２０２４年大会感想２

２０２４年大会の感想　（２）

普通の感想です

目次

①　青学大

 ②　駒大

 ③　今後の大学長距離界

 ④　上位と下位で史上最高レベル

 ⑤　１区

 ⑥　２区　青学大・黒田選手

 ⑦　２区

 ⑧　３区　青学大・太田選手

 ⑨　真のエース区間？３区について

 ⑩　５区　城西大・山本選手

 ⑪　５区　青学大・若林選手

 ⑫　６区

 ⑬　中大・浦田選手

 ⑭　アディダス・エヴォ１

 ・　青学大

ついに出た大会新記録！

１０時間４１分２５秒の大会新で優勝し、初優勝から数えて１０回の箱根で７回目の勝利を飾った青学大。

勝率７割の異常記録も凄いですが、何より嬉しかったのは４１分台の大会新が出た事です。

今大会で青学大が出した大会新はただの大会新ではありません。

これまでの公式大会記録は２０２２年大会に青学大がマークした１０時間４３分４２秒です。

しかし、長距離走の記録にこだわるタイプの人間ならば誰もが知っている、シューズの進化という劇的な出来事が２０１０年代の終わり～２０２０年代初頭に起きていて、このシューズ革命は１ｋｍ２秒程度、箱根駅伝の総合タイムを７分は短縮させたでしょう。

シューズ革命の数年前、２０１５年大会で青学大が初優勝した時の記録は１０時間４９分２７秒であり、現在とは４区と５区の距離の割合の違いがありますが総合タイムに与える影響はわずかです。

つまりシューズ革命前の１０時間４９分台は現在ならば１０時間４２分台にも相当する記録であり、青学大の初優勝時の記録はずっと事実上の最高記録でした。

今大会でついにその記録を上回り、現在の最高記録が歴代最高記録というすっきりとした状態になりました。

青学大を超えたのはやっぱり青学大。

勝率の高さもさることながら、青学大はとにかく記録が凄い。

往路記録の５時間１８分１３秒も従来の往路記録５時間２１分１６秒を圧倒的に上回るものであり、５時間２０分の壁も軽く破ってしまいました。

私は往路の好記録の一つの目安は５時間２９分台と考えていますが、好記録で走ったチームでもトップからは１０分以上の差がついてしまい、復路は８時１０分一斉スタート組になってしまいます。

往路から出し惜しみしないでガンガン攻めるチームが好きなんですが、あまりに速過ぎて、少し加減してくれないかなぁと思ってしまいました。

総合記録も凄まじいけど、往路は更に異次元の記録だったと思います。

他チームは、往路を５時間２８分台で走っても、復路は一斉スタートに巻き込まれるリスクがあるならば、往復の戦力バランスを考えなおしたり、一斉スタートになるレース展開を想定して練習をしたりと、作戦にも影響しますね。

シード争いに繰り上げスタートが絡んで、良くわからなくなるのは以前からある現象ですが、今大会ではシード争いよりもずっと上を走る５位の國學院大に、一斉スタート組の６位の法大が追いつき、アンカー対決までもつれました。

２０１６年大会でも一斉スタート組が最後の最後まで５位争いに絡みましたが、当時と現在の５位のレベルは、シューズ分を引いても現在の方が遥かに上であり、好タイムで上位を走るチームが、一斉スタートチームに追いつかれるのは凄い違和感でした。

最終的にはトップ５はゴールした順番というわかりやすい結果になりましたが、青学大の往路の異常な速さは、最終区間の上位争いにまで影響を与えていました。

とにかく速過ぎる青学大。

対抗できるチームは今後は出てくるのでしょうか。

データ上の走力ではむしろ青学大の上を行く駒大は有力な候補ですが、スピード最優先の駒大のやり方では箱根で安定して青学大を上回るのは難しそうです。

今年復活してきた東洋大も、青学大のライバルとして期待できます。

東洋大は伝統的に箱根で強く、全盛期の東洋大は箱根の歴史の中でも青学大に次いで強いチームだったと思います。

ただその全盛期はもう１０年以上前。あの頃の強さを取り戻せるでしょうか。

駒大のようなスピードを持って、東洋大のように箱根に強い、そんなスーパーチームが出てこないと、青学大と真っ向勝負で勝つのは難しそうです。

勝率７割の青学大でも１０回の中で３回は優勝を逃しているので、現実的には他校は青学大の取りこぼしを狙うしかないかと。

青学大の本番での強さの理由は、箱根で力を出し切れるようにする調整力。

これまでも東洋大や順大など、前評判よりも箱根本番で強くなるチームはありましたが、青学大はレベルが違います。

青学大の１万ｍ平均は２８分２４秒６２、今シーズンの全日本は高温もあって５時間１２分３４秒ですが、１万ｍ平均は２７分台、全日本では好条件ならば５時間５分くらいで走る力がないと、箱根の１０時間４１分なんて記録は狙えないと思います。

つまり、本気で１万ｍや全日本のタイムを狙って練習すれば、それくらいのタイムを出す事はできるのでしょうけど、箱根以外に合わせる気は全くないのでしょう。

箱根の優勝候補の条件と言えばやはり全日本で優勝すること。

次に１万ｍ平均タイムで１位になること。

両方でトップならば文句なしで箱根の優勝候補筆頭だとずっと考えていました。

しかし最近の青学大を見てると、もうそんな時代ではないと感じました。

箱根以外の大会は眼中にないというくらいに特化したチームじゃないと、箱根の優勝を狙うのは厳しい時代になるかも知れません。

青学大には有力な新入生も多く入るようで、次回の戦力は更に上がりそうです。

どこまで勝ち続けるのでしょうか。

次の１０回も勝率７割くらいで行きそうな勢いを感じます。

・　駒大

史上最強との前評判だった駒大は、２年連続３冠の大偉業に挑みましたが、達成ならず総合２位。

１区からスーパーエース３枚を並べて超攻撃型オーダーで挑み、最終的に出した１０時間４８分台の総合タイムはレベルが高く、大体予想タイムと同じくらいです。

総合３位には大差をつけており、青学大さえいなければ、１区からの完全優勝で圧勝だったのですが。

上にあんなチームがいたのは不運でした。

今年度から就任した藤田敦史監督は、学生時代最後のシーズンの１９９９年大会でも、３冠へ！駒大初優勝に死角なし！とダントツの優勝候補に挙げられていましたが、優勝を逃しており、監督として箱根初陣となった今大会の結果は誰よりも悔しいでしょう。

しかし監督の采配に問題があったのではなく、箱根に限れば青学大との間には元々埋めがたい差があったのだと思います。

青学大は箱根のみで全力を出すので、他の大会から真の力を測る事が難しかったというだけかと。

青学大と駒大の差は、箱根の距離にフォーカスしているかどうか。

かつて東海大にスピードのある黄金世代が加入したものの箱根では苦戦が続いていましたが、２０１９年大会では箱根仕様のトレーニングを行い、結果は青学大５連覇を阻む殊勲の総合優勝。

駒大だって本気で箱根に合わせれば同じ事ができるのかも知れません。

しかし駒大は今後もそれはやらないでしょう。

青学大の箱根での異常な強さを見ると、駒大は打倒青学大を目指すよりも、完全に別路線で行くのが良いんじゃないでしょうか。

箱根は選手強化のためのモチベーション維持に役に立たせるくらいで、本番は卒業後というスタンスで。

実際に駒大は、近年の世界大会の代表に多数のＯＢを送り込んでいます。

箱根の結果はあまり気にしないくらいでちょうど良いのではないでしょうか。

・　今後の大学長距離界

青学大の超大会新記録。

史上最強と言われながら２位となった駒大。

今大会で感じたのは、今後は青学大のように箱根専門チームと、駒大のようにトラックや全日本を得意とするチームに別れるのではないかと。

箱根のレベルは年々上昇し、今大会の下位チームのタイムは恐ろしいほどに伸びていました。

１万ｍ平均タイムもレベルアップしていますが、箱根のタイムほどではありません。

駒大のように特別にスピードが優れているチームは箱根でも上位を狙えるでしょうけど、これからの箱根は青学大にならって箱根専門チームが増えていくような気がします。

世界を狙う選手を育成すると言う大会の趣旨には反するけど、箱根専門チームじゃないとやっていけないレベルになるのは、それはそれで大会が進化した証と言えると思います。

青学大は今後も箱根の勝利を積み重ねるでしょう。

普通は７勝をあげるには何十年もかかるものですが、青学大ならばそう遠くないうちにもう７勝して、中大の持つ箱根駅伝最多優勝記録の１４勝にも届くのではないでしょうか。

駒大は、現在のスピード強化路線を継続し、それは過去１６勝をあげている全日本と相性が良いのは誰もが知るところです。

出雲と箱根も合わせて２９勝という３大駅伝最多優勝記録を持ちますが、今後も伸ばし続けるでしょう。

これまでも、２０ｋｍをメインにしたチーム、トラックをメインにしたスピード重視のチーム、とそれぞれでしたが、青学大と駒大はその究極型ですね。

タイプの違う王者が、がっつりぶつかり合う事なく、それぞれの分野で記録を伸ばしていく、そんなふうに別れそうな気がします。

そして他のチームも、箱根を狙う練習をするのか、それとも卒業後に備えてスピード強化に励むのか、青学大タイプか、駒大タイプか、きっちりと目標を定める必要があるのではないでしょうか。

両方とも、で通じる時代ではなくなってきたような気がします。

・　上位と下位で史上最高レベル

第１００回に相応しい超ハイレベルな今大会は、１位、２位だけではなく、３位、４位も凄かった。

３位城西大、４位東洋大も１０時間５２分台を記録。

シューズの進化によるタイムの短縮は７分と考えていますので、５３分切りはかつての大台１１時間切りと同じくらいかと思います。

第３世代の高反発シューズ登場前の２０１９年大会で３位までが１１時間を切っていますが、３位以下でこのレベルの記録が出たのは２０２０年代に入ってからは初めてです。

しかも４位までかつての大台突破レベルの記録。

もう昔の１１時間をちょっと切ったくらいのレベルではトップ３にも入れない時代になってしまいました。

３位城西大は２区、３区の平地のエース２人が好走し、５区の山の妖精が去年を軽く超える大爆走で神に迫りました。

東洋大が４位で復活傾向。

エース区間２区、もはや真のエース区間と言ってもおかしくない３区、準エース区間４区、復路のエース区間９区ですべて好走。

要所を締める感じが気持ち良いレース展開でした。

箱根での青学大のライバルと言えば、駒大よりも東洋大のイメージの方が強いです。

完全復活が期待されます。

前回に続いて今年も法大の健闘が光りました。

法大は、５６分台のタイムも中々で、順位も６位の好成績ですが、往路がトップから１０分以上遅れてしまったので、繰上げスタートでの復路のレースでした。

順位もタイムも良くて、この位置で繰上げスタート組になってしまうのは違和感が凄いです。

６区一斉スタートはトップから１５分にしてもらえないかと思ってしまいました。

トップ４のタイムのレベルが過去一で高かったのに対して、５位～１７位は例年並み。まあその例年がハイレベルですが。

シードラインが僅かとはいえ１１時間が超えてしまったのは意外でした。

しかし１８位以下はまたタイム爆上げで、２０位が１１時間１０分を余裕で突破する７分台。

２２位までが１１時間１０分切りというとんでもない記録が出ています。

最下位２３位の山梨学大も１１時時間１１分台。あと少し早ければ全チームが１０分切りでした。

上位と下位は異常に速くて中位は普通と、今大会はタイムの傾向がはっきりと分かれていました。

レベルの高いタイムが見れるのは嬉しいですが、どうしても繰上げスタートが絡むので、いつもの年と比べてレース中はパソコンで記録速報を見ている時間が長かったです。

ゴールシーンですら選手よりもテレビ画面の右側の順位表示を見ていました。

繰り上げスタート問題は本当に何とかしてくれないですかね。

・　１区

１万ｍ２７分３８秒を誇る駒大・篠原選手の区間賞で始まった今大会。

篠原選手の区間タイムは６１分０２秒で、区間歴代２位のタイムで区間賞を獲得する活躍でしたが、篠原選手の実力ならば６０分４０秒の区間記録を破るのは堅いと思っていたので、記録は少し残念です。

６１分は１万ｍで２８分ちょうど位の選手が狙うタイムかと思いますので。

先頭集団は駿河台大・レマイヤン選手がハイペースで引っ張っていましたが、最初こそ速かったものの、ムラのあるペースで、いまいち上がり切りませんでした。

１５ｋｍでは区間記録から約４０秒の差になり、最後は単独トップに立った篠原選手がペースを上げて区間記録を追いかけたものの、２２秒届かないというレース展開でした。

篠原選手はレマイヤン選手の前を走った方がむしろタイムを伸ばせた可能性がありますが、しかし前を引くのはそれはそれで精神的にきついでしょう。

やはり１区はエース級が伸び伸びと実力を発揮するのには向かない区間です。

コース自体は簡単なのに難しい。

結果的には篠原選手を１区に使ったのはちょっともったいなかったかも知れません。

しかし、他のオーダーで挑んでも青学大との６分以上の差を埋めるのは難しかったと思いますから、１区に篠原選手を使った事が駒大の敗因ではないでしょう。

青学大は１区荒巻選手が積極的に攻めて、中盤からペースダウンしつつもトップと３５秒差に留めた事。

同じように１区でトップ争いを演じた國學院大のエース格・伊地知選手はトップと１分３３秒差までペースダウンしており、荒巻選手の健闘がわかります、

新巻選手と篠原選手との実力差を考えると、３５秒差で抑えたならば得をしたのはむしろ青学大です。

青学大の１区は好走以外ないんじゃないかってくらいに本当に安定してますね。

・　２区　青学大・黒田選手

中盤までは目立たず、トップを行く駒大・鈴木選手にじりじり離されていくレース展開は、青学大の時期エース格と言われているもののまだ力不足かなと思ったのですが。

とんでもなかったですね。

権太坂以降の２区終盤で強烈なペースアップをして、トップと僅差の２位まで詰めて区間賞を獲得。

箱根駅伝初出場が花の２区区間賞。

１９８３年大会以降の現行２区の歴史で日本人では２人目で、２０１４年大会で早大・高田選手が獲って以来の１０年ぶりの快挙でした。

高田選手の時は区間賞タイムが６８分１８秒で、やや展開に恵まれた感がありましたが、黒田選手は２分１１秒も上を行く６６分０７秒を記録。

シューズの進化を考慮してもとんでもない強さでした。

権太坂～戸塚の終盤部分は特に強くて、２２分３０秒で走破し、留学生を含めても歴代最速です。

２区終盤部分が速かった例としては２０２０年大会の東洋大・相澤選手の２２分４２秒や、非高反発シューズ時代の１９９９年大会、順大・三代選手が出した２２分４３秒が有名ですが、数字の上では黒田選手はそれらを超え、シューズの性能差を考慮しても三代選手に迫ったでしょう。

黒田選手の父親は、かつての法大のエース・黒田将由選手。

父は４年連続１区を走りたいと言っていたスピードランナーでしたが、息子の黒田朝日選手はスタミナ面にも優れたタイプですね。

２区終盤であれだけの走りが出来るなら、５区を走るのもありのような気がします。

来年の起用区間はほぼ確実に２区だとは思いますが、山上りも見てみたいですね。

・　２区

区間賞候補の大本命だった中大・吉居大和選手の失速に驚かされた２区ですが、駒大・鈴木選手が６６分２０秒、國學院大・平林選手も６６分２６秒で走り、６６分３０秒を突破。

前回大会よりも増えて日本人３人が６６分３０秒切りを達成。

前回の２区は出場選手のレベルが特別に高く、その選手達が競り合ったのがプラスになっていたと思いましたが、今大会の３人はそれぞれが別の場所を走っての達成。

明確に前回大会を超えるレベルの２区でした。

早大・山口選手が６６分３１秒を記録して区間４位。

１万ｍ２９分台の選手としては最速の記録です。

しかし、山口選手は５千ｍでもハーフマラソンでも好記録を持っていて、２区ならば６７分前後は出ても全くおかしくない選手です。

早く１万ｍで記録を出して欲しいですね。

５千ｍとハーフの記録から１万ｍならば２８分そこそこはいけると思っていましたが、箱根２区のタイムから予想するともっと上、２７分４５秒辺りは狙えるでしょう。

公式ガイドブックでは持ちタイムが２９分台になっている東洋大・梅崎選手も６６分４５秒の好記録。

こちらも以前の２９分台ランナー最速記録を上回りました。

しかし梅崎選手の持ちタイムは、公式ガイドブックでは２９分台となっていますが、１２月２３日の記録会で２８分３９秒９７を出していて、実際には２９分台ランナーではありません。

普通はチームエントリー後に記録会に出場する事はほとんどないのですが、今回の東洋大の調整は特殊でした。

結果も出ているので、有効なのかも知れませんね。

しかし、多くのチームが同じような事をしてくると、駅伝を予想する者としては大変です。

公式ガイドのタイムがあてにならなくなってしまうのは正直困ります。

前回のような熱い接戦ではありませんが、６７分切りの日本人が５人、留学生まで含めると６人という史上最高レベルの２区でした。

・　３区　青学大・太田選手

毎年箱根駅伝で活躍する「箱根駅伝に愛された男」青学大・太田選手が過去最大の爆走。

他の大会ではそこまで目立つ走りはしておらず、まさに箱根駅伝にすべてをかけた男ですね。

過去２大会はまだ１、２年生だったのにも関わらず、ハイレベルな３区と４区で区間歴代３位（日本人歴代２位）を連発する脅威の走り。

そのレベルを維持して４回の箱根を走り切れば、間違いなく箱根の平地区間における史上最高の実績を残した日本人選手となります。

今大会では２年ぶりに３区に出場した太田選手。

１年時と同等レベルの６１分前後を出せるか注目していました。

しかし今大会に限れば同じ３区を走る駒大・佐藤選手は太田選手以上の実力者。

個人的には３区の記録は１万ｍ２８分で６１分３０秒くらいと考えていますので、１万ｍのベストで２７分２８秒を誇る佐藤選手ならば、力を発揮できれば６０分３０秒切りも狙えると考えていました。

流石の太田選手も、佐藤選手の２２秒後方から追いかけるレース展開はきついのではないかと。

有力選手の走りをテレビで見る際には、画面にあわせてストップウォッチで測っていますが、トップの佐藤選手が走り出すと同時に計測を開始して３区のレースを見始めました。

いくら太田選手でも差を開かれるレース展開を予想していましたが、反対にトップの佐藤選手にじりじりと近づいてくる。

２０２０年大会で東京国際大・ヴィンセント選手が５９分２５秒の超区間新記録で走った時に匹敵するペースで走る太田選手は、７．７ｋｍで佐藤選手を捕えて、終盤に突き放し、まさかの奪首。

１０ｋｍ通過は２７分２６秒だったとか。

下り勾配の３区とはいえ、２０ｋｍ級のレースの１０ｋｍ地点のタイムとしては異常です。

類まれな素質を持っているのは過去２大会でわかりますが、まさかここまでのスピードを持っている選手だったとは思いませんでした。

ヴィンセント選手のペースと比較して７．６ｋｍの藤沢で１秒遅れ、１４．３ｋｍの茅ヶ崎では８秒差。

終盤はやや区間記録から差が開きましたが、区間記録から２２秒差に留める５９分４７秒を記録。

日本人では箱根駅伝史上初の２０ｋｍ以上の平地区間での６０分切りでした。

６０分切りの難度は１区や４区の方がまだ低いと思っていましたが、まさかより難度の高そうな３区で達成したのは衝撃的でした。

おそらくですが、上りが苦手ではなくて２区で同じパフォーマンスを発揮できたとしたら、６５分台前半が狙えるでしょう。

１９９０年代から箱根駅伝にはまっていますが、平地区間の日本人選手に限れば今大会の太田選手の爆走は、今までで最大の衝撃を受けた走りでした。

歴代の名選手では、駒大・田澤選手でもこのレベルの記録は無理でしょうし、早大・渡辺選手が高反発シューズを履いても出ないでしょう。

２区で区間新を出した時の山梨学大・モグス選手が高反発シューズを履いてやっと届くか、というレベルの記録だと思います。

余談ですが、佐藤選手が走り出すと同時にスタートさせたストップウォッチを、間違えて太田選手が襷を渡す瞬間に押してしまい、そこに表示されている１時間００分０９秒の数字に驚愕し、次の瞬間にテレビ画面に５９分４７秒と表示されていて２度びっくりした記録でした。

５９分台は日本人学生には難しいと思っていましたが、軽々と限界を突破してくれました。

佐藤選手も６０分１３秒を記録し、以前の日本人最高記録を４２秒も上回り、ヴィンセント選手の区間記録から４８秒差に留める爆走でした。

このタイムで走って太田選手にトップを奪われるのだから、これはもう不運としか言いようがないです。

青学大と駒大の関係の縮図のような２人でした

エースは２区派の私は、いつもならば、来年の青学大２区は是非太田選手で！と思うところですが、今大会ではそうは感じませんでした。

それは青学大の２区に出場した黒田選手が凄かったというのもありますが、もっと根本的な理由として、もう箱根駅伝のエース区間は３区で良いのではないかと思ってしまったからです。

あの太田蒼生が走ったのだから３区こそが箱根のエース区間、そんな風に考え方が変わってしまうほどの記録でした。

・　真のエース区間？３区について

青学大・太田選手の走りに沸いた３区。

間違いなく今大会で最もレベルの高い走りだったと思います。

かつて、１万ｍ２７分台を持つ日本人選手２人が箱根の同一区間で初対決をした舞台も３区でした。

２００９年大会で行われた初の２７分台対決は、６１分４０秒で走った早大・竹澤選手が、６２分１８秒の東海大・佐藤選手を下しています。

その１５年前の名勝負のタイムを見てから、今大会の太田選手の５９分４７秒と駒大・佐藤選手の６０分１３秒という記録を見ると、まるで２６分台対決の記録ではないかと錯覚しそうになるほどにタイムが伸びています。

箱根の３区といえば、かつてはレベルの高い区間とは言えず、２区のエースと４区の準エースの間を無難に走ってつなぐ区間でした。

その走りやすさから１、２年生が多く起用され、「新人区間」と言われていました。

２００６年大会で４区の距離が短縮し、それまで準エース区間だった４区に代わって、３区が往路第二の勝負どころへと変わっていきます。

２０１７年大会から４区の距離は元に戻りましたが、早い段階で仕掛けて先行逃げ切りを狙う考え方が強まり、序盤区間の３区はコース難度は低くても依然として有力選手が出場するレベルの高い区間として続きました。

２０２０年大会では、東京国際大・ヴィンセント選手が区間記録を２分以上も塗り替える５９分２５秒をマークします。

ちょうど高反発シューズが本格的に普及した年の記録であり、数十秒はシューズの影響もあったとは思いますが、２分以上の更新は驚異的で、他校の監督から「異常だ」という声が出るほどに、明らかにそれまでの選手とは記録のレベルが違いました。

２０２３年大会終了次点では、区間記録と歴代２位記録の間には１分３０秒の大差がありましたが、今大会では日本人選手２人がヴィンセント選手の記録からそれぞれ２２秒差、４８秒差に迫る爆走。

もはや３区の歴代上位記録のレベルは、２区のそれよりも上にくると思います。

箱根駅伝の平地区間で最もレベルの高い記録は、間違いなく３区のヴィンセント選手の５９分２５秒であり、日本人選手ならば３区の太田選手の５９分４７秒でしょう。

３区をエース区間と呼ぶ事に抵抗がある駅伝ファンは多いと思います。

特に私は鶴見で生まれ育っている事もあって、箱根のエース区間が２区以外とは考えられませんでした。

しかしこのレベルの走りを見せられると考え方が根本から変わってしまいます。

新しい時代の学生長距離界のエース達には、２区を走って欲しい気持ちもありますが、それ以上に、ヴィンセント選手や太田選手の記録に挑んで欲しいと思ってしまいました。

・　５区　城西大・山本選手

前回から大きく記録を伸ばして６９分１４秒で２年連続区間賞を獲得した走った山の妖精・山本選手。

前回の７０分０４秒もハイレベルな記録なので、そこから大きくタイムを短縮するのは難しいと思ったのですが、一気に５０秒も上回りました。

初代山の神と言われている順大・今井選手の６９分１２秒に届かなかったと言われていますが、今井選手と比べて約２０ｍ長いコースでの記録です。

タイムでは３、４秒程度余計にかかるので、今井選手のタイムは現在のコースならば６９分１５秒辺りになり、山本選手の方がわずかに速く山を上った事になります。

他の区間よりも多くのコース変更があった５区は、過去の記録との比較が非常に面倒で、ネット上どころか陸上専門誌すらも約２０ｍの距離の違いについては触れていませんでした。

では山本選手は初代山の神を超えたのかというと、もう一つの問題があり、それが２０１０年代後半に起こったいわゆる厚底高反発シューズの普及によるシューズ革命です。

２０２０年からは本格的に高反発シューズ時代に入り、各区間の記録は大きく伸びました。

２代目、３代目の山の神が厚底は登りに不向きと言うコメントをしていますが、２０２０年代に入って５区の記録は明らかに伸びています。

シューズの効果は平地ほどは強くはないかも知れませんが、平地の半分程度と考えても、２０秒～３０秒くらいの記録の伸びはあったと思います。

すると「実質的な今井超え」をするためには６９分１５秒を２０～３０秒は上回る必要があるので、山本選手のタイムは今井選手の記録の価値にはまだちょっと届かなかったと思います。

超えてないようで超えたがやっぱり超えてない、というのが私の結論です。

テレビ放送でもネット上や陸上専門誌でも今井を超えたとは言われていませんが、同じようにここまで考えた結論なのかも知れません。

面倒なので深く考えなかったような気がしなくもないですが・・・。

山本選手は２０．８ｋｍを６９分１４秒で走り切りましたが、１ｋｍ平均３分２０秒で２０．８ｋｍを走ると６９分２０秒なので、１ｋｍ平均２００秒（３分２０秒）切りを達成した事になります。

これは過去には３人の山の神しか達成できなかった事でした。

もっとも、ほぼ同じ距離のまま２０．７ｋｍだったり２０．９ｋｍだったりと距離表示が変わった事もあるので、参考程度ですが。

昔の感覚だと５区の６９分台と２区の６６分台は同等レベルの記録だと思いますが、平地よりも高反発シューズの効果が弱いとすると、５区の６９分台の方が出すのが難しい記録と言えます。

５区６９分１４秒は、おそらく現在の２区ならば６５分台の後半くらいに相当する記録ではないでしょうか。

４人目の山の神に入るところまではあと少し届かなかったと思いますが、山の神を除く歴代のクライマーの中で最も神に迫った男なのは間違いなく、平地区間を含めても箱根駅伝史上最高クラスの日本人選手だと感じました。

・　５区　青学大・若林選手

区間賞からわずか１８秒差の６９分３２秒を出した若林選手もまた５区の歴史に残る爆走でした。

一昨年の１年時に７０分４６秒の快走を見せた選手ですが、２年ぶりの箱根出場で、前回よりも遥かに成長した姿を見せてくれました。

今大会の青学大は２区区間賞デビューの黒田選手、３区でスーパーランを見せた太田選手、４区で一気に２位以下をぶっちぎった佐藤選手と、２区～４区が派手だったので、すでに見えない距離の２位との差を拡大しただけの若林選手の走りはやや地味でしたが、レベルの高さは圧巻でした。

近年は山の神になる条件は今井超えだとされる意見が多いですが、箱根の記録が劇的に伸びる少し前の２０１８年大会までは、７１分を切った記録は、９０年代のスーパーエース・早大の小林選手の７０分２７秒と、初代山の神・順大の今井選手の６９分１２秒という２例しかなく、７０分台＝スーパーエース級、６９分台＝山の神級、という認識の駅伝ファンは多かったと思います。

若林選手の６９分３２秒という記録は、シューズによる伸びとして２０～３０秒をプラスしても、７０分を切った可能性が高かったと思います。

非高反発シューズ時代の６９分台というのは、古い時代からの駅伝ファンにとっては特別な記録です。

城西大・山本選手との区間賞争いは、私の感覚ではほぼ山の神同士の激突という感じがしました。

残念ながら今大会の走りでは、世間は若林選手も山本選手も新たな神としては認識してくれなかったようですが、まだ３年生の若林選手には来年があります。

現時点では山の神３人に次ぐ選手は山本選手だと思いますが、来年の大会を終えたらその地位は若林選手のものになっているかも知れませんね。

来年の大会で、打倒青学大を目指す他校にとって、一番嫌な存在は若林選手になりそうですね。

来年も青学大の２区、３区は黒田選手と太田選手でしょうけど、他校にとってこのコンビは余りにも危険なので、この２区間にはチーム最強の２人をぶつけて対抗するでしょう。

しかし黒田太田コンビが今大会並みのタイムで走るとしたら、それでも劣勢を覚悟しなければなりません。

青学大に序盤から逃げられたら勝負にならないので、その前後の１区と４区も強化しなければならない。

５区まで手が回りにくそうな来年の大会で、６９分半で走れる若林選手の存在は、相対的に他校を最も悩ませるのではないでしょうか。

若林選手並の６９分半という記録を出すには、山の神に匹敵する上りの才能を持つ選手を発掘するか、２区を６６分台前半くらいで走れる走力を持つ選手に上りの練習をさせるしかないでしょうけど、どちらも難しそうです。

来年の最後の箱根では、青学大連覇の切り札になりそうです。

・　６区

１年生の時に５８分４０秒で走った法大３年生・武田選手がベストを５８分０２秒まで伸ばして区間賞。

前回２年生の時の５９分１８秒も悪い記録ではなく、安定感が高いですね。

シューズ効果を１ｋｍ２秒とすれば６区全体では４１秒ちょっと。

武田選手はシューズ効果を抜いても毎回６０分を切っている事になります。

現在の箱根駅伝のレベルでは、６区６０分切りにそれほどの高い価値はないかも知れませんが、かつては４年連続６０分切りと言えば山下りにおける偉業でした。

現在ならばキリの悪い４年連続５９分１９秒切りが、昔の６０分切りと同じくらいの難度かと思いますが、武田選手には来年もこの記録を切って欲しいですね。

区間３位の創価大の１年生・川上選手が、１年生最高記録を更新する５８分１５秒の快走を見せました。

前回大会で駒大の伊藤選手が１年生最高記録を出していますが、その記録を７秒更新。

個人的に川上選手の記録はとても印象的でした。

今までの１年生最高記録とは違い、５８分１５秒は非高反発シューズ時代でも５９分切りに相当するでしょうから。

将来的にどこまで記録を伸ばしてくれるのか楽しみです。

近年は６区で好記録を出して将来が期待される１年生は多いですが、翌年は不発というケースがほとんどです。

川上選手の来年の走りが今から気になります。

・　中大・浦田選手

６区の項目で書くことでもないので別に。

元オリンピックランナー浦田春生選手を父に持つ浦田優斗選手。

初の出場となった箱根路は、山下りを好タイムで駆け抜けて区間５位の活躍。

今大会では、２区区間賞の青学大・黒田選手、國學院大の４区を走った辻原選手も、箱根を沸かせた有力選手を父に持つ２世選手ですが、日本代表にまでなった選手の息子という事で一番のサラブレッド。

３年生なので出場はあと１回ですが、来年は平地区間での走りを是非見てみたいです。

そして走り自体よりも思う事がありました。

それは富田善継選手のいとこだという事。

富田選手とは、浦田春生選手の甥であり中大１年時の１９９９年大会で８区に出場して区間２位。

神奈川大・相馬選手と１年生同士の区間賞争いを演じ、区間３位を１分近く離し、前を行く東海大が区間５位で逃げていたものの、２分差を逆転する破壊力を見せてくれました。

当時中大ファンだった私は、この８区の録画を何度も見ました。

翌シーズンには後に有名になる藤原正和選手が加入しますが、富田選手にも将来のエースとして期待していました。

エースが弱いといわれていた当時の中大。

１年生から平地区間で圧倒的な走りを見せた富田選手に希望を感じていました。

国体優勝の実績を引っさげて中大に入った杉山選手や、駒大・神屋選手、法大・徳本選手らと同学年であり、この文章を書いている人間とも同い年です。

富田選手世代には特別な思い入れがあり、特に中大の選手には期待は大きかった。

結局、富田選手が箱根を走ったのはその１回だけでしたが、その走りは非常に印象的でした。

今年浦田優斗選手の走りをみて色々と当時を思い出していました。

インカレのハーフに出場するというので見に行ったり、そこで中大陸上部の人に話しかけて情報を教えてもらったり、懐かしい。

しかしいとこが四半世紀も過ぎてデビューするとは、随分と歳が離れていますね。

甥っ子じゃなくて？って思ってしまいました。

・　アディダス･エヴォ１

今シーズンではまたシューズの進化が起きたらしいです。

アディダスの新シューズ　アディゼロアディオスプロエヴォ１

金額は８万円以上だそうで、ナイキヴェイパーフライなどと比べても飛びぬけて高価ですが、女子マラソンではこのシューズを着用した選手が驚異的な世界新記録をマーク。

日本の学生長距離でも今シーズンの箱根では、青学大の２区、３区の黒田選手と太田選手、駒大７区の安原選手が着用していたそうです。

エヴォ１は軽量がウリで、２７．０ｃｍのサイズだと１３８ｇ。

高反発シューズの代名詞、ナイキヴェイパーフライネクスト％は、シリーズごとにそれぞれ重さが違い、計測しているサイトごとの誤差もありますが、２７．０ｃｍだと１８０ｇ以上、最も重い例ではネクスト％２の１９３ｇという情報も見つけました。

エヴォ１との差は概ね５０ｇほど。

シューズの重さがタイムに与える影響は、コロラド大学が発表している論文によると１０ｇで０．０７８％の変化があるとの事です。

それが正しければ、５０ｇ軽くなれば１時間で１４秒程度速くなります。

今大会では勝負に大きな影響を与えたとは思えませんが、仮に１０数秒の効果あるとして、それが１０区間積み重なれば２分～３分の差になってしまうので、今後はこのシューズを入手できるかが、勝負の分かれ目になるかも知れません。

今大会で２人が着用していた青学大はアディダスがスポンサーです。

他にはアディダスのサポートを受ける國學院大でも、エースの平林選手に１足提供する話があったとか。平林選手は慣れたシューズでの出場を望んだので、着用はしなかったとの事ですが。

金額も前述の通り８万円以上。

入手困難のため、ネット上で価格は釣り上がり１０数万円で売られているのも見ました。

箱根１０区間の全員が履けば１００万以上かかりますね。

しかもこのシューズは耐久力がフルマラソン１回分しかないそうです。

３万円のヴェイパーフライもフルマラソン数回分の耐久力しかありませんでしたが、エヴォ１は開き直ったかのようにその遥か上を行きました。

以前ヴェイパーフライが普及した時にも、シューズの耐久力や価格を疑問視する声はネット上にありましたが、多くの人は「スポーツはお金がかかるのは仕方ない」と容認していました。

あの時に仕方ないと言っていた人たちは今はどういう気持ちなんでしょうね。

エスカレートするのは目に見えていたと思うのですが。

トレーニング環境を整えるのにも、強力な留学生を連れてくるのにも、大金はかかるでしょうけど、同じ金がかかるではあっても、高価な道具を買えるかどうかで勝負が決まるというのはちょっと違うと思います。

また、希少なので買いたくても売っていない、メーカーからの提供以外には入手できない、なんて事もありえます。

そうなると優秀なシューズメーカーがスポンサーに着いているかどうかが大事になってしまいます。

資金力や優秀なスポンサー、こういう部分も含めて綺麗事を抜きにした真剣勝負だ、と言えなくもないですが、違う条件で選手達が競い合っても、いまいち興味が湧かないのも事実です。

これが車のレースならば道具の優劣が大きな影響を及ぼすのは全然かまわないのですが、陸上競技ですから。

エヴォ１は反発力などの重さ以外の性能がどうなのかは不明なので、本当に速く走れるシューズなのかまだよくわかりません。

エヴォ１着用で７区を走った駒大・安原選手は、前年の７区と比べて５秒タイムを伸ばしていますが、これくらいならば誤差の範囲と言えます。

サンプルがまだまだ少ないので、エヴォ１の本当の性能がわかるのはまだ先でしょう。

２０２０年に８割以上の選手がヴェイパーフライネクスト％を着用し、記録のレベルは劇的に上昇。

特にシードラインの１０位最高記録が１０分伸びたのは衝撃的でしたが、今思えばあれはシューズの効果がわかりやすくて、良かったと思います。

じわじわ普及していったら、シューズ効果がよくわからなくて余計に混乱するところでした。

エヴォ１についても、多くの選手が着用して、そして１０チーム１００人の選手のタイムに影響されるシードラインの記録に変化が出れば、シューズの効果がどれくらいだったのか、ある程度の予想がつきます。

しかし価格もネックだし、入手も困難となると、一気に普及するのは難しいでしょう。

このシューズ、駅伝記録好きとしてはヴェイパーフライ以上にやっかいな問題になるかもと感じました。

理想を言わせてもらうと、エヴォ１を履いてもあまりタイムは変わらなかった、となって欲しいです。

２０２０年大会から数年が経ってやっと心の整理がついてきたのに、また混乱するのは勘弁して欲しい。

箱根駅伝の話に戻る