箱根2区のペース配分について

今年の19年大会。

順大・塩尻選手が66分45秒を記録し、ついに2区の日本人最高記録は塗り替えられました。

20年・・・長かった。



塩尻選手のペースは中盤の横浜駅前〜権太坂を20分24秒で走破。

それまでの日本人で67分前後で走った選手たちと比べて、中盤でタイムを稼いでいると感じました。

16年大会の東洋大・服部選手や、18年大会の東洋大・相澤選手も中盤がとても速く、最近2区で活躍している選手は中盤を重視しているような気がします。

この中盤重視のペース配分はこの3選手だけの特徴なのか、それとももっと多くの選手たちも行っている最近の流行なのか。

過去のデータを調べてみました。



まず日本人で好走した過去の記録を収集します。

以前は70分を切れば好記録でしたが、最近は70分をちょっと切った程度では通用しない事と、記録の数が多過ぎるため、69分切りの記録のみを集めました。

日テレが定点での計測タイムをネット上に公開し始めたのは97年大会からですが、私は96年大会から放送を録画しているため、96年大会から最新の19年大会までの24大会分、日本人で69分を切った全96例の序盤(鶴見〜横浜)、中盤(横浜〜権太坂)、終盤(権太坂〜戸塚)のタイムを集めました。

長いので別に作りました 表はこちら



24大会を4大会ずつ区切って6期に分けて、時代と共にどう変化したのかを調べました。



96年大会〜99年大会

8例平均

(小数は一部を除き3桁まで)

序盤 23分30秒625

中盤 20分49秒375

終盤 23分37秒375

権太坂通過タイム 44分20秒00

2区区間タイム 67分57秒375

序盤 34.596%

中盤 30.641%

終盤 34.761%



00年大会〜03年大会

10例平均

序盤 23分39秒30

中盤 21分03秒10

終盤 23分46秒30

権太坂通過タイム 44分42秒40

2区区間タイム 68分28秒70

序盤 34.543%

中盤 30.742%

終盤 34.714%



04年大会〜07年大会

10例平均

序盤 23分36秒90

中盤 21分03秒50

終盤 23分44秒70

権太坂通過タイム 44分40秒40

2区区間タイム 68分25秒10

序盤 34.515%

中盤 30.778%

終盤 34.705%



08年大会〜11年大会

23例平均

序盤 23分35秒565

中盤 21分00秒826

終盤 23分44秒565

権太坂通過タイム 44分36秒391

2区区間タイム 68分20秒956

序盤 34.517%

中盤 30.744%

終盤 34.737%



12年大会〜15年大会

19例平均

序盤 23分35秒894

中盤 20分55秒895

終盤 23分45秒421

権太坂通過タイム 44分31秒789

2区区間タイム 68分17秒210

序盤 34.557%

中盤 30.652%

終盤 34.790%



16年大会〜19年大会

26例平均

序盤 23分31秒769

中盤 20分47秒961

終盤 23分40秒346

権太坂通過タイム 44分19秒730

2区区間タイム 68分00秒076

序盤 34.601%

中盤 30.586%

終盤 34.811%





序盤

96年大会〜99年大会 34.596%

00年大会〜03年大会 34.543%

04年大会〜07年大会 34.515%

08年大会〜11年大会 34.517%

12年大会〜15年大会 34.557%

16年大会〜19年大会 34.601%

比率が下がる=そこでタイムを削っている、ですから、その部分を重視していると取れます。

序盤は、90年代から徐々に重要度を上げ、04年〜07年でピークを迎えた後に重要度を下げています。



中盤

96年大会〜99年大会 30.641%

00年大会〜03年大会 30.742%

04年大会〜07年大会 30.778%

08年大会〜11年大会 30.744%

12年大会〜15年大会 30.652%

16年大会〜19年大会 30.586%

今回の主旨である中盤については、序盤とは逆に90年代から徐々に重要度を下げていき、04年〜07年で底を打ちその後反転、最新の16年〜19年でピークになっています。



終盤

96年大会〜99年大会 34.761%

00年大会〜03年大会 34.714%

04年大会〜07年大会 34.705%

08年大会〜11年大会 34.737%

12年大会〜15年大会 34.790%

16年大会〜19年大会 34.811%

序盤と同じく、90年代から重要度を増していって、04年〜07年から反転して重要度を下げるパターンです。



最新の16年〜19年では序盤では34.6%を、終盤では34.8%を超えてしまい、6期の中ではどちらも最低の重要度になっています。

中盤は30.6%を切り、逆に最高の重要度となっています。

序盤と終盤は、ピークから底までは0.1%程度の変化ですが、中盤では底からピークまで0.2%近くも伸びています。

序盤と終盤の重要度を、中盤がまとめて持っていったという感じで、中盤の重要度の変化は結構ドラスティックだったと言えそうです。



ちなみに、16年大会〜19年大会の26例から、服部選手、相澤選手、塩尻選手4年時を抜いた23例の平均です。

序盤 34.581%

中盤 30.591%

終盤 34.826%

これでも中盤は30.6%を切り、26例の平均とあまり変化はありません。6期の中で最高の重要度です。

塩尻選手たちの3例が中盤の重要度を上げていたというよりは、全体の傾向だったと言えそうです。

終盤は26例平均よりも更に重要度を落とします。

序盤については、6期中で96年〜99年よりは上となり、下から2番目に格上げです。26例平均と比べると重要度が少し上がっています。





ついでに、全96例の平均ペース配分を使ってこの配分のまま、区間タイムで70分ジャスト、69分ジャスト、68分ジャスト、67分ジャスト、66分45秒における適正ペースを計算してみました。



全96例の平均ペース配分

序盤34.55731%

中盤30.67851%

終盤34.76417%

(ここでは小数は3桁までだと以下の計算には精度に問題があるので5桁まで使用)



70分ジャスト

序盤 24分11秒407

中盤 21分28秒497

終盤 24分20秒095

権太坂通過タイム 45分39秒904

2区区間タイム 69分59秒999

今年の大会で70分前後で走った中央学大・高橋選手や、山梨学大・永戸選手の、序盤や権太坂通過タイムは上記よりも結構速いです。

69分辺りの、もっと高レベルの記録を狙い、失敗した結果の70分前後だったのではないかと思います。

以前はそこそこの好記録の目安だった70分ですが、現在ではこのタイムを目標にするケースは少ないかも知れません。



69分ジャスト

序盤 23分50秒672

中盤 21分10秒090

終盤 23分59秒236

権太坂通過タイム 45分00秒762

2区区間タイム 68分59秒998

今年は法大・坂東選手や日体大・山口選手が69分ちょっとで走っていますが、やはり序盤と権太坂通過タイムが適正ペースよりも速いです。

今年はシードラインが68分30秒前後で動いていたので、遅れないためには68分台中盤くらいを目指さざるを得ない状況だったのかも知れません。



68分ジャスト

序盤 23分29秒938

中盤 20分51秒683

終盤 23分38秒378

権太坂通過タイム 44分21秒621

2区区間タイム 67分59秒999

今年の2区だと、67分50秒台の國學院大・土方選手や、68分一桁の東海大・湯澤選手は序盤はやや遅めに入っているようです。

同じく68分一桁の駒大・山下選手は23分49秒というスローなタイムになっていますが、これは中継所でのタスキ渡しミスのタイムが含まれている為です。10秒程度のロスがあったようです。

70分ジャストや、69分ジャストの適正ペースと比べて、序盤のペースが落ち着いてきた感じです。



67分ジャスト

序盤 23分09秒203

中盤 20分33秒276

終盤 23分17秒519

権太坂通過タイム 43分42秒479

2区区間タイム 66分59秒998



66分45秒

序盤 23分04秒020

中盤 20分28秒674

終盤 23分12秒305

権太坂通過タイム 43分32秒694

2区区間タイム 66分44秒999

こうして見ると、95年大会と96年大会で、66分50秒前後を2回記録した渡辺選手の横浜駅前通過タイムが23分01秒〜23分02秒なのは、一見とんでもなく飛ばしている序盤重視の配分に見えて、意外と適正なペース配分に近いようです。

逆に99年大会の三代選手が66分46秒を出したときの終盤タイム22分43秒は異常ですね。65分台を狙うときのペースといった感じで、66分台後半を出すためには終盤に偏り過ぎている気がします。



現日本人最高記録ペース

序盤 23分17秒

中盤 20分24秒

終盤 23分04秒

権太坂通過タイム 43分41秒

2区区間タイム 66分45秒

塩尻選手の現日本人最高記録66分45秒のペースは、66分45秒の適正ペースと比較すると、序盤で約13秒遅れ、中盤で約5秒取り戻し約8秒程度の遅れ、終盤でちょうど追いつく、という形になっています。

中盤を20分24秒という超ハイペースで飛ばした塩尻選手ですが、適正ペースと比較すると、意外と中盤よりは終盤でタイムを稼いでいたようです。



あと1ヶ月ちょっとに迫った2020年大会。

主役はもちろん、日本人最高記録を塗り替える可能性を持つ東洋大・相澤選手。

全日本の走りをみると序盤からガンガン攻める走りをする可能性が高そうです。

相澤選手の現在の走力は、これまでの日本人の学生ランナーでは見られなかったレベルにまで高まっています。

常識を覆すスピードで序盤から攻めて、日本人最高記録どころか66分04秒の区間記録まで狙うような走りを期待したいですね。

横浜駅前通過、22分40秒!!!?、というような、驚きを期待したいです。





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