２０２３年大会感想３

２０２３年大会の感想　（３）

普通の感想です

目次

①　駒大

 ②　中大

 ③　青学大

 ④　創価大

 ⑤　１区

 ⑥　２区　駒大・田澤選手

 ⑦　２区　中大・吉居大和選手

 ⑧　２区　青学大・近藤選手

 ⑨　４区　青学大・太田選手

 ⑩　４区　東京国際大・ヴィンセント選手

 ⑪　５区　城西大・山本選手

 ⑫　６区

 ⑬　１区区間賞→もう１つ区間賞→シード落ち

 ⑭　３区、８区の吹上交差点

 ⑮　５区と高反発シューズ

 ⑯　シードラインのタイム

 ・　駒大

２０００年代に黄金期を築いた駒大がついに復活しました。

一昨年の優勝は創価大のアクシデントに助けられた部分が大きかったですが、今大会では１０時間４７分台という優れた総合タイムを出し、それに加えて、後方から粘り強く追いかけてくる手強い２位チームをしっかりと押さえ込んでの優勝。

大八木監督は他の大学が崩れてくれたから優勝できたと謙遜したコメントを残していますが、今回は明らかに力で勝ち取った優勝という印象でした。

総合タイム１０時間４７分１１秒は、高反発シューズ効果を総合で７分くらいとすれば、昔だったら５４分台相当の記録。

非高反発シューズ時代にはもっと異常なほど速い記録もありますが、５５分を切るレベルのタイムというのはそうそう出る物ではありません。

１区がスローペースだったので、もう少しタイムを伸ばす事も可能だったでしょう。

高反発シューズがなかった時代（～２０１７年大会）には、青学大と東洋大が４９分台～５３分台というずば抜けたレベルの４つの総合記録を出していますが、今大会の駒大の記録はこれらのどこかに割って入る可能性もありそうです。

来年は駒大史上最強ランナーの田澤選手が抜けますが、層が厚く、山の経験者もいるので、今年と同等レベルのタイムを出すのはそれほど難しくはないと思います。

山は５区６区ともに１年生が活躍。新たな山の名選手誕生の予感がします。

対青学大では５区の山川選手が勝負を決めた感がありますが、実際に最後まで総合優勝を争った中大に対しては、６区の伊藤選手が４年連続で出場する下りのベテラン若林選手に１７秒勝ち、タイム差を３０秒→４７秒に広げて、チームにトップ効果をもたらしたのが何よりの勝因になっていたと思います。

７区以降の中大の粘りも凄かったので、もしも６区が逆に差を詰められて１０秒～２０秒差くらいなっていたら、最終区までもつれていたかも知れません。

２０１４年大会では、トップ東洋大が２位駒大に大して６区で差を広げてチームを波に乗せた事がありましたが、同じようなレース展開で、今度は駒大がやる側になりましたね。

９年越しで屈辱を晴らしたような感じがしました。

ところで、出雲、全日本と合わせて、駒大としては初の３冠を達成して、大八木監督も、初の３冠獲得に、こんなに幸せな監督はいないと言って大喜びしていたようですが、正直３冠でここまで盛り上がったのは意外でした。

出雲は面白い大会ですし、３大駅伝の開幕戦としてすっかり定着していますが、箱根の約半分の距離を走る全日本は箱根に繋がる大会なのに対して、出雲は箱根の１／４以下の距離であり、距離が短過ぎるので、箱根や全日本とは全く別種の駅伝大会だと思います。

駒大はこれまで３冠獲得の経験はありませんでしたが、箱根と全日本の２冠を過去６回も経験しているので、それに出雲を含めた３冠に、そこまで価値を感じていたとは思いませんでした。

他のチームですが、出雲で結果を出す事が有力な高校生へのアピールになり、チームの強化に繋がっているという話も聞きました。

出雲は３大駅伝に数えられているものの、実際には２大駅伝前のプロローグ的大会と考えていましたが、出雲駅伝という大会の認識を改めなければいけないなと感じました。

箱根の予想にどう組み込めばいいのかはわかりませんが。

・　中大

２位チームが戦前に２強とされていた青学大ではなかったのは意外でした。

３位候補と思っていた中大が、３０秒差の往路２位から、粘り強く駒大を追いかけて１分４２秒差で総合準優勝。

ある程度優勝争いが決まりかけると、１位と２位のタイム差は大きく開く傾向にありますが、今回の中大は最後まで粘り抜きました、

前にいるチームが有利なので、１分ちょっと差を広げられるだけに留めた復路は、事実上は互角に近い戦いだったと思います。

１位と２位が終盤までがっつりぶつかり合ったのは早大と東洋大が優勝を争った２０１１年大会以来ですね。

２０２１年大会で駒大と創価大で終盤までもつれたのは特殊事情ですから。

今大会の優勝争いは本当にいい勝負だったと思います。

中大が２位以上になるのは、私が駅伝に本格的に興味を持ち、中大を応援して観戦した１９９６年大会以来です。

今はもう中大ファンというわけではありませんが、かつて応援していた大学の活躍はやっぱり嬉しいですね。

２区では吉居大和選手が区間賞でトップを奪い、中大ファンにとって神そのものである藤原選手以来の快挙を達成しました。

５区で阿部選手が終盤にトップの駒大との差を詰める走りは、こちらも藤原選手の５区逆転劇を彷彿とさせました。

阿部選手は逆転往路優勝は達成できませんでしたが、もしもできていたらダブル藤原の再来ですから、是非見たかったですね。本当に惜しかった。

４区を走った吉居駿恭選手はまだ１年生ですが、首位を譲ってしまったものの６１分４９秒を記録して４区の中大記録を更新。

以前の中大記録は正式には中野選手の６２分１７秒ですが、事実上は１９９６年大会の榎木選手の６２分１５秒です。

あの大会では４区で途中棄権者が出たためそちらにテレビカメラが行ってしまい、圧倒的な強さを見せていた榎木選手は序盤を除いてほとんどテレビに映りませんでした。

中大ファンにとって、榎木選手の華麗な走りを楽しめたと同時に、屈辱の思い出もある１９９６年大会の記録ですが、ついに上回るタイムを出してくれたのは嬉しいですね。

今大会の４区は青学大と駒大が速過ぎて、１年生が相手をするのは荷が重かったと思います。

これで兄の大和選手と２人で、エース区間と準エース区間の中大記録を吉居兄弟が占める形になりました。

大和選手が２区の中大記録を１分０９秒も上回り、シューズ効果を１ｋｍ２秒としても６７分３１秒というかつての中大記録を明らかに超えていますが、駿恭選手の更新幅は２６秒。

来年も４区を走るならばもう１ランク上の記録を期待したいです。

なお、駿恭選手のタイムは、國學院大・中西選手が２０２０年大会で出した記録を４秒超える４区の１年生最高記録ですが、高性能な第３世代高反発シューズが本格的に普及する前の時代の２０１８年大会で６２分２２秒という１年生最高記録が出ており、その記録は第１世代の高反発シューズを着用して出したものなので、どちらが上かはよくわかりません。

２０１８年の記録と比べて駿恭選手は３３秒速い記録を残しました。

最新の高反発シューズ　ＶＳ　非高反発シューズ　だったら、３３秒では駿恭選手は少し分が悪い気がしますが、

最新の高反発シューズ　ＶＳ　第１世代高反発シューズ　なので、これで３３秒差だとどっちが上なんでしょうね。

高反発シューズは第２世代まではそこまで高性能というわけではないので、逆にわかりにくい。

シューズ問題は今年も記録を見る上でとてもめんどくさいですね。

２強の一角を崩しての見事な総合準優勝でしたが、往路であと３０秒削りだす事ができれば、総合優勝してもおかしくはなかったと思います。

２区～４区を走った吉居大和選手、中野選手、吉居駿恭選手は、区間賞、区間賞、区間５位（１年生最高記録）、と見事な結果を残しましたが、ここの並び方を変えると、あと少しタイムを削れたような気がするのは素人考えでしょうか。

私個人としてはエースは２区を走ってほしいと思うので、吉居大和選手２区に賛成ですが、合理的に考えるなら、スピードタイプの大和選手が３区、上りに強い中野選手が２区ですよね。

それかエースが２区固定ならば、中野選手がコース難度の高い４区で、１年生の吉居駿恭選手は走りやすい３区にするとか。

藤原監督がベストと思ったオーダーなので、現実の並び方が最も良いのでしょうけど、違う並び方も見てみたかったと思ってしまいました。

・　青学大

３位に終わった青学大は、珍しく完全な形での敗北ですね。

今一番応援しているのは青学大なので残念でした。

２区も４区も快走し、１区と３区も中々の好走。

往路平地区間を終えて、トップ駒大とほぼ同じ位置にいたのですから、良い流れに乗っていたと思うのですが。

４区を終えた時点で、いよいよ２強の熾烈なトップ争いが始まる！と思ったのですが、あっという間に勝負が決まってしまい拍子抜けしました。

その後６区での大ブレーキがあり、優勝の望みはほぼ無くなりますが、本来５区を走る選手が急遽欠場したため、６区予定の選手を５区にスライドし、６区には力の劣る選手を使うしかなかったと聞きます。

有力な山のリザーブを用意できなかった時点で、チーム力は駒大と比べて負けていたのでしょう。

青学大ならばリザーブにもとんでもない才能を持った選手がごろごろいそうな気がしますが、意外と台所事情は厳しかったみたいですね。

しかし、あの上りの神野選手と下りの小野田選手という、５区と６区の最強ランナーを発掘した原監督らしくない負け方でした。

すでに優勝争いの圏外で走り出した９区の岸本選手。

本来は１区近藤選手、２区岸本選手で序盤からぶっちぎり作戦を狙っていたけど、岸本選手の調子が上がらず復路になったとか。

他の選手とスピードが全く違う圧倒的な強さは、復路の選手の走りではありませんでした。

結果論ですが、２区～４区のどこかを走って欲しかったと思いました。

今大会の青学大は２区の近藤選手が６６分２４秒、４区の太田選手が６０分３５秒、９区の岸本選手が６７分２７秒で走り、エース級の破壊力では群を抜いていました。

２区＋９区の、往復エース区間合計タイムは２時間１３分５１秒

２区＋４区の、エース区間準エース区間合計タイムは２時間０６分５９秒

どちらも歴代最高記録ですが、特に気になったのは２区＋４区の記録。

高反発シューズが出る遥か前、１９９５年大会で早大の渡辺選手と小林雅幸選手が、２区６６分４８秒と４区６１分３５秒で走り、合計２時間０８分２３秒を記録していますが、シューズ効果を１ｋｍ２秒とすると１分２８秒なので、現在ならば２時間０６分５５秒くらいに相当する記録と考えられます。

厳密な比較は不可能なので１ｋｍ２秒はあくまで便宜的なものですが、２区＋４区でついにあの渡辺小林コンビに匹敵するレベルの記録が出たのかと思うと感慨深いですね。

１９９０年代のスーパーエースのタイムは、時代を先取りしたような大記録が多く、２０００年代の選手はなかなかそのレベルまでは到達できませんでしたが、ここ１０年くらいで追いついて来た感があります。

・　創価大

往路を５時間２９分１５秒で走り、２０２０年大会から数えて２７分台、２８分台、２７分台、２９分台で、全チーム唯一の４年連続往路５時間３０分切りを達成。

個人的な感覚ですが、往路で好記録と呼べるタイムは非高反発シューズ時代で５時間３３分切り、現在ならば５時間２９分台後半くらいかと思います。

今年も創価大の往路はぶれないですね。

駒大にも青学大にも出来ない事をやった安定感は見事です。

ただ往路タイムでは文句のない好記録を出しているのに対して、総合タイムでは好記録と感じるラインにあとちょっと届かない気がしました。

つまり毎年復路がやや手薄。

区間賞を獲るなど、復路でも活躍しているのですが、復路５区間の合計タイムでは往路のレベルと比べて少し物足りず、もう少し伸ばして欲しかったです。

もちろん普通は往路重視なので、作戦としてはこれで良いのでしょうけど。

榎木監督がチームを率いてから今大会で４大会目の箱根駅伝でしたが、現役時代に４年連続区間賞を獲った榎木監督らしい安定感の高いチームを作りましたね。

榎木体制の最初の大会にあたる２０２０年大会は、第３世代のナイキヴェイパーフライの普及後の最初の大会でもありますが、そこで１区区間賞を獲ったのも創価大。

ちょうど時代の節目に台頭してきた創価大の存在はずっと気になっていました。

あと個人的に現役時代の榎木監督のファンだった事も少し理由ですが。

日本人エースの嶋津選手、３年連続で２区を勤めたムルワ選手、箱根でも全日本でも区間賞を獲った葛西選手、山下りの濱野選手も今大会が最後。

主力がごっそり抜ける来年の大会は正念場でしょう。

安定感の榎木、安定感の創価大は、来年の大会までにどんなチームを作り、どんな結果を残すのか。

往路の連続５時間３０分切りは是非継続して欲しいですね。

・　１区

今年の１区は学生連合・新田選手の独走劇で始まり、どこまで逃げるかと、非常にスリリングな展開が面白かったですね。

この独走は連合チームがマークされにくいという利点を活かした物ですが、それでも大集団を飛び出して１人で逃げを打つのには強い気持ちと高い走力が求められます。

サングラスをかけて１区で独走する姿は、２０００年大会の法大・徳本選手を彷彿とさせました。

徳本選手の１万ｍのタイムは２８分４１秒であり、今回の新田選手は２８分２１秒。

シューズの進化で千ｍあたり２秒伸びるとすれば、力までほぼ同じです。

１万ｍのタイムから予想される区間タイムはおそらく６２分くらい。

最終的な区間タイムが６３分を僅かに切るレベルに留まり、力を完全に出し切ったとはいえないと思いますが、攻めに攻めての区間３位相当は、無難に走った他の区間上位選手よりも明らかに価値の高い走りでした。

しかし、珍しいパターンですよね。

いきなり集団を抜け出してそのまま区間賞というパターンは、２０００年大会の徳本選手、２００７年大会の東海大・佐藤選手、２０１１年大会の早大・大迫選手。

トップ独走からの失速で区間下位というパターンは、２００４年大会の山梨学大・橋ノ口選手、２００６年大会の日体大・鷲見選手。

大逃げを打った選手は、区間賞か区間下位かはっきり分かれるケースがほどんどですが、新田選手は終盤にスローダウンしてトップを明け渡した後も３番で繋いだのは見事でした。

他校の選手はもっと積極性を見せてほしかったと思います。

優勝候補チームは１区は確実にこなそうとするのは仕方ないですが、シードを狙うチームならば、新田選手と一緒に逃げても良かったんじゃないでしょうか。帝京大、山梨学大、国士大あたりは特に。

昨年１区で爆走を見せた吉居大和選手を擁する中大は、１年生の溜池選手で無難にこなしていました。

藤原監督は、うちは吉居大和が１区を走らないと知っていた唯一のチームなんて冗談めいたコメントをしていましたが、前年１区で爆走をした選手を持つチームは、他チームに１年間ずっとプレッシャーをかけ続ける事ができて、往路のオーダーの読み合いで圧倒的な優位性があるんですよね。

１区の快走は翌年の大会にも良い波をもたらすという事を感じました。

今年の１区はタイム的にはあまり伸びませんでしたが、面白いレースだったと思います。

・　２区　駒大・田澤選手

２区区間３位でしたが、あえて２区の選手の中では最初に田澤選手について語りたいです。

前回は２区で区間賞を取り、これぞエースの走りという爽快な独走を見せた田澤選手ですが、最後の箱根は区間３位。

コロナの治療で調整に影響が出たそうです。

しかしそれでも、前回爆走したタイムから２１秒落ちただけの６６分３４秒で走り切り、シューズの効果もありますが、日本人２例目の６７分切り２回を達成。

１、２年時の走りも合わせると、田澤選手が残した箱根駅伝の実績は、近年の日本人では間違いなく最高の物です。

日本人選手で史上最強と呼ばれる為には避けては通れないのが１９９０年代に活躍した早大・渡辺選手との比較。

９０年代から駅伝ファンをやっている人ならば、箱根路に新しい才能が現れる度に「渡辺と比べてどうだろうか？」と考えてしまうでしょう。

そんな絶対的エース渡辺選手が２区を３回走り、残したタイムは

１年時　６８分４８秒（約６８分０２秒）

３年時　６６分４８秒（約６６分０２秒）

４年時　６６分５４秒（約６６分０８秒）

（カッコ内はシューズ効果を１ｋｍ２秒として引いたタイム）

そして田澤選手も２区を３回走りそのタイムは

２年時　６７分２７秒

３年時　６６分１３秒

４年時　６６分３４秒

３回の平均タイムは、渡辺選手の６７分３０秒００（約６６分４４）に対して、田澤選手は６６分４４秒６７。

シューズ効果を引いたタイムと比べて、ほぼ互角です。

複数回の走りの合計であの渡辺康幸に並んだというのは、駅伝を見ていて近年で最高の衝撃でした。

１９９０年代に最強を誇った渡辺選手。

箱根２区のベストタイムや、１万ｍの学生記録は、その後上回る日本人選手は出てきましたが、総合的な実績で渡辺選手に匹敵すると感じた選手は、留学生と山の神を除けば、これまで１人も見た事がありませんでした。

渡辺選手に一番近いレベルの実績を残したのは、２０１８年大会～２０２０年大会に出場し、２区の６５分台を記録した東洋大・相澤選手だと思いますが、それでも、渡辺選手と相澤選手を比べて、どっちが偉大な選手かと聞かれたら、私は渡辺選手だと即答できました。

しかし比較対象が田澤選手だと、じっくり考えても良くわかりませんでした。

２区以外の区間では、渡辺選手が１区６１分１３秒（約６０分３１秒）に対して田澤選手は３区６１分２５秒。

異なる区間なので比較は難しいですが、個人的には１区６０分台中盤と３区６１分台中盤を比較した場合は、１区の記録の方が１ランク上になると思います。

シューズ効果を引いた上で見ると、４年間の合計では渡辺選手の残した記録の方が少しレベルが高そうですが、田澤選手２年時の２区６７分２７秒は天候があまり良くない中で出した記録なので、両選手の差は非常に小さく、優劣をつけるのは難しいです。

そして花の２区に限れば、田澤選手の方が少し上かも知れません。

田澤選手が箱根路にデビューした２０２０年大会は、箱根駅伝が本格的な高反発シューズ時代に突入した最初の大会ですが、その２０２０年大会から２０２３年大会にかけて田澤選手が残した総合的な実績は、新しい時代のベンチマークとして、選手の記録を楽しむ上での目安になりそうですね。

「田澤と比べてどうだろうか？」はこれから先、長く考える事になりそうです。

（と、２区を終えた時点で思ったのですが・・・）

・　２区　中大・吉居大和選手

エース吉居大和選手は１区か３区かと駅伝ファンをさんざん悩ませた今年の中大。

起用区間はまさかの２区。

超スピードタイプと思われた大和選手が平地では最難関区間に登場したのは意外も意外。

きっと、１区に来るぞぉ来るぞぉと他校を脅しまくったあとに、さらっと３区に出場みたいなパターンを想像していましたが、藤原監督は真っ向勝負でしたね。

しかし、去年の順大・三浦選手が区間１１位に終わったように、２区は超スピードランナーが力を発揮するのには向かない区間。

その三浦選手とほぼ同じ位置でスタートした大和選手は、同格かと思っていた三浦選手を軽くちぎり、駒大・田澤選手に追いついて、こちらもあっさりと引き離す。

ネット上で吉居大和は権太坂を知らないんじゃないかなどと言われていましたが、それが冗談だと思えなくなるようなレース展開でした。

あれだけ飛ばして、最後の戸塚中継所前の坂でラストスパート。

普通はスピードタイプの選手には２３ｋｍという距離も、きつい上り坂も苦手だと思うのですが、あの坂でスパートをかけてトップを取るのは凄すぎです。

１区の新田選手に続いて、ここでも２００１年大会の２区で活躍した法大のスピードランナー徳本選手を思い出しました。

徳本選手辺りまでの時代は、エースは２区への出場にこだわりを持つのが常識でしたが、２０００年代中盤頃からはスピードタイプのエース選手は２区を避けるのも珍しくなくなります。

今回の大和選手の走りで、それが変わってくれるといいのですが。

流石に順大が３千ｍ障害の選手である三浦選手の２区起用にこだわり過ぎるのはどうかと思いますが、基本的にはやっぱりエースはスピードタイプであっても３区ではなくて２区を走って欲しいですね。

大和選手のペース配分は、序盤の鶴見～横浜駅が２２分５０秒、中盤の横浜駅～権太坂が２０分４０秒、終盤の権太坂～戸塚が２２分５２秒となっています。

中盤でタイムを稼ぐ近年の主流に逆らった序盤と終盤重視スタイル。

いくら高反発シューズがあるとはいえ、序盤と終盤の両方を２２分台というは凄いですね。

去年の田澤選手でも両方２３分オーバーでした。

来年も２区を走ると思いますが、賢いペース配分なんて学ばずに、本能のままにぶっ飛ばして更にタイムを伸ばして欲しいと思います。

・　２区　青学大・近藤選手

今大会の目玉と思っていた、近藤選手と駒大・田澤選手の勝負。

期待していた一騎打ちでのトップ争いは見れませんでしたが、田澤選手を１０秒区間タイムで上回り、近藤選手は学生駅伝５大会連続で直接対決となった宿敵に、最後の大舞台で初勝利をあげました。

区間賞こそ逃しましたが６６分２４秒は見事な記録です。

２区の日本人歴代上位

日本人歴代１位　６５分５７秒　相澤　東洋大　２０２０年大会

日本人歴代２位　６６分１３秒　田澤　駒大　２０２２年大会

日本人歴代３位　６６分１８秒　伊藤　東京国際大　２０２０年大会

日本人歴代４位　６６分２２秒　吉居　中大　２０２３年大会

日本人歴代５位　６６分２４秒　近藤　青学大　２０２３年大会

高反発シューズが主流になり、同じ土俵で比較できる２０２０年大会以降に限ると、次点の記録は６７分０２秒ですから、５位の近藤選手までの記録は飛び抜けています。

ハイレベルな記録が多く揃うと、駅伝のタイムを見る面白さが増してきますね。

これからの２区はビッグ５に迫る６６分３０秒切りが超一流レベルの目安になりそうです。

ところで今大会の２区で、近藤選手が吉居大和選手について来いと合図して、相手を助けるような事をしています。

以前の私はこういうのはあまり好きではありませんでした。

真剣勝負は相手が嫌がるような戦い方をするべきであり、ひたすら後ろに着いてプレッシャーをかけるとか、給水のタイミングでスパートするとか、アンカーで大差があれば守りの超安全運転で優勝するとかで良いと思っています。

しかし青学大は前回大会でも、優勝がほぼ決まっている状況でも攻めの走りで区間新記録を２連発して大会新記録でゴールするなど、華のあるチーム。

青学大のかっこよさ、爽やかさは有力な高校生にとっても魅力的に見えるでしょうから、一見メリットが無いように見える今回の近藤選手の行動も、結果的にはチームの強化に繋がるのかも知れませんね。

青学はこれで良い、というかこれが良い所なのでしょう。

・　４区　　青学大・太田選手

前回の３区に続いてハイレベルな記録を叩き出した太田選手。

秋までは不調かと思われましたが、本番にはしっかりと合わせ、コース難度の高い４区で日本人歴代２位の６０分３５秒を記録。

しかしタイムのレベルの高さに反して、ネット上や雑誌などで扱いが小さいのが気になります。

４区終盤のトップ争いに敗れてチーム順位は２位での中継。

区間賞は東京国際大・ヴィンセント選手にゆずり、日本人ではトップながら区間２位。

従来の４区区間記録までは５秒届かず。

１番になれなかったからなのでしょうか。

２区と４区は＋－６分で大体予想できるので、４区を６０分台中盤で走った太田選手は、もしも２区に出場していたら、おそらく６６分台中盤はいける。

現実の２区では中大・吉居大和選手（３年）が６６分２２秒、青学大・近藤選手（４年）が６６分２４秒、駒大・田澤選手（４年）が６６分３４秒で走り、三つ巴のトップ争いを繰り広げましたが、もしも青学大の２区が太田選手だったとしても、あのトップ争いに加わる事は十分に可能だったでしょう。

今回の太田選手の４区のタイムは日本人歴代２位。

４区日本人歴代１位　６０分３０秒　吉田　青学大４年　２０２０年大会

４区日本人歴代２位　６０分３５秒　太田　青学大２年　２０２３年大会

前回の３区の快走も日本人歴代２位だったので、２年連続です。

３区日本人歴代１位　６０分５５秒　丹所　東京国際大３年　２０２２年大会

３区日本人歴代２位　６１分００秒　太田　青学大１年　２０２２年大会

歴代１位まで５秒差というところも同じでした。

高反発シューズが本格普及する前の２０１９年大会以前と比べてみます。

シューズ効果を１ｋｍ２秒として、太田選手のタイムに足してみると、４区は約６１分１６秒、３区は約６１分４２秒になります。

このタイムを超えた日本人選手は４区では２例

６０分５４秒　相澤　東洋大３年　２０１８年大会　（第１世代高反発シューズ着用）

６０分５６秒　藤田　駒大４年　１９９９年大会　（現在とほぼ同じコースだが正式には別コース扱い）

３区でも２例

６１分２６秒　森田　青学大４年　２０１８年大会

６１分４０秒　竹澤　早大４年　２００９年大会

ポイントは学年です。

名前の挙がった選手はすべて３年生か４年生。

太田選手は、箱根駅伝の歴史に残る名選手たちが上級生になってやっと出した記録に、１、２年生で迫っているという所が、これまでの選手と違うところです。

下級生のうちから、これを超えるレベルの走りを連発した選手は、山上りの東洋大・柏原選手しか見た事がありません。

１９９０年代最強の早大・渡辺選手でも、スーパーエース級のタイムを残したのは２年生からです。

また、駒大・田澤選手と比べても、２年生までの比較ではタイムのレベルは明らかに上を行っています。

近藤選手が卒業する来年は、青学大の新エースとして２区を走る可能性は高いと思われますが、どんな区間タイムを出すのか楽しみです。

今年最後の箱根を走った田澤選手が、日本人選手としては史上最高クラスの実績を残しましたが、太田選手が今のレベルを維持できれば、箱根駅伝４回の実績で田澤選手を超えるのは確実です。

もう一段成長できれば２区の日本人最高記録や区間記録も含まれる、６６分前後のタイムもターゲットになるでしょう。

あと２回、どんな走りを見せてくれるのでしょうか。

故障しやすいらしいという噂を聞いたので、そこだけが心配です。

・　４区　東京国際大・ヴィンセント選手

４区で６０分ジャストの区間新記録を出し、３区間のレコードホルダーとなったヴィンセント選手。

３回も区間新を出した事は見事ですが、本人のコメントでは８０％の状態だったそうで、タイムのレベルは過去２回の区間新と比べてやや低下していたと感じました。

今大会では区間２位の青学大・太田選手に３５秒差。

両選手は３区と４区の両方で、歴代１位と歴代３位の記録を持つ選手ですが、３区のベストタイムでは１分３５秒もヴィンセント選手の方が上なので、やはり今大会は力を出し切れない苦しい走りだったのでしょう。

それでも軽々と区間記録を塗り替えたのは流石ですが。

ヴィンセント選手が１年時の３区で出した最初の区間新５９分２５秒は、２区で同じパフォーマンスを発揮すれば６５分前後が出てもおかしくないレベルだと思います。

２年時に２区で６５分４９秒の区間新を出していますが、気象条件が悪く、実質的な価値は６５分３０秒クラスかと。

そして今回の４区６０分００秒は、４区と２区は６分を足し引きすると大体予想できるため、２区ならば６６分ちょうどくらいでしょうか。

走る度にレベルが低下していった印象でした。

もちろん最初が凄すぎたのがその理由ですけど。

最後の箱根は２区で６４分台を出して欲しかった。

ヴィンセント選手は区間新を出せなかった唯一の大会となった３年時も、２区を６７分そこそこで走り、区間５位の成績を収めています。

箱根駅伝平地区間４回の実績で間違いなく史上最強の選手でした。

最大のライバルになりそうなのが０６年大会～０９年大会に出場した山梨学大・モグス選手。

２区のベスト記録６６分０４秒はシューズ効果を１ｋｍ２秒として引くと６５分１８秒に達します。

セカンドベストもシューズ分を引くと６５分３７秒。

しかし、区間新を出した３年時、４年時は見事ですが、１年時に２区終盤で失速、２年時は２区終盤で大失速しており、４年間の通算では穴のない実績を残したヴィンセント選手の方がずっと上だと思います。

モグス選手は全日本８区で大記録を残しているので、ヴィンセント選手にも全日本８区を走って欲しかったですね。

もう一つ気になったのが、駒大・田澤選手との対決がすれ違い気味だった事。

箱根では３度対決していますが、両者がしっかり実力を発揮しての勝負とはならなかった印象です。

せっかく学生長距離における史上最強ランナーと史上最強日本人ランナーが同学年にいたのだから、ベストコンディションで箱根や全日本のエース区間でガンガンぶつかり合って欲しかったですね。

同学年の田澤選手もそうですが、ヴィンセント選手もまた高反発シューズが本格普及した２０２０年大会から箱根駅伝を走り、レベルの高い記録を残してくれました。

新しい時代における、選手のレベルや、区間タイムの価値を測る基準、そして新しい「最強」の基準になってくれたのが何より嬉しいです。

高反発シューズが普及した２０２０年大会で、これまで積み上げてきた駅伝のタイムの価値観が破壊された時は、本気で落ち込みましたが、今大会を終えてずいぶんとすっきりできました。

・　５区　城西大・山本選手

区間新記録を出して５区を制した「山の妖精」山本唯翔選手。

二つ名の由来については最初は去年の若の神並みに良くわかりませんでしたが、練習中の姿やキャラクターによるものらしいです。

出した記録７０分０４秒は、近年の２１ｋｍ弱の５区では最高レベルの走りだったと思います。

２３ｋｍ時代は除いて、現在とそれに近い距離の５区のコースで、今回の山本選手よりも上の記録は、現在よりも約２０ｍ短い２００５年大会の５区で順大・今井選手が出した６９分１２秒だけです。

５区での高反発シューズ効果は平地よりも弱いという説もあるので、今回の山本選手の記録は、１９９６年大会の現在よりも約２４ｍ短いコースで早大・小林選手が残した７０分２７秒にも匹敵する可能性があります。

現在の区間記録ではないものの、事実上の最高記録である「初代山の神」今井選手の６９分１２秒と、シューズ効果を考慮すると事実上の歴代２位と言える小林選手の７０分２７秒は、２１ｋｍ弱の距離の５区に限れば、長い間特別な記録でしたが、ついにそのうちの１つに届く記録が出たのかも知れません。

明確に上の存在はもう山の神だけ。

今井選手に並ぶためには、高反発シューズ効果を３０秒程度とすると、６８分４５秒くらいの記録が必要なので、神の領域に入るのは極めて難しいと思いますが、来年も５区を走るならば新しい山の神になって欲しいと思います。

以前から思っていたのですが、山の神がいるチーム＝ほぼ優勝するチーム、だったので、シード争いのチームに山の神が降臨したらレースが面白くなるだろうなと考えていました。

城西大には山本選手よりも上りに強いと噂される１年生の斎藤選手の存在もあるので、来年も城西大の５区は本当に楽しみです。

山本選手の出身は新潟県十日町市だそうで、これは小林選手と同じですね。

２００１年生まれの山本選手にとっては、１９９７年に最後の箱根を走った小林選手は、生まれる前の時代の選手なので本人はあまりこだわりはないかも知れませんが。

小林選手の時代からはコース変更が２０００年、２００６年、２０１５年、２０１７年と何度もあり、２０２０年からはシューズの進化で過去の記録との単純比較が難しくなり、もはや駅伝にディープにはまっているタイプの人でも、小林選手の記録を同じ出身の山本選手が超えたかも知れない、なんて考える人はいないみたいですね。

「山本唯翔　小林雅幸　十日町」で検索しても何も出てこないのはちょっと寂しい思いです。

ところで十日町出身の選手と言えば、２０１５年大会、２０１６年大会で２区区間賞の東洋大・服部勇馬選手も該当します。

十日町市の現在の人口は５万人ほどで、人口はそれほど多くない市ですが、ここ３０年弱で、山上り区間新記録の２人と花の２区２年連続区間賞の選手を排出するとは、名選手の輩出率が高過ぎです。

この地域の人には長距離の特別な才能があるんでしょうか。

山の神を２人出した福島県の例もあるし、才能の地域差って本当にありそうですね。

・　６区

数十秒のタイム差を挟んで行われた６区のトップ争い＆区間賞争いを演じた２人の走りは見ごたえがありました。

まず中大・若林選手ですが、４年連続で６区を走り、区間順位は１０位、５位、５位、２位。

タイムも良くて、１年時から５９分２５秒、５８分４５秒、５８分４８秒、５８分３９秒で走り、４年連続６０分切りを達成。

４年連続６０分切りは非高反発シューズ時代の山下り１流ランナーの目安でしたが、シューズによる伸びを１ｋｍ２秒とすると、現在ならば５９分１９秒切りくらいが同価値になります。

若林選手のタイムはちょっと届きませんでしたが、かつての名ランナー達に次ぐレベルの実績を残してくれました。

優勝争いはやや後退してしまったが、４年間の通算ではレベルが高い実績を残す、こういったパッと見ではわからない選手の凄さを感じられるのも、駅伝の記録の面白いところだと思っています。

２年時から３年連続でほぼ同じタイムで走っていて、異なるレース展開でも同じペースを刻む安定感は本当に凄いと思います。

若林選手の箱根デビューもまた、駒大・田澤選手などと同じ２０２０年大会。

シューズ革命後の６区における好走の基準になってくれたのは嬉しいですね。

その若林選手を引き離して区間賞を獲った駒大のスーパールーキー伊藤選手。

５８分２２秒は６区１年生歴代１位。

中央学大・武川選手が２０２０年大会で出した５８分２５秒を３秒超えました。

もっとも、非高反発シューズ時代の１年生最高記録５８分３１秒は、現在ならば軽く５７分台相当の記録。

出したのは「山下りの人外」青学大・小野田選手。

伊藤選手が今後山下り専門になるのかはわかりませんが、後３回走るのならば、人間じゃないと言われたあの小野田選手のレベルを目指して欲しいですね。

２０１９年大会で６区の区間記録は、現行に近い距離ではついに５７分台に入りましたが、１年後にはシューズの進化で記録は大幅に伸びました。

数十年かかるかと思っていた５６分台も、現在の選手の走力にシューズ効果をプラスすれば、決して狙えない記録ではないでしょう。

１年生最高記録を出した伊藤選手にこそ期待したいですね。

まずは５７分台。

一昨年突然６区に現れて、５７分３６秒を記録した駒大の先輩・花崎選手のタイムはちょうど良い目標になりそうです。

・　１区区間賞→もう１つ区間賞→シード落ち

今大会で明大が１区と７区で区間賞を獲得したものの、チームは無念のシード落ちとなりましたが、この区間賞を２つも獲得してシードが取れないというのは、過去にも何度も起きている箱根駅伝の謎です。

総合優勝した駒大が獲得した区間賞は１つですから、普通に考えてシードを獲れないチームが区間賞を２つ獲るのは至難の業のはずです。

しかし、なぜかこのパターンは過去にも多い。

９０年代から００年代は特に多くて、９８年大会以降、区間賞を２つ獲得してシード落ちしたチームは、以下の６チームです。

１９９８年　専大　１区、３区

１９９９年　拓大　１区、７区

２０００年　法大　１区、２区

２００６年　中央学大　１区、８区

２００８年　城西大　１区、１０区

２０２３年　明大　１区、７区

９８年大会から００年大会まで、３大会連続で起き、その後も含めると９８年大会から０８年大会まで１１大会で５回。

その後ぱったりとこの謎のシード落ちパターンは見られなくなりましたが、今大会で１５年ぶりに復活してしまいました。

今回も１区が含まれているので、２つ獲得してシード落ちという過去２５年、２６大会の中で起きた全部の例で、片方の区間賞は１区です。

区間賞を１区＋１で獲得するとなぜシード獲得率が下がってしまうのかはわかりませんが、過去の例を調べると明らかにその傾向が見られました。

９８年大会からの２６大会で、区間賞は１区だけというチーム、１区＋１つ、１区＋２つ、１区＋３つのチームを調べると以下のようになりました。

１区だけ　８チーム　シード落ち１チーム　シード獲得率　約８７％

１区＋１つ　１３チーム　シード落ち６チーム　シード獲得率　約５３％

１区＋２つ　３チーム　シード落ちなし　シード獲得率　１００％

１区＋３つ　１チーム　シード落ちなし　シード獲得率　１００％

区間賞はないよりあった方が良く、数は多い方がチームにメリットをもたらすはずですが、どういうわけか１区で区間賞を獲ったチームはもう１つ獲るとガクッとシード獲得率が下がります。

むしろ１区だけのチームの方が圧倒的に獲得率が上なんですね。

なんでそうなったのかはわかりませんが。

視点を変えて、シード落ちチームの区間賞が気になりました。

今大会で総合順位に無関係な学生連合の選手が大逃げを打ったように、シードを狙えないチームはマークされにくいので、逆に１区区間賞を狙いやすいのではないか？と思ったからです。

しかし詳しく調べると、９８年大会以降の２５年間、２６回の大会で、区間賞を「１つだけ」獲ってチームはシードを獲れなかったという例は２４例（区間順位は公式だがチームはオープン参加という例は除く）。

そのうち１区の区間賞は２０２１年大会の法大だけでした。

シードは獲れなくても１区の区間賞は獲りやすい、というわけではないんですね。

それではなんで、シード落ちチームがそんな難しい１区区間賞を獲得し、更にもう１つの区間賞まで獲れたのか。

たまたまそうなった、箱根にはそんな変なジンクスがある、としか考えられませんね。

次にまた同じような例が出るのか出ないのか、見たいような見たくないような、妙な気分です。

・　３区、８区の吹上交差点

３区の序盤、８区の終盤にある吹上交差点の位置が変わるという情報を聞いたのは去年の春先でした。

これまでと比べると、曲がっていたコースがまっすぐになったイメージです。

２０１５年大会で５区、６区の函嶺洞門迂回のためのコース変更は、まっすぐだったコースが曲がりましたが、それの逆のような感じです。

コース変更で３区の偉大な区間記録が消えてしまうのかと思っていたのですが、夏になっても秋になっても年末になっても箱根が終わっても、吹上交差点の話題は全く出ませんでした。

当然、公式にはコース変更のアナウンスはなく、ヴィンセント選手の５９分２５秒はこれからも公認されます。

コース変更扱いになる時と、ならない時の違いってなんなんでしょうね。

細かい道路工事まで含めたら頻繁に区間記録が消えてしまうでしょうし、ある程度大きな変更でなければ同一のコースとするのは仕方ないのかもしれませんが、今回は結構大きな違いがあるような気がするのですが。

上記の２０１５年に５区、６区のコース変更があった時は「陸上競技は正確な距離と時間が原則」と言われていたんですけどね。それで東洋大・柏原選手らの山の区間記録はリセットされました。

５区、６区のコース変更地点を、ネット上の地図で詳しく見てみると、函嶺洞門を迂回するルートは「函嶺洞門バイパス」と書かれています。

今でも国道１号本道は函嶺洞門の中の道路みたいですね。

国道１号本道→函嶺洞門バイパス、に走る道路そのものが変わったので記録をリセットしてコース変更となったのかも知れません。

今回は吹上交差点の位置が大きく変わるなど、変化は大きめですが、国道１号本道の形が変わったので、今までと同じ道路を走っている。それで今までと同一コースと認められた、という事なのでしょうか。

コースの変化を見る限り、今までよりも少し短くなったような気がしますが、ネット上にも距離に関する情報は全く見つけられませんでした。

距離の違いが気になりますね。

・　５区と高反発シューズ

昨年１１月の激坂王の後に、東洋大と青学大出身の山の神コンビが、厚底シューズは登り坂に不向きだとコメントしていました。

５区のシューズ効果については、平地よりも効果が薄いと以前から言われていましたが、タイムを見ると平地と同様くらいの効果があるように感じ、矛盾を感じていましたが、山の神が言う以上は、効果が薄いほうが真実かも知れません。

しかし５区の７１分切りは、現在のコースになった２０１７年からの３大会（１７年大会～１９年大会）では１例に対して、その後の３大会（２０年大会～２２年大会）で６例。

今大会終了時点で、５区の歴代１０位までの記録はすべて高反発シューズが本格普及した２０２０年大会以降の記録となり、明らかに高反発シューズが普及してから５区の記録は伸びています。

山の神コンビという箱根駅伝史上最高クラスの名選手たちのコメントなので、厚底が５区で効果が薄いのは事実なのでしょうが、効果がゼロという事は流石にないと思います。

そう感じた理由はいくつかあります。

１つは大平台までの高速化。

大平台の通過ペースは、今年も２２分台が８人という凄さ。

前回の２０２２年大会は１０人、２０２１年大会は１人ですがその前の２０２０年大会は８人。

２０２０年大会以降は区間中位でも２２分台で通過するのは珍しくなくなりました。

上りが続くこの部分で高速化をしているという事は、シューズによるタイムの伸びは上りでも多少はあるのではないでしょうか。

１９９５年大会以前はわかりませんが、１９９６年大会～２０１８年大会だと、２２分台で大平台を通過してその後ペースダウンしなかった例は、１９９６年大会の早大・小林選手の２２分４０秒（５区区間タイム７０分２７秒）、２００５年大会の順大・今井選手の２２分２８秒（５区区間タイム６９分１２秒）。この二つくらいしかありませんでした。

大平台以降でペースが伸びなかった例では、２００５年大会の日体大・北村選手の２２分４９秒（５区区間タイム７３分２８秒）、２０１８年大会の城西大・服部選手の２２分４９秒（５区区間タイム７３分０１秒）があります。

２０１９年大会で区間１位～３位の３人が、大平台までを２２分台で突っ込んでその後も耐え抜き、２２分台で通過して快走した例を一気に増やしましたが、それでも２２分台での通過は超ハイペースである事は変わりはないと思っていました。

それが高反発シューズが本格的に普及した２０２０年大会以降は、区間中位ですら２２分台で通過するようになります。

もちろん７ｋｍの距離しかない大平台までで、平地と同様に１ｋｍ２秒程度の効果があったとしても、伸びるタイムは１４秒程度。

現在は２２分台前半での通過も多くなってきているので、仮にシューズの効果が全くなくても２２分台で走れる選手は多いでしょう。

しかし、高反発シューズ普及後に異常な高速化をしている小田原中継所～大平台で、シューズによるタイムの伸びが、あるのか、ないのか、と考えれば、あるとした方が自然かと思います。

厚底は登りに不向きという山の神たちの発言は、その真意まではわかりませんが、記事からは、向いていないから箱根５区ではタイムが伸びない、というニュアンスに感じました。

これは山の神が言いたいこと、というよりは、その記事を書いた人が言いたいことのような気もしますが。

しかし、厚底シューズが登りに向いていない＝高反発シューズが登りに向いていない、ではないのは大事なポイントです。

各区間の記録が大幅に伸びた２０２０年大会以降「厚底シューズ」という言葉を非常に良く聞きますが、シューズで大事なのは高反発プレートによる反発力のほうです。

高反発プレート入りシューズの多くは厚底ですが、底がそれほど厚くない高反発シューズも存在するので、厚底シューズと高反発シューズは完全にイコールではありません。

平地ほどの効果はなくても、５区に向いている高反発シューズという物もあるのではないでしょうか。

もう一つ言うと、駅伝の記録が好きな人ならば、１万ｍやハーフ、全日本や箱根の平地区間の区間タイムといった、平地のタイムを見れば、この選手が山上りを走ったらこれぐらいのタイムが出るだろう、と予想する感覚をみんな持っていると思います

平地では間違いなくシューズの進化でタイムは伸びています。

平地では伸びるが山上りでは伸びないとすると、平地のタイムから５区のタイムを予想する時に、２０１９年までと比べて予想タイムを下方修正する必要が出るはずです。

しかし私の感覚では、２０１９年大会以前と２０２０年大会以降で、大きな変化は感じませんでした。

今大会では、区間１位の城西大・山本選手、区間３位の中大・阿部選手は予想タイムを上回り、区間２位の順大・四釜選手、区間４位駒大・山川選手はほぼ平地から予想したタイム通り。

区間６位の早大・伊藤選手、区間７位の國學院大・伊地知選手は、予想を下回りました。伊地知選手は故障の影響だったみたいですが。

区間５位の東洋大・前田選手も少し予想より下のタイムですが、区間８位帝京大・新井選手は少し予想を超えています。

平地の走力から予想する時に、下方修正を加える必要をほとんど感じないんですよね。

５区は適正でタイムが伸びる区間なので、これだけでシューズ効果があるかないかを判断する事はできません。

仮にシューズ効果が全くなくても、適性によってタイムが伸びれば良いわけですから。

でも５区では効いていないとは私には考えにくいのが本音です。

正直矛盾に悩む部分もありますが、名選手の言葉は信じたい。

４０秒～５０秒は効く平地よりは弱いけど、２０～３０秒はあるのではないか、と考えて納得したいと思います。

・　シードラインのタイム

１０時間５８分台前半まで伸びた今大会の総合１０位タイム。

１１時間を切るチームでも５００ｍは離される計算です。

以前は総合１０位が１１時間１０分を切るのは夢の記録と思っていましたが、シューズの進化という要因もありますが、ここまで伸びてきたのは驚異的だと思います。

シューズ効果は最初は良くわからず、総合で大体１０分くらいと思っていましたが、今は約７分と考えています。

今大会の１０位タイムに７分を足しても１１時間０５分台前半。

２０１９年大会で初めて出た「１０位の１０分切り」。

私は１１時間０８分～１０分くらいでシードを争う時代が長く続くのではと考えていましたが、０９分台ではシューズの効果を引いても現在のシード争いでは全く通用せず、夢の記録はあっという間に過去のものになってしまいました。

箱根の進化は早いですね。

次は１０時間５５分台の記録を一つの目安に、シードラインの記録を楽しみたいと思います。

このタイムにはちょっと意味があります。

１万ｍ２８分台ランナーが１０区間すべてを走ったらどれくらいの総合タイムが出るだろうか？と考えた事がありました。

今大会にエントリーした選手の中で１万２９分切りのタイムを持つ選手は１４７人もいて、高性能なスパイクが全盛の今の時代では２８分台を有力選手の基準とするのは無理がありますが、昔は２９分を切るタイムにはロマンがありました。

次の区間に２８分台ランナー登場するなんて思うとワクワク感が凄かった。

２８分台１０人を揃えたドリームチームの総合タイムはどれくらいか？

駅伝ファンごとに予想タイムは違うでしょうけど、私の個人的な感覚では、１０区間で２９分００秒の選手が力を発揮した時の総合タイムは１１間０２分３０秒くらいだと思いました。

このタイムを切る事ができれば、１０区間平均で１万ｍ２９分を切るパフォーマンスを発揮したと言えるのではないかと。

そんな事を考えていた当時の総合大会記録は、２０００年大会の駒大が出した１１時間０３分１７秒で、この記録は１１年間も残る事になり、０２分台は夢の記録と思われていた時代なので、多分そんなに間違った感覚ではないと思います。

１１時間０２分３０秒からシューズ効果の７分を引けば１０時間５５分３０秒。

当時よりも、５区と６区で合計約４０ｍの距離延長があるので、数秒を足して、大体１０時間５５分４０秒を切るくらいが、昔の全員２８分台パフォーマンスと、同価値くらいになるのではないかと思います。

今大会では７位の法大までがクリアし、８位の創価大もあと僅か。

１０位シードラインのタイムも３分弱に迫ってきました。

この３分弱というタイム差を、今後更に縮めてくるのか、それとも流石にしばらくは今のレベルに留まるのか。

今の学生長距離の進化は早いので、もしかしたら数年以内には一気に超えてくるかも知れませんね。

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