２０２０年大会感想３

２０２０年大会の感想　（３）

普通の感想です

目次

①　青学大について

 ②　東海大について

 ③　最高の名勝負

 ④　数々の記録

 ⑤　２区のペース配分

 ⑥　東京国際大・ヴィンセント選手

 ⑦　青学大・吉田祐也選手

 ⑧　東海大・名取選手

 ⑨　國學院大・浦野選手

 ⑩　５区　大平台通過タイム

 ⑪　６区について

 ⑫　創価大・嶋津選手

 ⑬　１０区　馬場先門の謎

 ⑭　順位別総合タイムの歴代順位

 ⑮　ＭＶＰ問題

 ⑯　記録速報がない！

⑰　あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイドについて

 ・　青学大について

２年ぶり５回目の総合優勝を飾った青学大。

これでこの６大会の成績は１位、１位、１位、１位、２位、１位となり、近年の箱根駅伝における最強校の地位を不動の物としています。

前回は２位でしたが、今シーズンの全日本が終わるまでは、ほとんどの選手はヴェイパーを履いていませんでした。

もしも青学大が去年からヴェイパーを導入していたら、箱根駅伝１９年大会はどんな結果になっていたか・・・今更ながらに気になります。

１９年大会で他チームが履いていたヴェイパーは第２世代までの物なので、今大会で猛威を振るった、第３世代ヴェイパー程の大きなアドバンテージは他チームにはなかったかも知れませんが。

前回は往路で出遅れてしまい、復路では快走を連発したものの、トップまでは追いつく事はできませんでしたが、今回はしっかりと往路で先手を取って逃げ切る見事な勝利でした。

・　東海大について

優勝候補筆頭にして２連覇を狙っていた東海大は、レース前から復路勝負を掲げていて、結果的には往路で出遅れてしまい、肝心の復路で追いつけませんでした。

東海大程の分厚い戦力を持っているのならば、往路を確実にこなして復路で突き放す作戦を取るのはおかしくはありませんが、前回大会で優勝候補筆頭の青学大が復路を重視して、結果的に往路で出遅れて東海大に敗れているので、皮肉な結果という気がします。

最近の箱根駅伝は、優勝候補筆頭でも往路から積極的に攻めていかないと、総合優勝には手が届かない時代になってきているのでしょう。

東海大は０８年大会でも優勝候補に挙げられていましたが、当時３年生のスーパーエース佐藤悠基選手を復路１０区に配置する作戦だったそうです。

結果は、往路でライバルの駒大に大差をつけられてしまい、急遽７区に投入された佐藤選手の快走を持ってしてもトップに立つ事はできませんでした。

０８年大会は最終的には途中棄権でしたので、準優勝の今回とはずいぶん成績が違うため、歴史は繰り返すとまでは言えませんが、軽く既視感を感じました。

１４年大会の駒大もそうでしたが、優勝候補が復路を重視して失敗するというパターンは結構多いですね。

・　最高の名勝負

２区で同学年のライバル同士の一騎打ち。

両雄が肩を並べて競り合い、超ハイレベルな区間タイムで区間賞を争う。

おそらくは多くの駅伝ファンがずっと見たかったシーンが、ついに今大会で実現しました。

ユニバーシアードのハーフマラソン金メダリストと銅メダリストにあたる、東洋大・相澤選手と東京国際大・伊藤選手が見せた走りは、２区の歴史に残る激闘でした。

かつて、０３年大会の２区で中大・藤原選手と駒大・松下選手の一騎打ちがありましたが、学生長距離界を代表するレベルの同学年のライバル同士が、最終学年で２区で一騎打ちという貴重なシーンでしたが、熱い名勝負という感じではなかったな、というのが本音です。

しかし、今大会の相澤選手と伊藤選手の戦いは違った。

伊藤選手の１３秒後方でスタートした相澤選手が、ライバルに追いついたのは６ｋｍ手前。

２０ｋｍ過ぎまで、１４ｋｍ以上に渡る両選手の意地の張り合いは見応えがあり過ぎました。

厚底シューズショックで今大会では、ぼーっとテレビを眺めていた時間が長かったですが、この２区の対決と、３区の留学生による超爆走は強烈に印象的でした。

伊藤選手は格上の実力を持つ相澤選手との勝負になっても、後ろにつかず、横に並んで走っていたのが凄い。

伊藤選手の区間タイムは６６分１８秒を記録。

ヴェイパー効果は込みですが、すさまじいレベルの記録です。

区間賞の相澤選手から２１秒差に留める健闘の走りでした。

真剣勝負の箱根駅伝ではエグくてもセコくても、１％でも勝つ確率の高い走りをするべきだと思っていました。

つまり伊藤選手は相澤選手の後ろにつくべきだと、以前だったら思ったでしょう。

伊藤選手は全日本２区でハイレベルな走りを見せましたが、その時のタイムから考えると、箱根２区の予想タイムはおそらく６７分前後。

全日本３区で大爆走を見せた相澤選手はあまりにも強く、いくら伊藤選手でも２０ｋｍ級のレースならば１分は差があると思っていました。

しかし今回の直接対決で、伊藤選手は有利であるはずの後ろにつくポジションを捨てて、自分を追い込んで潜在能力を引き出し、相澤選手との差を僅かなものに留めました。

雑誌に「後ろについた方が楽かもしれませんけど、それは自分が弱いと言っているようなもの」という伊藤選手のコメントが載っていますが、この気持ちの強さが素晴らしいです。

単純な損得だけでは図れない、気持ちの強さというはものが、結果に大きな影響を与える。

伊藤選手の走りはそれを教えてくれた気がします。

これこそチームを代表して２区に出場するエースの走りだと感じました。

前回の２区での終盤の失速や、チーム内に強力な留学生がいるため、伊藤選手が２区に出場する事はないと考えていたのですが、大はずれでした。

勝者の相澤選手については、その伊藤選手の後ろから追いついて、終盤になって突き放す完璧な勝利。

６６分突破や、区間新記録はヴェイパー効果が大きいでしょうけど、流石の強さでした。

早いとこ１万ｍのオリンピック参加標準記録である２７分２８秒を切って欲しいですね。

今回の箱根の区間タイムも、全日本３区の区間タイムも、１０ｋｍならば２７分３０秒前後の価値はあるはずですから。

また、相澤選手は全日本大学駅伝１８年大会での８区の成績と合わせて、箱根２区と全日本８区の両区間での区間賞獲得を達成。

これは日本人では早大・渡辺選手以来の快挙です。

しかし、全日本は１８年大会から区間距離の変更がされていて、この年から７区の重要度がアップした事により、８区はエース区間としての価値を落としていたという事実はありますが。

６５分５７秒ＶＳ６６分１８秒という史上空前のレベルでの勝負になった相澤伊藤対決は、２区の歴史の中でも最高レベルのライバル対決と言えるでしょう。

ヴェイパーが１分のメリットをもたらすとしても６６分５７秒　ＶＳ　６７分１８秒。

ヴェイパーの効果が４０秒程度だったら、両者６７分切りだったかも知れません。

これほどのレベルの２人が１対１の直接対決で、長時間競り合ったのは初めての事です。

過去の例と比較すれば、その貴重さが浮き彫りになります。

２０１０年代後半からは６７分台の記録も珍しくなくなってきましたが、以前は６８分を切るのは超一流の証でした。

過去に日本人上位２人が６８分を切った例は９例ありますが、相澤選手たちのような１対１での熱い競り合いはありませんでした。

１例目

０３年大会

中大・藤原選手　６７分３１秒　区間１位

駒大・松下選手　６７分５８秒　区間２位

松下選手の１８秒後に藤原選手がスタート。

７ｋｍ過ぎに追いつき、その後トップ争いを続けます。

２２ｋｍ付近で藤原選手が単独トップに立ち、勝負を決めました。

しかし、この２人は最初から一騎打ちではなく、７ｋｍ過ぎに形成されたトップグループは日大・清水選手、山梨学大・モカンバ選手も含める４人の集団でした。

１５ｋｍで清水選手が遅れ、２１ｋｍあたりではモカンバ選手が離れ、藤原選手と松下選手が１対１の勝負になりますが、その距離は１ｋｍ程度でした。

また松下選手は本調子ではなく、他の選手の後ろにつく事が多かったです。

ちなみにこの２人は、奇しくも相澤選手、伊藤選手と同様に、ユニバーシアードのハーフマラソンで金メダルと銅メダルの獲得者です。

２例目

０７年大会

早大・竹澤選手　６７分４６秒　区間１位

東海大・伊達選手　６７分５９秒　区間２位

伊達選手の４分３３秒後に竹澤選手がスタート。

当然競り合いはありませんでした。

３例目

０８年大会

中央学大・木原選手　６７分４２秒　区間３位

東海大・伊達選手　６７分５０秒　区間４位

木原選手の３０秒後に伊達選手がスタート。

両者とも似たようなペース配分、区間タイムだったので、２人が並ぶ事はありませんでした。

４例目

１１年大会

東海大・村澤選手　６６分５２秒　区間１位

明大・鎧坂選手　６７分３６秒　区間３位

鎧坂選手の２２秒後に村澤選手がスタート。

６６分台を出す事になる村澤選手は、６ｋｍ付近で鎧坂選手に追いつきます。

しかし８ｋｍ過ぎにある横浜駅前の定点では、すでに村澤選手が先行しており、２人が直接対決で競った距離は長くても２ｋｍ程度だったようです。

６８分切りの記録を出す事になる、日本人区間上位２人が、８年ぶりに競り合ったわけですが、マイペースな戦いでした。

５例目

１５年大会

東洋大・服部選手　６７分３２秒　区間１位

城西大・村山選手　６７分４３秒　区間２位

服部選手の１分３９秒後に村山選手がスタート。

この年は６８分を切った選手が５人もいて、服部選手は区間４位の駒大・村山選手（６７分４６秒）等、３人の６８分切りランナーと競り合っていますが、区間２位の選手と並ぶ事はありませんでした。

６例目

１６年大会

東洋大・服部選手　６７分０４秒　区間１位

青学大・一色選手　６７分３５秒　区間３位

一色選手の５３秒後に服部選手がスタート。

６７分切りにあとわずかまで迫った服部選手でも、相手が一色選手では追いつく事はできませんでした。

７例目

１７年大会

神奈川・鈴木選手　６７分１７秒　区間１位

青学大・一色選手　６７分５６秒　区間３位

一色選手の１秒後に鈴木選手がスタート。

２人のすぐ後ろにいた駒大・工藤選手や、近くにいた選手を含めて６人の集団を形成します。

やがて集団の人数は鈴木選手、工藤選手、一色選手の３人になり、１６ｋｍ過ぎには一色選手も遅れます。

その後、鈴木選手が工藤選手を突き放して単独首位へ。

一色選手は終盤に工藤選手を抜き返しています。

鈴木選手と一色選手は長い距離を一緒に走っていましたが、１対１になる場面はありませんでした。

８例目

１８年大会

青学大・森田選手　６７分１５秒　区間１位

東洋大・相澤選手　６７分１８秒　区間３位

相澤選手の２５秒後に森田選手がスタート。

両者６７分１０秒台のハイレベルな戦いでしたが、２人が並ぶ場面はありませんでした。

９例目

１９年大会

順大・塩尻選手　６６分４５秒　区間１位

東洋大・山本選手　６７分３７秒　区間４位

山本選手の２分０５秒後に塩尻選手がスタート。

日本人最高記録をマークした塩尻選手でも、流石に追いつく事はありませんでした。

６８分を切った区間上位２人の日本人が、対抗意識むき出しで今回のように激しく戦った事は過去にはありませんでした。

区間順位についても、過去の例では留学生に上を行かれたり、間に入られたりする事がありましたが、今回の相澤選手と伊藤選手は、拓大・レメティキ選手という強力な留学生を相手にしても、決して２人の間に割って入らせる事はありませんでした。

１位と２位がぶつかり合うからこそ勝負は燃えるのです。

まさに名勝負でした。

個人的には、上記の０３年大会の藤原松下対決の他に、９６年の出雲のアンカーで区間１位と２位の直接対決となった、早大・小林選手と中大・松田選手の戦いを思い出しました。

もしも相澤選手たちのタイムが、ヴェイパーなしで６６分５７秒　ＶＳ　６７分１８秒の勝負だったのならば、現行の２区のコースとなってからの３８大会の歴史の中で最高の名勝負だったと言い切れるんですが、ヴェイパー等の高反発シューズが本格的に普及してきているため、今大会以降の「ヴェイパー時代」と、ヴェイパーが本格的に普及する以前の「非ヴェイパー時代」は分けて考える必要がありそうです。

２０年大会以降をヴェイパー時代として分けると、今大会の相澤伊藤対決は、１大会の歴史の中で最高の勝負だった、となってしまい、スケールダウンです。

２区の新たな伝説となるには、まだ時間が必要です。

これから５年、１０年と、２区の歴史が積み重なっていくに連れて、今大会の２人が見せた名勝負は重みを増していくでしょう。

・　数々の記録

第３世代ヴェイパーの効果は凄まじく、破壊的な記録ラッシュとなりました。

あまりの凄まじさに、もう２０１９年以前の大会と比較するのはナンセンスと感じました。

来年以降は１９年大会以前との比較はあまりやらないつもりです。

２区では青学大・岸本選手が日本人１年生最高記録を１分０１秒更新。

岸本選手　６７分０３秒　（第３世代ヴェイパー）

日本人１年生最高記録　６８分０４秒　（非ヴェイパー）

１年生最高記録　６７分１２秒　（第２世代ヴェイパー）

６７分０３秒まで記録を伸ばしました。

ヴェイパー着用での記録ですが、第３世代ヴェイパー効果を約１分とすると、ヴェイパーなしでも従来の日本人最高記録に届いたかも知れません。

ちなみに、一時的にとはいえ、前回大会で国士大・ヴィンセント選手が出した６７分１２秒を超え、２区史上最速の１年生になりました。

前回のヴィンセント選手もヴェイパー着用だったそうですが、前回大会まで選手が履いていたのは第２世代までのヴェイパー。

今大会の第３世代ヴェイパーとの性能差が気になります。

多分ですが、岸本選手が前回のヴィンセント選手と同じ第２世代ヴェイパーで走ったら、６７分１２秒には届かなかったと思います。

第２世代までは、そこまで超高性能シューズという印象はありませんでしたので。

拓大・レメティキ選手は２区１年生最高記録を５４秒更新する６６分１８秒の驚異的な記録をマーク。

レメティキ選手　６６分１８秒　（第３世代ヴェイパー）

１年生最高記録　６７分１２秒　（第２世代ヴェイパー）

これもヴェイパー間の性能差が気になります。

第２世代と第３世代では性能差は大きいと思いますが、流石に５４秒は変わらないような気がします。

レメティキ選手が２区史上最速の１年生という事で良いのではないでしょうか。

明大・加藤選手もこれまでの２区日本人１年生最高記録を１２秒上回りました。

加藤選手　６７分５２秒　（第３世代ヴェイパー）

日本人１年生最高記録　６８分０４秒　（非ヴェイパー）

これはヴェイパーの効果がなければ上回るのは難しかったでしょう。

國學院大・土方選手は２年連続の６８分切りを達成。これは６７分を１回切るのと同じくらいに難しい記録です。

２０年大会　６７分１９秒　（第３世代ヴェイパー）

１９年大会　６７分５３秒　（第２世代？ヴェイパー）

２年連続の６８分切りは見事ですが、ヴェイパーの世代の進化を考慮すると、３４秒のタイムの伸びは、シューズの効果が大きいと思います。

１９年大会は第１世代か第２世代かわかりませんでしたが、おそらく当時最新の第２世代。

また、第１世代と第２世代の違いは、アッパー部分だそうですから、スピードアップ効果の世代間の差は、ほぼないと思います。

２区では区間上位５人の平均タイムは６６分２８秒４０を記録。

前回の記録６７分０７秒２０を大きく上回り、上位５人平均の最高記録でした。

３区では帝京大・遠藤選手が区間記録を３秒、駒大・田澤選手が区間記録を１秒上回りました。

また田澤選手は１年生最高記録を４７秒も上回りました。

遠藤選手　６１分２３秒　（シューズ不明　ミズノ製らしい）

田澤選手　６１分２５秒　（第３世代ヴェイパー）

区間記録　６１分２６秒　（非ヴェイパー）

１年生最高記録　日本人１年生最高記録　６２分１２秒　（非ヴェイパー）

遠藤選手についてはシューズの種類がわからずコメントしようがありませんが、田澤選手は、ヴェイパー効果を考慮すると、高反発シューズでなければ、区間記録には届かなかったでしょう。

田澤選手は１年生最高記録を４７秒も上回ったので、これはシューズ効果を差し引いても、もしかしたら届いたかも知れません。

東京国際大の１年生・ヴィンセント選手の超爆走により、田澤選手は日本人１年生最高記録保持者となるに留まりました。

ヴィンセント選手については、シューズがなんでも１００％区間新記録は出たでしょう。

４区では國學院大・中西大翔選手が１年生最高記録を２９秒更新。

中西選手　６１分５３秒　（第３世代ヴェイパー）

１年生最高記録　６２分２２秒　（第１世代ヴェイパー）

ヴェイパーの世代間の性能差と、２９秒という更新幅だと、従来の１年生最高記録の方が、価値は少し上じゃないかと。

５区では東洋大・宮下選手、青学大･飯田選手、國學院大・浦野選手が従来の区間記録を上回る。

宮下選手　７０分２５秒　（第３世代ヴェイパー）

飯田選手　７０分４０秒　（第３世代ヴェイパー）

浦野選手　７０分４５秒　（第３世代ヴェイパー）

区間記録　７０分５４秒　（第２世代ヴェイパー）

ここでもヴェイパーの世代間の性能差と、２９秒という微妙な更新幅に悩まされますが、第２世代と第３世代の性能差は、多分３０秒よりは大きいと思います。

おそらく元の区間記録の方が少し価値は上だと思います。

６区では中央学大・武川選手が１年生最高記録を更新。

武川選手　５８分２５秒　（第３世代ヴェイパー）

１年生最高記録　５８分３１秒　（非ヴェイパー）

更新幅は僅かで、第３世代ヴェイパーと非ヴェイパーの比較ですから、これは従来の１年生最高記録の方が価値は上だと思います。

７区では明大・阿部選手が区間記録を更新。

阿部選手　６１分４０秒　（第３世代ヴェイパー）

区間記録　６２分１６秒　（非ヴェイパー）

これも第３世代ヴェイパーと非ヴェイパーの比較になり、３６秒という更新幅ですから、従来の区間記録の方が価値は少し上かも知れません。

７区では他にも、早大・鈴木選手、東海大・松崎選手が１年生最高記録を更新

鈴木選手　６２分５６秒　（第３世代ヴェイパー）

１年生最高記録　６３分２０秒　（非ヴェイパー）

鈴木選手も、６３分０３秒で走った松崎選手も、第３世代ヴェイパー着用ですので、２０秒くらいの更新幅だと、ヴェイパーなしではちょっと及ばないと思います。

ただし、従来の１年生最高記録である６３分２０秒が出た０１年大会の復路は、追い風が吹いていたので、それを考慮する必要はあると思いますが。

１０区では創価大・嶋津選手、帝京大・吉野選手が区間記録を更新。

嶋津選手　６８分４０秒　（非ヴェイパー）

吉野選手　６８分４３秒　（第３世代ヴェイパー）

区間記録　６８分５９秒　（非ヴェイパー）

吉野選手は第３世代ヴェイパーですので、１６秒の更新幅だと、従来の区間記録の方が価値は上だと思います。

区間賞の嶋津選手はヴェイパーではありませんが、ヴェイパーに入っているカーボンプレートとは異なる素材のプレートを使った、ミズノ製の高反発シューズのプロトタイプを着用していたとの情報がありました。

そのシューズの効果がどれくらいかはわかりません。

ミズノのシューズの効果が第３世代ヴェイパーに匹敵するほどの効果があるのならば、１９秒の更新幅では、事実上は従来の区間記録の方が上になると思いますが、効果が低ければ、嶋津選手の記録の方が上になるかも知れません。

・　２区のペース配分

相澤選手と伊藤選手の、鶴見～横浜駅前、横浜駅前～権太坂、権太坂～戸塚、のそれぞれのペースは、以下の通りです。

相澤選手（６５分５７秒）　２３分０７秒　→　２０分０８秒　→　２２分４２秒　

伊藤選手（６６分１８秒）　２３分２０秒　→　２０分０８秒　→　２２分５０秒

パッと見て思うのは最終的な区間タイムの凄まじさに対して、序盤が遅いという事です。

かつての早大・渡辺選手は序盤を２３分０１秒で入り、最終的な区間タイムは６６分４８秒でした。

東海大・村澤選手が６６分５２秒を出した時も、横浜駅前は２３分一桁での通過で、今大会の相澤選手よりも速いです。

相澤選手と伊藤選手は中盤では２０分０８秒を記録し、順大・塩尻選手が前回大会で出した２０分２４秒を軽く超えてきました。

終盤も、相澤選手は２２分４２秒をマークしています。９９年大会の順大・三代選手の２２分４３秒を超えました。

私は昨年　こういうデータ　を公開していますが、１９年大会までのヴェイパーの影響があまり大きくなかった時代のタイムは　もはや目安にならないとは思いますが、無理やり今大会の２人のペースを、過去の平均に当てはめてみると、以下のようになります。

相澤選手　２３分０７秒＝約６６分５３秒ペース　２０分０８秒＝約６５秒３７秒ペース　２２分４２秒＝約６５分１７秒ペース　

伊藤選手　２３分２０秒＝約６７分３１秒ペース　２０分０８秒＝約６５分３７秒ペース　２２分５０秒＝約６５分４０秒ペース

最終的な区間タイムで６５分５７秒の相澤選手は、終盤は６５分１７秒を狙うペースで走っていました。

伊藤選手も最終的な区間タイムが６６分１８秒に対して、中盤のペースは６５分３７秒を狙うペースまで上がっています。

両者とも中盤、終盤が素晴らしいのに対して、序盤の走りが大人しかったのは意外でした。特に相澤選手は横浜駅前を２２分４０秒～５０秒で通過してもおかしくないと思っていたので。

序盤よりも中盤の方が大事になるのは最近の２区の傾向でしたが、終盤までペースが上がってきています。

これも終盤まで足を残せるという評判の、ヴェイパー効果が影響しているのでしょうか。

・　東京国際大・ヴィンセント選手

３区で衝撃の超爆走を見せたイェゴン・ヴィンセント選手。

箱根を走る前までは、他チームの留学生や、チームメイトのムセンビ選手とあまり変わらないレベルかと思っていたのですが、まさか３区で区間記録を２分以上短縮するとは思いませんでした。

ヴィンセント選手も第３世代ヴェイパー着用ですが、まさか６区みたいな６０分切りの記録が見れるとは。

前回大会で青学大の森田選手が出した３区の記録６１分２６秒は、２区ならば６７分を切ってもおかしくないと思える大記録でしたが、ヴィンセント選手の記録ならば２区の６５分切りに相当するのではないでしょうか。

来年はスタミナをつけて、是非２区を走って欲しいです。

そして何より、モグス選手が残した全日本８区のアンタッチャブルレコード５５分３２秒を、どれだけ更新できるかにも注目しています。

今回は３区の距離２１．４ｋｍを５９分２５秒で走ったのですから、全日本８区の１９．７ｋｍに換算すると約５４分４１秒。

下り基調の箱根３区と、上りのある全日本８区のコース難度の違いを考慮すると、予想タイムは５５分前後くらいでしょうか。

ヴェイパーの効果込みとはいえ、すでに更新するポテンシャルはありそうです。

できれば１分以上の更新を期待しています。そうするとヴェイパーなしでも更新できたと思えるので。

今大会のヴィンセント選手のタイムは、ヴェイパー効果を１分とした場合、歴代の大学駅伝の記録の中で、どれくらいのランクなのかを考えました。

まず平地区間最高の記録として、モグス選手の全日本の記録５５分３２秒と比較すると、ヴェイパーありならば今でも更新できそうですが、なしではちょっときつそうです。

特殊区間を含めると、１５年大会の箱根５区で青学大・神野選手が７６分１５秒を出した時に、他の選手を介してモグス選手の全日本のタイムと比較した事がありますが、少し神野選手の方が記録の価値は上という結論が出ているので、この記録にも届かないでしょう。

おそらくは、神野選手とモグス選手に次いで、歴代で３番目。

１２年大会で東洋大・柏原選手が５区を７６分３９秒で走っているので、柏原選手とは同等くらいでしょうか。

１年生のヴィンセント選手にはまだ伸びしろもあるでしょう。

１万ｍでは学生記録の２７分２７秒は当然、２６分台も狙えそうなので、トラックの記録にも期待しています。

・　青学大・吉田祐也選手

圧倒的に強かった青学大ですが、特に４区の吉田祐也選手の爆走は印象的でした。

吉田選手　６０分３０秒　（第３世代ヴェイパー）

区間記録　６０分５４秒　（第２世代ヴェイパー）

ヴェイパーの世代間の性能差と２４秒という更新幅だと、元の区間記録の方が価値は少し上かなと思いますが、それでも４区の６０分３０秒という「タイム」は、２区を走った相澤選手、伊藤選手を別にすれば、箱根駅伝の平地区間において、日本人選手としてはほぼ史上最高レベルのタイムだったといえると思います。

１万ｍのベストは２８分４２秒との事ですが、日本人学生最高記録（２７分３８秒）クラスのベストを持っていても、全く違和感の無い区間タイムでした。

私は今大会でもＭＶＰは優勝したチームの選手に与えられるものと思っていたので、優勝争いにも大きな影響を与えた吉田選手が選ばれなかったのには驚きました。

・　東海大・名取選手

今シーズンの全日本８区で派手な逆転優勝の走りを見せ、今大会の東海大の切り札的存在と見られていた名取選手は、４区で区間２位の走りで５位から４位に順位を上げるに留まり、やや地味な活躍でした。

区間タイムは６２分を突破する６１分３７秒。

ヴェイパー着用とはいえ６１分台は好記録です。

青学大に差を広げられてしまったので、あまり活躍できなかった印象でしたが、走りのレベルは高かったですね。

全日本８区で出した５７分４６秒と比べても、記録の価値は同等くらいだと思います。

発揮しているパフォーマンスはほぼ同じなのに、全日本では派手な大活躍、箱根では地味な走り、と印象が変わってしまう。

こういうところも駅伝の面白さを感じるポイントだと思いました。

・　國學院大・浦野選手

５区で区間３位の成績となり、２年連続区間賞を逃した浦野選手。

区間タイムは７１分を軽く切る７０分４５秒を記録し、５区史上初の２年連続の７１分切りを達成しています。

「山の神」と呼ばれた３人のうち、２代目と３代目の２人は５区の距離が２３ｋｍ超のコースの時代の選手でしたし、初代山の神も２１ｋｍ弱の５区は１回しか走っていませんが、それでも凄い事です。

今回の記録は第３世代ヴェイパー着用での記録ですので、第２世代ヴェイパーを履いて出した前回の７０分５４秒と比べると、前回の方が記録の価値はちょっと上かも知れませんが。

しかし、大平台を２２分０８秒で通過したのは心底驚きました。６９分台どころか６８分台を飛び越えて、６７分台すら狙うような突っ込みでした。

シューズの効果はともかく、序盤からの強烈なハイペースでの突っ込みは、夢を見させてくれる走りでした。

・　５区　大平台通過タイム

５区の序盤のペースをチェックするポイントとなる大平台（７．０ｋｍ）の通過タイムは國學院大・浦野選手を筆頭に、青学大・飯田選手、東洋大・宮下選手、法大・青木選手の４人が２２分１０秒前後を記録。

２区の序盤が不思議なほど遅かったのとは正反対の超ハイペースとなっていました。

かつての山の神・今井選手がこの区間で６９分台を出した時でも２２分２８秒（現在のコースだと約２２分３１秒）、早大・小林選手が５区初の７１分切りを達成した時のペースが２２分４０秒（現在のコースだと約２２分４３秒）になります。

９８年大会～１８年大会まで、最終的な区間タイムで７２分切りを達成したのは８例あります。

このうち６９分そこそこという、神の走りを見せた１例を除けば、すべて７１分台です。

７１分台の好記録で走った７例の、大平台通過タイムは、最も速くて２３分０３秒、最も遅くて２３分３３秒（現在のコースだと約２３分３６秒）でした。

つまり１８年大会までは、大平台を２２分台で通過して、その後も大きくペースダウンせずに好記録を出せるのは、今井選手のような山の神や、小林選手のようなスーパーエースだけでした。

前回大会で、浦野選手、青木選手、東海大・西田選手が大平台を２２分３０秒台で通過するアグレッシブな走りを見せ、３人は最終的な区間タイムも７０分５０秒台～７１分２０秒台でまとめています。

今大会では浦野選手や青木選手は７０分を切る事を公言していますから、また２２分３０秒辺りのタイムで通過する事は予想がつきましたが、まさか２２分１０秒前後とは考えられませんでした。

ここを２２分そこそこで走るのは、はっきり言って異常なペースです。

２２分１０秒前後で大平台を通過した４人のうち、３人はヴェイパーを着用。

第２世代までのヴェイパーは、上りでは効果が弱いと言われていましたが、今大会で多くの選手が使っている第３世代ヴェイパーは、上りでもしっかりと効果を発揮していると感じました。

小田原中継所から大平台までは約３００ｍも上るわけですから。

おそらく、通常のシューズと比べて大平台で２０秒程度のタイムの向上効果はあったのではないでしょうか。

７ｋｍの大平台で２０秒とすれば、ヴェイパーによるタイムの伸びは、５区でも、平地区間と同じくらいの１分程度の効果だったという事になります。

２２分１４秒で大平台を通過した青木選手は、ヴェイパーではありませんが、ミズノ製のシューズのプロトタイプ、おそらくは創価大１０区・嶋津選手と同じシューズを着用していたそうです。

嶋津選手と同じシューズとすると、やはり高反発プレート入りのシューズという事になります。

今大会で、大平台を２２分台で通過した選手は浦野選手を筆頭に８人もいました。

５区の序盤のペースは今後も注目していこうと思います。

まさか、２１分台で通過するのが当たり前の時代になったりして・・・

・　６区について

前回大会で青学大・小野田選手が出した５７分５７秒の大記録を、軽々と超える記録が２つも出た今大会の６区。

今年の山下りについては、前回大会では５８分１２秒で区間３位、今大会では５７分３４秒で区間２位となった、東洋大・今西選手のコメント「一緒に走ったら小野田さんはもっと出たでしょう」がすべてを物語っていると思います。

山下りでもヴェイパーによるタイムの向上効果は間違いなくあったでしょう。

館澤選手　５７分１７秒　（第３世代ヴェイパー）

今西選手　５７分３４秒　（第３世代ヴェイパー）

区間記録　５７分５７秒　（非ヴェイパー）

前回の今西選手　５８分１２秒　（第１世代ヴェイパー）

前回大会で第１世代ヴェイパーを履き、今大会では第３世代ヴェイパーで６区に挑んだ今西選手を基準にすると、第１世代と第２世代の効果をほぼ同じとすれば、第１または第２世代ヴェイパーと、第３世代ヴェイパーの世代間の効果の差は６区では３８秒という事になります。

今大会の６区を制した東海大・館澤選手が出した記録は５７分１７秒ですが、元の区間記録は非ヴェイパーで出された５７分５７秒。

非ヴェイパーを相手に４０秒の更新幅だと、ちょっと微妙かも知れません。

１５００ｍの元日本チャンピオンの館澤選手は、６区を走る選手としては飛びぬけた才能を持つ選手ですから、できればヴェイパーなしでどれくらいの区間タイムを出したか、どんなペース配分をして、過去の名選手とどんな風に違ったのか、それを見たかったです。

８３年大会で日体大・谷口選手が残した５７分４７秒という記録は、その後の３回のコース変更による距離延長の影響で、現代の選手との比較が困難でしたが、今大会の館澤選手と今西選手は、谷口選手の時代の６区よりも長くなった現在のコースで「明確な谷口超え」を果たしました。

６区の過去の名選手には個性的なペース配分をする選手がいました。

前半が速かった例では、９９年大会の神奈川大･中澤選手が５８分０６秒を記録した時に、スタート～小涌園を２６分２９秒、現在のコースだと約２６分３０秒で突っ込んでいます。

逆に後半が速かったのは、駒大・千葉選手で、１１年大会の６区では、小涌園～小田原中継所を３１分０５秒、現在のコースだと約３１分０８秒で走り、５８分１１秒を記録しました。

６区で５７分５０秒台辺りの記録を狙うのならば、絶妙なペース配分が何より大事になると考えています。

しかしそれ以上の、５７分４０秒を切るようなレベルになると、中澤選手並みに前半を突っ込んで、千葉選手並みに後半も粘るという、これまでの６区の常識では、ありえない走りが要求されるわけです。

私はその走りができる夢の山下りランナーの登場にずっと期待していました。

ついに今大会では５７分台中盤以上の大記録を出した選手が２人も現れたわけですが、シューズの効果で達成されると微妙な気持ちというのが本音です。

・　創価大・嶋津選手

１０区で、圧倒的な強さを見せ、シード権争いを全く盛り上げないでケリをつけた嶋津選手。

速過ぎて、テレビカメラが付く前に逆転してシード圏内に入っていました。

もっと遅かったら中央学大や東洋大と競り合いになって盛り上がり、もっとテレビに映ったのではないかと思うと、パフォーマンスが凄いから盛り上がらなかったというのは皮肉ですね。

８区終盤では、「なぜこれほどまでにシード権は激しい争いになるんでしょうか」、９区で創価大が中央学大に離されていくと、「近くて遠い２００ｍを９区１０区で詰める事ができるでしょうか」と、創価大と中央学大の１０位争いは、テレビで散々盛り上げておいて、１０区では気がついたら大逆転していて、すでに勝負はほぼついていた、というのは拍子抜けもいいところです。

しかしアンカーにタスキが渡った時に１分近くも差がついていると、前にいるチームは良い流れに乗って好走し、後ろのチームはもう後がないというプレッシャーでペースを乱して失速、というのが駅伝ではありがちな展開です。

テレビスタッフも嶋津選手があんな爆走をし、逆に中央学大がブレーキを起こすとは考えられないのも仕方ないとは思いますが。

今大会で新たに生まれた区間記録保持者７人の内、唯一ヴェイパーを履いていない選手ですが、ミズノ製の高反発シューズのプロトタイプを着用していたとの事です。

ヴェイパーとの性能差が気になります。

・　１０区　馬場先門の謎

今大会の終盤で

ん？

と違和感を感じた瞬間がありました。

それは嶋津選手の区間記録が６８分４０秒と伝えられた時でした。

これまでの区間記録は６８分５９秒なので、嶋津選手は区間記録を１９秒更新しました。

１０区２０．１ｋｍ地点の馬場先門では、嶋津選手のタイムは区間記録よりも１分近く速い事が伝えられていますが、２３ｋｍのゴール地点では区間記録の更新幅は１９秒。

そんなに終盤にペースを落としていたとは思えませんでした。

３位争いを展開していた帝京大・吉野選手も、区間２位ながら従来の区間記録を上回りましたが、馬場先門の時点では区間記録を４０秒上回っているのに、ゴールでは１６秒の更新に留まっています。

競り合う相手がいなかった嶋津選手はともかく、激しい３位争いをしていた吉野選手までもが、ラスト３ｋｍで大幅にペースを落とすとは考えにくいです。

馬場先門の定点が少し鶴見寄りの場所に変わったのではないかと思い、過去のタイムをピックアップして比較してみました。

０７年大会

７１分１０秒２０

８分４７秒４０

約１２．３５％

２０年大会

６９分０７秒６０

９分０９秒８０

約１３．２５％

従来の区間記録が出た０７年大会と今大会で、区間上位５人の、区間タイムの平均、馬場先門～ゴールまでのタイムの平均、全体に占める割合です。

区間タイムでは今大会の方が圧倒的に速いのに、馬場先門から後は０７年大会の方がずっと上で、馬場先門以降が全体に占める割合では、２つの大会で約０．９％も差が出ています。

やはり今大会から定点が変わったのか？と思ったのですが、念のために０８年大会～１９年大会も調べてみました。

０８年大会

７０分４８秒００

９分１１秒００

約１２．９７％

０９年大会

７１分１８秒４０

９分１６秒４０

約１３．００％

１０年大会

７１分５０秒２０

９分１４秒６０

約１２．８６％

１１年大会

７０分１３秒２０

９分０３秒４０

約１２．８９％

１２年大会

７０分４４秒６０

９分０８秒６０

約１２．９２％

１３年大会

７１分２９秒８０

９分２４秒８０

約１３．１６％

１４年大会

７０分３３秒００

９分１４秒６０

約１３．１０％

１５年大会

７０分１３秒８０

９分０８秒００

約１３．００％

１６年大会

７０分４９秒８０

９分１５秒００

約１３．０５％

１７年大会

７０分２３秒６０

９分１３秒００

約１３．０９％

１８年大会

７１分４２秒８０

９分１１秒２０

約１２．８１％

１９年大会

７０分４０秒８０

９分０９秒４０

約１２．９５％

０８年大会～１９年大会の間では、馬場先門以降が全体の区間タイムの中で占める割合は、約１２．８１％～約１３．１６％にまとまっていて、２０年大会の約１３．２５％は、それよりも少し遅いですが、大きくペースが違うというわけではありません。

しかし、０７年大会の約１２．３５％という数値はかなり異常です。

もしも定点の場所が変わったのならば、それは今大会ではなくて、０８年大会の時ではないかと思います。

ついでに９９年大会～０６年大会も調べてみました。

９９年大会

７２分４４秒２０

９分２７秒８０

約１３．０１％

００年大会

７１分５１秒４０

９分３７秒８０

約１３．４０％

０１年大会

７０分５６秒４０

９分１２秒４０

約１２．９７％

０２年大会

７０分５８秒４０

９分１３秒８０

約１３．００％

０３年大会

７１分３３秒８０

９分１９秒００

約１３．０１％

０４年大会

７１分０６秒８０

９分０７秒２０

約１２．８２％

０５年大会

６９分５２秒６０

９分１４秒６０

約１３．２２％

０６年大会

７１分４８秒４０

９分１１秒００

約１２．７８％

９９年大会～０６年大会でも、００年大会を除けば、１３％から大体プラマイ０．２％くらいの範囲なので、０８年大会以降の数値に近いです。

０８年大会から場所が変わったというよりは、１２．３５％という異様な数値を記録した０７年の１大会だけが、スタッフが場所を間違えたのか、何かトラブル等があって、別の場所で計ったのではないかと思います。

過去の録画を見て比較してみました。

０７年大会からは、トップを独走して６８分５９秒の区間新を出した順大・松瀬選手。

今大会からは、嶋津選手は中々テレビに映っていないので、トップ独走で６９分４８秒の区間５位の成績を残した青学大・湯原選手。

まず馬場先門の定点のタイムを比較すると、松瀬選手６０分２７秒に対して、湯原選手６０分１６秒で、むしろ湯原選手の方が速いです。

馬場先門～ゴールのタイムは、記録速報によると、松瀬選手が８分３２秒、湯原選手が９分３２秒で、ちょうど１分の差があります。

この馬場先門周辺の同じポイントで両者が映っていると比較しやすいのですが、残念ながら見つけられず。

馬場先門の１ｋｍちょっと先にある、京橋交差点を左折する所から計測してみました。

京橋～ゴールのタイムは、松瀬選手が約５分５２秒、湯原選手が約６分１３秒となっています。

これはつまり、馬場先門から京橋までの１ｋｍちょっとで、松瀬選手は湯原選手よりも約３９秒も速かった事を意味しています。

流石にこれはおかしいです。

ほぼ間違いなく、０７年大会の馬場先門のタイム計測ポイントは、今大会と比べて、ゴールに近い場所にあると見て良いでしょう。

０７年大会、２０年大会以外は映像の確認はしていませんが、９９年大会以降はほぼ全部の大会で、馬場先門からゴールまでのタイムが区間タイム全体に占める割合は１３％前後となっていて、大きな変化はないので、おそらくは０７年大会以外の計測ポイントは同じ場所だと思います。

収拾がつかなくなりそうなので、この辺にしておきますが、１０区の他の定点や、他の区間の定点まで本当に正しいのか気になってしまいます。

もしかしたら、今まで気づかなかっただけで、他の区間の定点でも、馬場先門のような定点移動がまれに起きていたりするんでしょうか。

定点は毎年同じ場所にあると信じて疑った事はなかったけど、実は毎年少し違うポイントで計ったタイムを公開していたのでは、と考えてしまうと、過去の大会も含めて駅伝の記録が楽しめなくなってしまいそうです。

・　順位別総合タイムの歴代順位

現在と近い距離と参加チーム数になった０３年大会以降

１位　歴代１位　１０時間４５分２３秒（青学大）　これまでは１５年大会の１０時間４９分２７秒（青学大）

２位　歴代１位　１０時間４８分２５秒（東海大）　これまでは１９年大会の１０時間５５分５０秒（青学大）

３位　歴代１位　１０時間５４分２０秒（國學院大）　これまでは１９年大会の１０時間５８分０３秒（東洋大）

４位　歴代１位　１０時間５４分２３秒（帝京大）　これまでは１９年大会の１１時間０１分０５秒（駒大）

５位　歴代１位　１０時間５４分２７秒（東京国際大）　これまでは１５年大会の１１時間０２分１５秒（早大）

６位　歴代１位　１０時間５４分４６秒（明大）　これまでは１９年大会の１１時間０３分５７秒（法大）

７位　歴代１位　１０時間５７分４３秒（早大）　これまでは１９年大会の１１時間０５分３２秒（國學院大）

８位　歴代１位　１０時間５７分４４秒（駒大）　これまでは１９年大会の１１時間０８分３５秒（順大）

９位　歴代１位　１０時間５８分１７秒（創価大）　これまでは１９年大会の１１時間０９分１０秒（拓大）

１０位　歴代１位　１０時間５９分１１秒（東洋大）　これまでは１９年大会の１１時間０９分２３秒（中央学大）

１１位　歴代１位　１１時間０１分１０秒（中央学大）　これまでは１９年大会の１１時間１０分３９秒（中大）

１２位　歴代１位　１１時間０３分３９秒（中大）　これまでは１９年大会の１１時間１０分３９秒（早大）

１３位　歴代１位　１１時間０４分２８秒（拓大）　これまでは１９年大会の１１時間１２分１７秒（日体大）

１４位　歴代１位　１１時間０６分４５秒（順大）　これまでは１９年大会の１１時間１３分２５秒（日大）

１５位　歴代１位　１１時間０７分２３秒（法大）　これまでは１９年大会の１１時間１４分４２秒（東京国際大）

１６位　歴代１位　１１時間０７分２６秒（神奈川大）　これまでは１９年大会の１１時間１５分５１秒（神奈川大）

１７位　歴代１位　１１時間１０分３２秒（日体大）　これまでは１９年大会の１１時間１６分４２秒（明大）

１８位　歴代１位　１１時間１０分３７秒（日大）　これまでは１９年大会の１１時間１６分５６秒（国士大）

１９位　歴代１位　１１時間１３分３３秒（国士大）　これまでは１９年大会の１１時間１９分４８秒（大東大）

２０位　歴代１位　１１時間１６分１３秒（筑波大）　これまでは１９年大会の１１時間１９分５７秒（城西大）

前回大会は超記録ラッシュで、多くの順位別最高記録が更新されましたが、今大会ではそのすべてを大幅更新。

今大会の１位～２０位がそのまますべて順位別の最高記録になりました。

比較するのが馬鹿らしくなるほどの更新っぷりでした。

前回初めてシードラインが１１時間１０分を突破する、「夢の１０位の１０分切り」が達成されたと思ったら、今大会ではまさかの１１時間切りとなりました。

これを異常と言わないでなにが異常なんでしょうか。

１人の選手がとてつもない記録を出したとしたら、それはその選手個人が、１人が凄かったという事で納得できます。

例えば、２００６年の全日本８区で５６分３１秒という大記録をたたき出した山梨学大・モグス選手は、その１年後の２００７年の全日本では、さらに１分近くタイムを伸ばす５５分３２秒を記録しています。

箱根の優勝タイムが異常なほどに伸びた例も、その優勝チームの１０人が凄かった、実力があって、体調も上手く合わせられた、という事で納得できるでしょう。

２０１１年大会で早大が、現行コースに近い距離では前人未到となる１１時間切りの大会記録、１０時間５９分５１秒を出しました。

その１年後、東洋大が早大の記録を８分以上短縮し、１０時間５１分３６秒まで大会記録を伸ばしました。

過去に大学長距離界ではこういった「ありえない大記録」は意外と出ています。

モグス選手の全日本８区の記録や、東洋大の優勝タイムは、モグス選手１人が凄かった、東洋大の１０人が凄かった、という事で納得できるでしょう。

しかし、シードラインの「ありえない大記録」は１００人が凄くないと出ない記録です。

９０人が凄いだけでは９位のタイムが上がるだけですから。

モグス選手が全日本８区で「ありえない大記録」を出した時、区間２位の選手は普通のタイムでした。

東洋大が大会記録を大幅に更新して「ありえない大記録」でぶっちぎった年、総合２位のチームは当時の常識の範囲のタイムでした。

しかし今大会のシードラインの大幅な高速化は、１０位だけに留まらず、１１位も、１２位も、１３位も「ありえない大記録」です。

これでは多くのチームに共通する何かの要因が絡んでいる、としか考えられません。

高反発シューズの効果もあるだろうけど、高速化は選手の努力の結果だ、という意見も見られます。

今大会について、シューズのおかげでハイレベルな記録が出たと言い切っている意見は、ネット上でもあまり見ません。

しかし私ははっきりと、今大会のレベルの劇的な上昇の要因は、シューズがかなりの部分を占めていたと考えています。

努力したからとか、天候が良かったからとか、そういう物で片付けられる範疇を明らかに超えています。

・　ＭＶＰ問題

ＭＶＰは２区で史上初の６５分台の区間新記録を出した相澤選手が受賞。

０８年大会のモグスＭＶＰ問題の再燃です。

またか・・・という感じです。

前回から、ＭＶＰの選考基準は、優勝したチームの中で優勝に貢献した選手に与えると変わったと思っていたので、尚更おかしく感じます。

まずＭＶＰってなんのか、これは常識的に見て

①個人の成績がもっとも優れていた選手に与える物

②優勝したチームの中で最もチーム成績に貢献した選手に与える物

この①か②のどちらかでしょう。

この２つをごっちゃにしているのも問題で、別々の賞を作ったほうが良いと思いますが、それはともかく、１８年大会までは①と思われるケースが多かったです。

総合優勝チーム内から選ばれた時は、①なのか②なのか、判断が難しいですが、過去の受賞例では、総合優勝チームの選手であっても、総合２位以下のチームの選手であっても、圧倒的にハイレベルな区間タイムを出した選手が選ばれる傾向でした。

しかし前回大会では、総合優勝をした東海大の中で、総合優勝に大きく貢献したと思われる選手が選ばれています。

更にその東海大の中で区間２位の選手も選考対象になっていたと、ネットの記事で見ました。

①のケースで区間２位が選考対象になるわけは無いので、つまり前回は確実に②のパターンだったわけです。

しかし今大会では再び、優勝チーム外から選らばれてしまい、また混迷してきました。

そして冒頭に書いた「モグスＭＶＰ問題」も再燃です。

モグスＭＶＰ問題とは、０８年大会で、山梨学大・モグス選手が２区で２３秒更新する６６分２３秒の区間新記録を樹立したものの、９区で区間記録を３７秒更新する６８分０１秒を出した、中央学大・篠藤選手がＭＶＰを受賞した問題です。

知っての通り、２区と９区は裏返しでほぼ同じ距離です。

２区の方が上りがあってきついコースですが、９区は気温の高さという問題もあり、どちらの区間がタイムが出づらいかははっきりとはしていません。

しかし、６６分２３秒と６８分０１秒でどちらの記録の価値が上かは、誰が見ても明白です。

篠藤選手がＭＶＰを受賞した理由は、２３秒更新した区間新よりも、３７秒更新の区間新を出した方を選んだからだと、その時は説明されていました。

そして今大会では、３区で東京国際大・ヴィンセント選手が桁違いの超爆走を披露。

私は基本的に２区の区間賞選手こそ、その大会のナンバーワンだと思っていますし、今大会の相澤選手の走りのレベルの高さは素晴らしかったけど、ヴィンセント選手よりも上と考えるのはちょっと無理があると思います。

ヴィンセント選手は、全区間で最大となる区間記録の２分０１秒の更新を達成したものの、なぜか区間記録を７秒更新した相澤選手に敗れました。

今回は更新幅については全く言及されていません。

これほどまでに選考基準があいまいだと、この賞は良くわからない基準で選んでいるあんまり価値のない賞ですよ、と自ら宣伝しているのと同じだと思うのですが。

私は、ＭＶＰは日本人に与える賞であってもそれで良いと思っています。

しかし、留学生に与えない事をはっきりとしないまま、あいまいな基準で選び続けるのは問題だと思います。

違う区間の選手同士を比較するのは専門家でも難しいでしょうし、誰を選んでもカドは立つでしょうけど、それならば総合優勝をしたチームの中から最もチームに貢献した選手を選ぶのが、一番わかりやすくて、多くの人が納得できるのではないでしょうか。

箱根駅伝で一番大事なのは総合優勝。これは間違いないんですから。

青学大・原監督が参加チームの監督による投票で決めたら良いのではないかと提案したそうです。

密室で決められていた今までよりも、原監督案の方がずっと良くなると思います。

１８年大会の時なんて、選考委員会を開くまでもなく決まった、と明かされているので、時には密室すらないまま、なんとなく（？）で決まっていたようですから。

でも本当に良いのは、問題の根柢にあるＭＶＰという賞そのものをなくす事だと思いますが。

ＭＶＰが創設された０４年大会。

初代の受賞者となった筑波大の５区・鐘ヶ江選手の受賞理由は、前年に５区で区間新記録を出している東海大・中井選手を破って区間賞を取った事が評価されたからだそうです。

これでは区間記録保持者は最初から不利です。

ＭＶＰは第１回からして平等な選考なんてされていませんでした。

ＭＶＰについてはもう考えたくないので、またしばらくはノータッチです。

・　記録速報がない！

今年の大会で、まず最初に衝撃的だったのが、スマホで公式サイトを隅々まで見ても「記録速報」が見つからなかった事でした。

各中継所や定点のタイムを見る事のできる記録速報は、９７年大会から日テレのサイトで公開されています。

私は当時それを見たくて、ウィンドウズ９５のパソコンを買ってインターネットというものを始めています。

その記録速報ですが、例年ならば早い段階でサイトに表示されるのですが、今年は往路の朝の時点でも見つからず、ついに選手が１区を走り出しても、まだ見つからない。

ついに記録速報は終わってしまったのかと、愕然としていたのですが、１区が終わる間際になって、ブラウザの問題ではと思い、スマホのブラウザの種類を、普段使いのオペラから、クロームに変えてもう一度サイトを見ると、オペラでは表示されていない部分に「記録速報」と書かれていました。

ホッとしたのもつかの間、１区区間賞の創価大・米満選手が渡辺選手の歴代２位記録に並ぶまさかの大激走。

シューズの効果もあるというコメントを聞き、そういえば高校駅伝の１区も異常なハイレベルだったしと、ただならぬ空気を感じ、その後は２区の名勝負や、３区の留学生の走りに熱くなったりもしたけど、今まで見た事のないレベルの異次元の箱根駅伝を、ぼーーーっと眺めていたら、大会が終わっていました。

最初から最後まで異質な大会でした。

・　あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド

１８年大会の時に購入した事がありますが、やっぱりこの本は凄いです。

私はヴェイパーについては、今大会の箱根を見るまではこんなにヤバイ物だとは知りませんでしたが、この本には２年前にすでにヴェイパーの可能性について触れていました。

２０年大会版も、大会終了後に購入しました。

これには前年の１９年大会の全選手が履いていたシューズが載っています。

これからは、駅伝の記録を見るときには、シューズが何なのかは必ず確認する必要があるので、この本の存在は心強いです。

立ち読みで済ませないで毎年買います。

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