全日本大学駅伝2022年大会の感想
今年の全日本はレベルの高い記録が出て面白かったですね。
追い風の影響もあったとはいえ大会記録は大幅に更新され、5時間11分台から一気に5時間06分台まで伸び、驚異的な大会新記録と言われていましたが、近年の学生長距離のレベルならば、それほど意外な記録ではないと思います。
箱根駅伝では、駅伝ファンびっくりの驚異的な記録がこの10年くらいの間に何度も何度も出ていますが、全日本の記録は意外と伸び悩んでいた印象でした。
高速化の波がやっと全日本にも及んで、学生長距離界のレベルに見合う記録が出たと感じました。
全日本も箱根駅伝も2010年~2011年シーズンを境に高速化しています。
箱根では、2011年大会で早大が10時間59分台、2012年大会で東洋大が10時間51分台、2015年大会で青学大が10時間49分台へと記録を伸ばしました。
近年は高反発シューズ効果で更に加速して現在の大会記録は10時間43分台です。
2010年~2011年シーズンの早大と比べても16分速い記録です。
また、東洋大や2015年の青学大の記録は、5区で山の神がタイムを大きく稼いで出した記録ですが、現在の大会記録は山の神のような特殊な存在なしで出た記録です。
全日本でも箱根と同じ2010年~2011年シーズン(2010年大会)で、早大がそれまでの記録を1分以上更新する、5時間13分台の大会新記録が出ています。
その後も新記録は出ましたが、今大会で更新される前の大会記録は2020年大会の5時間11分台。
高反発シューズが本格普及した後という事を考えると控えめな記録です。
2010年~2011年シーズンの早大を基準にすると、箱根では16分伸びているのに対して、全日本では2分しか伸びていないので、箱根だけが超高速化している印象でした。
箱根の約半分の距離を走る全日本なので、計算上は8分くらい伸びて、5時間05分くらいのタイムが出てもおかしくはないはずです。
流石にここまで計算通りに伸びる事はないかも知れませんが、箱根だけが超高速化しているのは変な感じだったので、追い風とはいえ今回の大会新記録は嬉しく感じます。
次は追い風なしで5時間05分台~06分台くらいを出せるチームを見てみたいですね。
ちなみに私の個人的な感覚ですが、箱根で10時間43分台を出した時の青学大の平地8区間を走った選手が、全日本の8区間で箱根と同じパフォーマンスを発揮したとしたら、5時間06分くらいになると考えています。
全日本を見た感じでは今シーズンの駒大は、最高のパフォーマンスを発揮した青学大とやり合えるレベルだと思います。
箱根では過去8大会で6回優勝、勝った大会はすべて圧勝している青学大ですが、2回優勝を逃した大会はいずれも往路で出遅れての敗北でした。
力を発揮した時の青学大を相手に、真っ向勝負が出来たチームは近年では見当たりません。
今年の駒大ならばやってくれそうな気がします。
個人記録のレベルの高さも凄くて、7区でトップ独走で区間新を出した駒大・田澤選手と、前半は田澤選手を超えるスピードで突っ込んで歴代2位のタイムを出した青学大・近藤選手の戦いは、間違いなく大会の歴史に残る名勝負です。
17.6kmの7区で、田澤選手のタイムは49分38秒、近藤選手は49分52秒を記録し、この区間では他には誰にもできなかった50分切りを達成。
前回はこの区間では日本人初の51分切りを達成した両選手が、1年でまた壁を破りました。
ネット上で勝者である田澤選手の方を称える記事が目立つのは当然ですが、個人的には近藤選手の突っ込みの凄さが印象的でした。
前半から突っ込むと言っても、トップ独走の選手と、トップと2分以上の差で優勝を狙うのはもう難しいという状況の選手では、同じように突っ込んでも後半ペースダウンしやすいのは後者かと思います。
長距離走はメンタルが大事と言われていますから。
しかし近藤選手は5kmを13分49秒(テレビ放送より)と、田澤選手を上回る脅威的なペースで前半を飛ばしても、後半かなりのハイペースを維持し続けました。
10km通過タイムは報じられていませんが、近藤選手が10km地点付近で時計を見たタイミングは28分ちょうどくらいでした。
陸上雑誌によると田澤選手も28分ちょうどで10kmを通過したとか。
今回はスタート位置が違いすぎましたが、箱根では近い位置で襷をもらう可能性も高いかと思います。
箱根ではどんな名勝負を見せてくれるのでしょうか。
今回2人が出したタイム、17.6km49分38秒と49分52秒という、区間タイムの価値をちょっと考えてみます。
このタイムを10kmに換算すると
49分38秒→28分12秒045・・・
49分52秒→28分20秒00
となります。
どちらかと言えば20kmに近い距離を走ってこのスピードは驚異的としか言いようがありません。
10kmと比べて1.76倍の距離があるので、その距離が違う分のタイムを補正してみます。
補正の仕方はこの表を参照
簡単に言うと、昔の学生長距離では5千m14分切り(1km平均2分48秒切り)、1万m29分切り(2分54秒切り)、20km60分切り(3分00秒切り)が有力選手として扱われるタイムでした。
距離が2倍になると1km6秒落ちます。
6秒落ちて2倍ならば、0.01秒落とした時は1.0011559128537・・・倍
これは0.01+0.01を600回繰り返すと6になり、1.0011559128537×1.0011559128537を600回繰り返すとほぼ2になるからです。
No.600の、174秒、10kmを基準にするとわかりやすいです。
1.76倍ちょうどはありませんが、No.1089が17.6kmから7m程度短いだけなのでほぼ同じです。
ペースは178.89秒。
1km4.89秒の違いがあるので、4.89秒×10で48.9秒
この分を補正すると、田澤選手の10km換算28分12秒045・・・は、10kmで力を出し切ったとすると約27分23秒になります。
1万mのベストタイム27分23秒とほぼ同じです。
今回の区間タイムは追い風の中で出された記録なので、実際のパフォーマンスはもう少し下になるかも知れませんが、ベストパフォーマンスにかなり迫るレベルの走りだったのはないでしょうか。
近藤選手は約27分31秒になります。
1万mのベストタイム28分10秒には実力が全然反映されていませんね。
そもそも1万m28分10秒の力の選手が、10km28分20秒ペースで17.6kmの距離を走り切れるわけはないですね。
前回の箱根2区で残した記録は、28分10秒の選手として納得のタイムでしたが、今年は1万mのタイムこそ変わりませんが、実際には大幅に進化しています。
田澤選手は当然、近藤選手も66分前後はいけそうな気がします。
東京国際大・伊藤選手の日本人歴代3位記録が66分18秒
前回の田澤選手のタイムが日本人歴代2位の66分13秒
東洋大・相澤選手の日本人最高記録が65分57秒
東京国際大・ヴィンセント選手の区間記録が65分49秒
66分前後にはターゲットになる記録が多いです。
ちなみに相澤選手が箱根で65分57秒を出したシーズンの全日本の成績は、3区11.9km33分01秒、10kmに換算して、補正を加えると約27分29秒です。
ヴィンセント選手は、箱根で区間新を出した翌シーズンの全日本で、3区11.9kmを32分46秒で走っており、これは10kmだと補正値込みで約27分17秒になります。
今大会は追い風だったので、近藤選手と田澤選手の7区の記録も風の恩恵を受けていますが、7区は3区と比べると時間帯の関係で気温が若干高くなりやすいので、今大会の2人の走力が、過去の爆走した強豪たちよりも大きく劣るレベルという事はないと思います。
田澤選手は箱根では3区出場の可能性もあるようですが、できれば近藤選手と2区で戦って欲しいですね。
3年前の名勝負、相澤伊藤対決は65分57秒と66分18秒で平均66分07秒50という空前絶後のレベルの直接対決でしたが、田澤近藤対決はそれにどこまで迫るか。そして超えてくるのか。
まさかの区間新記録対決にまで発展したり、は流石に妄想が過ぎるでしょうか。
どんなレベルのタイムを見せてくれるか楽しみです。
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