区間に限定すれば、日本人１年生としては史上最高の走りだったのではないでしょうか。

区間タイムで太田選手の上を行った東京国際大・丹所選手や、２区で６６分そこそこの爆走を見せた田澤選手の存在もありますが、個人的には今大会で１番印象的な走りをした選手は太田選手でした。

今大会では丹所選手に引っ張られて出たタイム。来年も３区を走るのなら自分でペースを作ってどこまで記録を伸ばせるのか気になります。

高反発シューズが本格普及する前の時代の３区区間記録は、太田選手が更新する以前の青学大記録でもある６１分２６秒。

東京国際大・ヴィンセント選手が区間記録を２分以上更新していますが、日本人選手では３１秒上回るだけに留まっているので、もし来年も太田選手や丹所選手が３区を走るのならば、できれば６０分４０秒くらいのタイムを期待したいです。

来年は田澤選手の３区説もあるので、もしかしたら太田選手は駒大の大エースとぶつかる可能性もあります。

太田選手が今年と同じレベルの走りができれば、田澤選手がコース適性の関係で今年以上の力を発揮したとしても、多分数十秒差で抑えられそうですが、実際に超スーパーエースとぶつかった時にどんな戦いになるか。

できれば３区よりも２区でぶつかって欲しいですが。

とにかくあと３年、楽しみな選手が出てきたのは嬉しいです。

この区間では、日本人初の６１分切りを果たした区間１位の丹所選手（６０分５５秒）、区間３位の順大・伊豫田選手のタイム（６１分１９秒）も素晴らしいです。

丹所選手は１０ｋｍを２７分４７秒で通過。

１区の吉居選手を超えるスピードで突っ込みました。

３区前半は下り勾配なので、ここでスピードが上がりやすいのは当然ですが、最終的な区間タイムでも２１．４ｋｍを６０分５５秒で走り、２１．３ｋｍを６０分４０秒で走った吉居選手と比べても劣りません。

３区は１区と比べて気温の高さや日差しの強さというマイナス要因もあるので、区間全体ならば１区と比べてスピードが上がりやすいというわけではないと思います。

区間３位の伊豫田選手は１７位からのスタートで、区間賞と大きくは変わらないタイムを出しているのは驚異的です。

個人的に今大会で特別にレベルの高い区間タイムを出したと感じた日本人選手は６人。

一番は２区の田澤選手ですが、後の５人は１区と９区の区間新の２人と、３区の区間１位～３位の３人です。

この中でチーム順位でトップと無縁の位置を走っていたのは伊豫田選手だけ。

上位を走って欲しかったですね。

もしも太田選手や丹所選手と近い位置でスタートしていたら、３区の区間賞は伊豫田選手だったかも知れません。

３区の歴代上位記録に、帝京大・遠藤選手の６１分２３秒という記録があります。

厚底高反発シューズが本格的に普及した２０２０年大会で当時２年生の遠藤選手が出した記録ですが、当時の情報を調べてもシューズは「不明」となっています。ミズノ製の薄底らしいですが。

今年の遠藤選手は初めて厚底シューズを履いて３区に挑んだそうですが、タイムは６１分３９秒と２年前よりもややダウン。

シューズで大事なのは底の厚さよりも反発力によってどれだけ走速度が上がるかですから、これまで履いていた薄底シューズも反発力は優秀だったと見るべきか、それとも厚底に履き替える事でシューズの性能は上がったが体調が悪くてタイムが落ちてしまったのか。

今回遠藤選手が履いていたミズノ製の厚底シューズと、２年前に遠藤選手が履いていた謎のシューズ、それにナイキのヴェイパーフライネクスト％などの厚底の性能の違いが気になるところです。

４年連続３区を走った遠藤選手は今年も区間上位の好走で最後の箱根を締めくくりました。

もはやエース区間と呼んでもおかしくはないハイレベルなこの区間ですが、今年は例年に増して特に濃い３区でした。

・　５区について

山上りは７０分３３秒の好タイムを出した帝京大・細谷翔馬選手が制し、２年連続で５区の区間賞を獲得しました。

５区の区間賞を２回獲得するのは非常に難しい事です。

２０００年代以降で、５区区間賞を取ってその後にも５区に出場した経験がある選手は、前回大会までだと、２０００年大会で１年生で獲得した中大・藤原選手、２００３年大会で１年生で区間新記録を出して獲得した東海大・中井選手、２００５年大会獲得の順大・今井選手、２００９年大会獲得の東洋大・柏原選手、２０１３年大会獲得の日体大・服部選手、２０１５年大会獲得の青学大・神野選手、２０１８年大会獲得の法大・青木選手、２０１９年大会獲得の國學院大・浦野選手、２０２０年大会獲得の東洋大・宮下選手の９人です。

この９人の中で、２回目の区間賞獲得に成功したのは今井選手と柏原選手の山の神コンビしかいません。

３代目山の神の神野選手ですら２回目の５区出場では留学生に敗れて区間２位でした。

２区などの他の区間でも言える事ですが、区間賞１回獲得と２回獲得では難度が全然違ってきます。

柏原選手以来の５区２年連続区間賞の偉業を達成した細谷翔馬選手には、監督が「山のペガサス」の異名をつけたそうです。

かつての柏原竜二選手にも名前にちなんだ「山の竜神」の異名がありましたが、竜二で竜神、翔馬でペガサスときて、次に５区で２年連続区間賞を獲得する選手は、走りのパフォーマンス以外にも名前が気になってきますね。

細谷選手に食らいつく駒大・金子選手の走りも印象的でした。

今大会の優勝争いの分かれ目だったと思います。

青学大と駒大の優勝争いは、３区を終えて１分５９秒も先行した青学大が圧倒的に有利で、４区を終えてその差は２分５５秒まで拡大しました。

去年の１０区のような例外はあるものの、逆転が難しくなると言われている目安は３分差。

駒大はその寸前でギリギリ優勝の望みを繋いでいる状態でした。

近い位置でスタートした細谷選手に食らいついた金子選手は、大平台の定点でトップ青学大との差を２分３７秒に短縮。

前年区間賞の選手についていればまだ可能性はあるが、ここで離れてしまったらもう後がない状態。

表情も動きもかなりきつそうだが、金子選手は細谷選手の後ろに食らいつく。

しかし１０．５ｋｍ過ぎ、カメラが３位國學院大を追撃する帝京大の姿を捕えると、細谷選手の後ろには金子選手の姿はなかった。

「細谷１人です」とアナウンサーが伝えた時に、今年はこれで決まったかなと思いました。

往路ゴール地点では青学大と駒大の差は３分２８秒に開き、優勝争いは５区で決着がついた感がありました。

５区は１年生の活躍が見られたのも面白かったです。

初の１年生７１分切りが２人も出ました。

トップ独走で、１万ｍでも２８分台前半の走力を持つ青学大・若林選手の区間タイム７０分４６秒も立派ですが、１７位から追い上げて７０分４４秒を出した東海大・吉田選手は更に凄いです。

吉田選手は１万ｍの持ちタイムは平凡で、ハーフは記録なし、げつりくの箱根駅伝観戦ガイドのエントリー候補メンバーには名前すら載っていません。

しかし７０分４４秒は５区１年生歴代最速タイム。おそらくは上りの適性は相当の物でしょう。

シューズの違いがあるので今回の吉田選手や若林選手のタイムを、過去の５区で出された１年生の好記録と比較するにはある程度の補正が必要です。

それでも補正を１ｋｍ２秒とした場合、現在よりも約２０ｍ短いコースで出された２００３年大会の東海大・中井選手の７１分２９秒や、２０００年大会の中大・藤原選手の７１分３６秒、現在よりも約２４ｍ短いコースの１９９８年大会で出た神奈川大・勝間選手の７１分２９秒といった記録を超えます。

流石に、東洋大・柏原選手が２３ｋｍ超の５区で出した１年生記録を現在の距離に換算すると６９分そこそこなので、神と比較してはいけませんが、２人とも将来的には新しい山の神となる可能性を持つ逸材だと思います。

吉田選手は、上り適性で大活躍した初代山の神の順大・今井選手タイプかも知れません

山の神には他にも、走力と適性を併せ持った柏原選手や神野選手タイプもあり、若林選手はこちらに近い選手かと思います。

適性の吉田選手ＶＳ走力の若林選手の来年の対決は今から楽しみになります。

・　９区、１０区について

青学大は９区の中村選手と１０区の中倉選手が連続区間新記録。

どちらも大幅な更新で、区間記録を６７分台にまで伸ばしました。

あのぶっちぎりの状況ならば、キロ３分の安全運転で走れば軽く優勝できるのに、最後まで攻めの姿勢を崩しませんでした。

私はこれまでは、こういう状況では勝つ可能性が僅かでも高い戦い方をするのがベストだと思っていました。

いくら強い選手でも、積極的な攻めの走りはアクシデントやブレーキに繋がる可能性が少しは高まるはずです。

守りの走りで確実にトップを維持して、万が一の危険も回避して、他チームの僅かな優勝の望みも潰してしまう走りこそ真の真剣勝負である、と以前だったら感じたと思います。

でも青学大の区間新連発の爽快な走りを見ると、そんな堅苦しい考え方はどうでも良くなってきてしまいます。

従来の区間記録を４６秒塗り替える６７分１５秒を記録した９区の中村選手。

同じ距離を走った２区のエース近藤選手の区間タイムと比べても僅か６秒差。

上り坂のきつい２区の方がコースの難しさは上ですが、２区と比べて走り出す時間が２時間以上も遅くなる９区は、気温の高さや日差しの強さに結構な違いがあり、個人的にはどちらかといえば９区の方がタイムが出づらいと考えています。

９区の６７分１５秒は２区ならば６７分を少し切るくらいの価値があると思います。

９区の旧区間記録６８分０１秒は高反発シューズが登場するずっと前の２００８年大会のものであり、シューズ効果を１ｋｍ２秒とすれば、２３．１ｋｍならば４６秒とちょっととなり、今回出た６７分１５秒は旧区間記録にほぼ並ぶ記録です。

前の区間記録である中央学大・篠藤選手のタイムも、数字の上では負けていても事実上は同等レベルに凄い記録といえます。

１０区は複雑です。

旧区間記録６８分４０秒は高反発シューズ時代が本格的に始まった２０２０年大会のもので、中倉選手はそのタイムを５０秒も更新する６７分５０秒を記録しました。

ただし２０２０年大会で前の区間記録を作った創価大・嶋津選手は当時はミズノ製のプロトタイプシューズを履いていました。

ミズノ製プロトタイプシューズとはウェーブデュエルネオという製品だったそうで、ヴェイパーフライのように厚底でカーボンプレート内蔵という物ではありませんが、薄底でカーボン以外の高反発プレートを内蔵しているというシューズです。

ウェーブデュエルネオがナイキの第３世代以降の高反発シューズと同等くらいに優秀だったとすれば、今大会でその記録を５０秒も塗り替えた中倉選手はもの凄い走りをした事になります。

ウェーブデュエルネオに走速度をアップさせる効果があまりなかったとしたら、その分嶋津選手の記録も相当に凄かったという事になり、仮に性能が非高反発シューズ並だったとすれば、９区の新旧区間記録と同じような関係になります。

２０２０年大会の時代は高反発シューズの過渡期であり、高反発シューズの性能にもメーカーによってばらつきはあったと思いますが、流石に非高反発シューズ並みの性能と考えるのは無理がありそうですが。

しかしウェーブデュエルネオは薄底。

厚底でカーボンプレートを内蔵したナイキのシューズでも、第２世代まではそこまで大きくタイムが伸びるシューズと言う印象はありませんでした。

シューズ問題が絡むと訳がわからなくなってきますね。

中村選手も中倉選手も、６７分台まで記録を伸ばせたのは高性能な高反発シューズの影響は大きいですが、両区間とも大幅に更新しているので、９区、１０区の歴代最高の走りとして相応しい大記録だと思います。

この２区間ではもう、シューズガー、シューズガー言わないで済むので嬉しいです。

記録が好きで駅伝に興味を持った身ですので、シューズの違いやコース変更などで、過去に区間記録よりも格上の記録があったりするとどうしても気になってしまいます。

終盤２区間をすっきりさせてくれたのは本当に嬉しいです。

・　前回大会の区間１位、区間２位対決

５区山上りの序盤で、前回区間賞の帝京大・細谷選手と前回区間２位の創価大・三上選手の競り合いがありました。

５区で前年の１位２位が並ぶのは珍しいような気がして、過去の記録を調べてみたけどなかなか同じ例はみつからず、２００６年大会まで遡る必要がありました。

順大・今井選手と駒大・村上選手が並んだ時以来１６年ぶりの事でした。

細谷選手と三上選手が並んでいる場面は短かったものの、前年の区間トップ２の頂上対決という貴重な勝負を見せてもらえました。

前年区間トップ２の直接対決は、今大会の２区の中盤以降で繰り広げられたヴィンセント対決もそれに該当します。

単独走になりやすい５区とは違って混戦になりやすい２区ならば多分珍しくはない事、と思いきや、調べてみたら２００７年大会の東洋大・黒崎選手と山梨学大・モグス選手以来でこちらも１５年ぶりでした。

今大会は勝負どころの２区と５区で貴重な豪華対決が見れた贅沢な大会でしたね。

・　シード争い

今大会のアンカー区間でのシード争いは、１０位の帝京大を３２秒後ろから１１位法大が追うという形でスタート。

最終的には両チームの前を行く東海大の選手に低血糖症のアクシデントが発生して１１位まで後退した事により、シードを争っていた帝京大と法大はどちらも１０位以内でゴールしてシード獲得となりました。

ちょっと思い出したのは、２００８年大会。

あの大会の１０区でシード争いをしていたのは日大と東洋大でしたが、どちらがシードを獲得するか？という状況で、前を行くチームにアクシデントがあり、両チームともシード獲得という事がありました。

この年にアンカーでアクシデントが発生したのも東海大です。

あまり繰り返して欲しくはないパターンですが、あの時のように途中棄権にならなくて良かったです。

繰り返される歴史といえば、法大がゴール間際で道を間違えそうになるシーンは２０１１年大会の國學院大を思い出しました。

あの年もシード争いは激戦でした。

最後まで激戦のシード争いも面白いですが、個人的には先行逃げ切りが好きなので、激しいシード争いは復路のエース区間９区で終わらせて、アンカーは順位をキープして走る展開が好みです。

シードを狙うチームは、アンカーが余裕をもって走れるように、９区までの選手に頑張って欲しいです。

・　今シーズンに思った事１　２０２０年大会の２区

今大会の話ではないのですが、今シーズンに思った事がありました。

２年前の２区で東洋大・相澤選手が出した６５分５７秒は、シューズによる伸びを１ｋｍ２秒とした場合、２０１９年までの日本人最高記録である６６分４５秒を超えていた事に今更気付きました。

２０２０年大会から高反発シューズ時代に入り、タイムは大きく向上。

シューズ効果を厳密に測る事はできませんが、１ｋｍ当たり２～３秒は伸びるというのは当時から言われていました。

私は当時はシューズ効果が良くわからず１区間１分くらいとアバウトに考えていましたが、最近は１ｋｍ２秒と考えています。

２３．１ｋｍで４６秒の効果として加算すれば、相澤選手のタイムは６６分４３秒になります。

１年生最高記録も、２０２０年大会以降に以前では考えられないレベルの記録が出ていて、青学大・岸本選手が２０２０年大会の２区で出した６７分０３秒、東洋大・松山選手が２０２１年大会の２区で出した６７分１５秒も、シューズ補正を１ｋｍ２秒とした場合、非高反発シューズ時代の２区日本人１年生最高記録の東海大・伊達選手が２００５年大会で出した６８分０４秒を超え、特に岸本選手にいたってはシューズ効果を抜いても夢の６７分台相当の記録になります。

２０２１年大会は前年よりも気象条件が悪かったので、松山選手のタイムの価値は前年の岸本選手と同等かもしくはそれ以上だったかも知れません。

かつて伊達選手が６８分０４秒を記録した２０００年代は、日本人１年生６８分切りは夢の記録でした。

２０１０年代に入り、２０１０年大会で東海大・村澤選手が６８分０８秒、２０１１年大会で東洋大・設楽啓太選手が６８分０９秒を記録し、日本人１年生６７分台は目前かと思われましたが、その後は続かず、２０１０年代は終了。

２０２０年大会で桁外れの６７分０３秒が出たものの、シューズが劇的に進化した年の記録であり、シューズの知識がなかった当時の私には記録の価値が良くわかりませんでした。

前述のように１ｋｍ２秒の効果とすれば６７分４９秒に相当し、ずっと見たかった日本人１年生による、非高反発シューズ時代の６８分切りに相当する記録、は気付けば２年も前に出ていました。

駅伝の記録好きとして、岸本選手の１年生６８分切りも、相澤選手の日本人最高記録も、当時気付いていれば喜びも興奮もあったでしょうけど、２年も経ってからだと「あの時に出ていたのか」以上の感想が浮かびません。

高反発シューズは本当に駅伝の記録に対する興味をそいでくれます。

選手たちの走り自体は素晴らしいのですが。

・　今シーズンに思った事２　出雲駅伝について

箱根駅伝の話ですらないのですが、今シーズンから２０２３年大会までの出雲駅伝は、１区、６区の選手は大鳥居を迂回するルートになり、若干のコース変更がありました。

しかし距離は従来とほぼ変わらないという理由で、公認記録になるそうです。

変わらないならば良いような気もしますが、別のコースを通っているのにこれまでのコースの選手の記録と同じ扱いになるのはどうかと思います。

箱根では２０００年大会で５区と６区にコース変更があり、距離の差はたった４ｍでしたが別コースの記録という扱いになりました。

５区と６区の大記録が消えてしまい、駅伝ファンとして最大級に嫌な思い出として憶えていますが、今思うと距離が違うのにごっちゃにされるよりは良かったと思います。（コース変更自体がないのが１番！）

出雲では１９９８年大会で各中継所の位置が変わる等の理由により全区間で区間記録がリセットされています。

この時にはアンカーの６区だけは前年までと距離が変わらず、襷をもらう中継所の位置もゴール地点も、テレビで見る限りはほぼ同じ位置に見えるのですが、前年までの区間記録はリセットされてしまい、この１９９８年大会の区間賞タイムが６区の新コース区間記録になりました。

こんな事があった出雲駅伝ですが、今大会からの大鳥居迂回ルートは、明らかに別のコースを走っているのに公認されるそうです。

一般の駅伝ファンとしては公式の発表を受け入れるしかないのですが、公式の言う事をすべて鵜呑みにするとどうしても矛盾が生じる事があるんですよね。

出雲も箱根も全日本も。

・　今シーズンに思った事３　２０２４年のスパイク規制

駅伝の話ですらないのですが。

今シーズンに見た陸上長距離関係の情報の中で、一番ドキッと来たのがこれです。

シューズの厚さがまた規制されると言う記事。

結果的には心配する事はなかったのですが。

１２月に世界陸連が２０２４年秋以降にトラック種目におけるシューズの靴底の厚さを２０ｍｍまでとするという新ルールを発表しました。

現在は２５ｍｍなので、２０ｍｍに規制されると１万ｍのタイムに大きな変化が出るのではないかと思ったのですが、現在の主流スパイクであるナイキのドラゴンフライは、２０ｍｍまでとする新レギュレーションには引っかからないそうです。

かつてナイキの厚底高反発シューズ・ヴェイパーフライがトラックでも猛威を振るい、その後にトラックでの使用が禁止されると、今度は後を継ぐように高性能スパイク・ドラゴンフライによる好記録ラッシュが続きました。

かつての大学長距離での１流ランナーの目安だった１万ｍ２９分切りは、今では当たり前の記録となっています。

２０１９年度に起こったシューズ革命で、大学長距離における記録の価値観は一変してしまい、あまりにも急激な変化に戸惑っていましたが、最近はやっと高反発シューズによるロードでの記録の伸び、高性能スパイクによるトラックでの記録の伸びといった物がある程度わかってきて、心の整理ができてきたところでした。

てっきりドラゴンフライは現在の規制値である２５ｍｍギリギリの厚さだと思っていたので、またか！と衝撃を受けたのですが、前述のようにドラゴンフライは規制対象にはならないらしいです。

ナイキは２０２０年に靴底の厚さは４０ｍｍとされた数日後に、どう考えても元々準備をしていたとしか思えない規制ギリギリのアルファフライを発表し、今回の２０ｍｍ規制もナイキのスパイクはセーフ。

大学長距離の記録好きとしては、全選手がナイキのロード用シューズで駅伝を走り、ナイキのスパイクでトラックを走ってもらった方が、選手間や過去の記録との比較がしやすいので、ナイキ独占はむしろ助かるのですが、世界陸連とナイキの関係性って・・・と考えるとあまり気分の良い物ではありませんね。

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